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栄生の余生を永遠に 15

俺は痛くもない右手を庇いながら服を脱いで、衣服を洗濯籠へ放り投げた。
最初に軽くシャワーで身体を流した後、風呂に入った。中はバスボムが入っていて、俄ながらレモンの香りが辺りに広がっていた。
その黄色がかった風呂に肩まで浸かる。軽く湯で顔を洗って、ため息を吐いた。
俺はそれから、思わず手首を眺めた。手首は相も変わらず真っ青になったままだ。だが、痛みも何も感じない。ただ引っ張られた感触があっただけだ。それなのにも関わらず、ここまで青く腫れ上がったその手首を見るだけでも、少々気味が悪くもなるものだ。
だから俺は腫れ上がった手首を軽く触って、黄色いお湯へと、手首を沈めた。まぁ別に痛くもなんともない。お風呂に上がって湿布でもつけてりゃ治るさ、なんて、平然を装うよう努めた。
すると、何やら脱衣所の方からガサゴソと音がする。俺は母かと思い、なんの気も無しに浴槽に足を伸ばし、思い切り身体を伸ばすと、浴室ドアが急にガチャリと開き、俺は飛び跳ねるように浴槽から身体を起こした。
「一緒に入ってもいい?」
そこに現れたのは姫乃だった。
「あぁ…なんだ。姫乃か」
姫乃は既にお風呂に入る準備が万端だったからか、断るも断りきれなかった。
俺が浴槽の中で体育座りをして「隣、入っていいよ」というと、姫乃はゆっくりと頷いて、浴槽に入って、俺の隣で体育座りをした。
「姫乃、髪伸びたな」
姫乃はショートボブスタイルの髪型だったからか、見ない間に首が覆うまで髪が伸びていた。だが、姫乃はあまり見られたくないのか、その首元まである髪を大きく左右に揺らせた。
「二人で入るの、いつぶりだ?」
俺がさり気なく問いかけた時、姫乃も大きくため息を吐いて「いつかも、忘れちゃった」と、そう言った。
俺が浴槽に手を掛けた時、姫乃が俺の手首の痣を発見した。
「お兄ちゃん、それ…」
俺は慌てて隠すように右手をお湯に仕舞った。
「あぁ…!なんでもない、なんでも無いんだよ」
そう言うと姫乃は俺の隠した右の手首を引っ張り上げて、まじまじとその痣を見た。
「これ、どうしたの?」
姫乃が目を大きく開いてそう言うと、俺は一見を誤魔化すように「どうもしないんだよ。本当、何でも無い」と、右手を隠した。
それもそうだ。母と同様で、何者かに掴まれて痣が出来た、なんて、到底言える訳もない。
「誰かに掴まれたの?」
しかし姫乃は何かを悟ったように俺にそう言った。俺はそんな姫乃が少々奇妙にも思えて「なんで…分かったの?」と、そう言うと、姫乃も首を縦に振って、俺に姫乃の右手首を見せつけてきた。
「私も、同じ痣があるから」


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