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太田裕士(as.ss) 岡只良(G) デュオ2020.8.18.長野県伊那市坂下 AMBER

ひょんなことから、このライブ直後に自分が演奏する立場にまわったり、極端な経済的困窮が思考力を奪ったりしたことで、ライブレビューを書くことが困難だった。演奏することと言葉を練ること、メシを食えないことと音楽について考えることがともに成り立つほどぼくは成熟していないということか。気力を振り絞ってみる。

JR伊那市駅を降りて6,7分歩くと、左手に隠れ家のような二重のドアがある。知る人ぞ知るおしゃれなバー、AMBERだ。意外なほど年若いオーナーテンダーと、もうひとりが、むしろサーバントと呼びたくなるような丁寧さで迎えてくれる。凝った作りと素敵なサービスについても書きたくなったが、お店との約束で今回は書けない。それほど奥ゆかしい店なのだ。カクテルもショットのジンもとってもおいしかったことだけは言っておくけれど…

ぼくが到着した時はすでに音合わせも終わっていた。太田が臨時に作られたミュージシャンカウンターで鋭い目で今日の設計をしてている。客は数人、ソーシャルディスタンスを考えて転々と店のあちこちに散らばっている。やがて客の入りをはかっていた太田と岡が楽器をとった。1stステージだ。

I Remember You. ミディアム。ギターからアルト。いつも通り手の合うセッションがはじまる。太田のフレーズ上で音があまるような快速なアドリブは相変わらず、だが、どこか客の反応をはかっているような印象は否めない。ギターがぐいぐいとグルーブしてスウィングする。

Nancy スローバラードから。ギターからアルト、ぼくはあまりの美しさにメモを取ることを忘れて泣いていた。テンポが倍になってさらにフレーズがあふれる。テンポキープしたままギターのパート、かぎりなく美しいバースソロが続いてコーダ、息もつかせずAutumn Leavesがファストビートで始まる。サブトーン気味の音がリー・コニッツを思わせたが、あとでそれを指摘したら、あれはおれの音だよってエライ怒られた。当たり前のことだが。岡のぐいぐいひっぱるウォーキングに太田が天空を駆けるがごとくだ。得意のバースからコーダ。

2ndの始まる直前、フィンガリングの確認をしているだけのようだった岡の様子が少し変だった。インゾーンのような気がしたのはぼくだけだったわけじゃないらしく、太田も急いでフィンガリングを確認している。最初はAlone Together だった。慎重なアンサンブル!でも、どこか太田が引っ張り切れない印象の中、聴衆との疎隔感を、岡の腕力が取り戻した。続いてBody an’ Soul どこかバロック風の組み上げに、ジャズらしくない溶け合わなさを感じたのはぼくだけだったろうか。ブレイクソロは完璧。2nd最後はミディアムファストでI Hear A Rhapsody これぞまさしくバップ!ギターがswingin’ にウォーキングし、あふれるアイディアでソロが続く。アルトもぐいぐいグルーブし、8バースからリフへ。

こうして数日を経ながらすこぶる優秀なふたりのミュージシャンたちとの熱い夜を、記録と記憶をたどりながら、批評をする、といっておこがましければ、ジャズについて書く、ライブレビューを書くという行為そのものにぼくは思いをいたした。ひとはなぜジャズ・音楽をやり、それを聴き、それに関わり続けるのだろう。なぜ表現という営為に関わり続けるのだろう。胸の奥に浮かんだある熱いものを、音楽・表現にまで昇華表象させるのだろう。グルーブとスウィングに酔っているうちはいい。なぜぼくらのように言葉にまでつなぎとめようとする人種が存在するのだろう。3rdステージ、Old ForksからAll the things you are,、黒いオルフェと移っていく音楽に、確かに熱狂しながら、ぼくはふっとそんなことを思っていた。

最終ステージ、オリジナルが二曲続く。Lookin’ for something、十六夜、そうしてI’ve never been in love before…3rd4thとレビューの質が変わったのは、演奏の質が落ちたからではない。むしろふたりともインゾーンといっていいくらいのすこぶるつきの名演だった。ぼくのレビューのスタイルが限界に来たのかもしれない。アンコール、ステラ。高度なレベルでの天才同士のいたわりあいにぼくは胸が熱くなった。

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