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妖の唄ー闇の捕食者に闇の裁きをー



事務所で煙草を吸いながらほくそ笑む男、『飯塚伸次』は自分を救世主だと思っていた。

もはや誰も金を貸してくれない人達へ手を差し伸べるのは私だけなのだから……。
『貸した』のだから、『返して』くれよ。どんな事をしてもな。


どんな事をしても返してもらった。
身体の一部を金に変えたり、
風呂に沈んでもらったり、
海に沈んでもらったり、
問答無用だよ。

いつしか……。
事務所が妙な臭いが立ち込めるようになった。
社員がやたら怪我したり、
落ちてくるはずのない看板が落ちてきたり。

風の噂で街中で黒ずくめの占い師のような男が『払い』まで出来ると聞いた。
社員を使い、探し出すことに成功して、事務所に呼び寄せた。

事務所に来るや否や、黒ずくめのスーツの男は言う。
「よくもまぁ、ここまでやったものですね」
「どういうことだ?」
当然意味がわからずに聞き返す飯塚。
「ここまで人に恨まれる方をわたしは知りません」
「逆恨みだろ、貸したものを返さない輩に恨まれる筋合いは無い」
「そのためには何をしてもいいと?」
「当たり前だろ。返さない方が悪いのだから」
「追い込み、精神を歪めさせ、死に追いやってなお、その身体を金に変えることが正しいと?」
飯塚はすぐさま内ポケットより拳銃を取り出し、麒麟に向ける。
「何故知ってる?お前、何者だ?」
「そんな邪悪な死神のような守銭奴をわたしに救えと?」
「きさまっ!雇い主は俺だぞ」
「雇われて来た訳じゃない。裁かれるところを見に来ただけさ」
「一体何を……?」
「この事務所に入る前に四つ角に呪符を貼って来ました」
「何を言っている??きさま……」
「その呪符は結界では無く……」


「恨みを持ったものを呼ぶ呪符ですから」


「貴様っ、殺す!!」
「裁かれるがいい、彼等に」

響く銃声。額を撃ち抜かれて倒れる麒麟。

「舐めやがって、若造が」

何事も無かったかのように起き上がる麒麟。

「な……きさま……当たったはず」
「当たってませんよ?そんなもの」

麒麟は嗤う。

「では、贖罪の刻を」

旋風と共に消える麒麟。

「クソッ!何なんだアイツは!おい!?代わりの祈祷師でも呼んでこい!」

唐突に響く銃声。
部下に撃たれた飯塚。

「き、きさまぁ!何をしやがる!?」

部下に銃口を向けようとする飯塚へ銃の持ち手を再び撃たれた。
飯塚から銃が落ちる。

「ユルサナイ」

いつもの部下の声では無い。
部下の目は白目を剥いている。
この部屋に充満する妙な唸り声。

飯塚の四方八方から手が飛び出してきて飯塚の肉を毟り取ろうとする。

「ギャアアアアアアアアアア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙」

飯塚の断末魔のような声が事務所中に響き渡る。


事務所外で麒麟は紫煙を燻らす。

「左様なら、地獄の堕ちるといい。悪魔より悪魔な人間よ」

吐き捨てると、麒麟は踵を返した。


[完]

サポートなんてしていただいた日には 小躍り𝑫𝒂𝒏𝒄𝒊𝒏𝒈です。