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#雪化粧 カバー小説 755字


 ゆきけしょう。と、君は言った。

 それはあまりに唐突だったから君が発した不思議な言葉は僕の胸の内をストンと降りてきて意味を理解する間もなく雪のように溶けた。

 冷たく澄んだ空気。
 鈴のような君の声。
 ゆきけしょう。

 君の声の余韻を探しながらオノマトペや言葉の成り立ちについて考え始めていた僕に君が言った。

 「雪化粧、なんのかなあ。」

 君は嬉しそうだった。霜柱を踏みながら楽しげに歩く君は振り返って僕を見た。あなたも嬉しいでしょ? そんな顔をして。僕は言った。

 「そやなあ。」

 雪が降り出していた。
 見上げると厚い雲が空を覆い始めていた。本格的な冬の始まり。僕たちの季節。




 「うちな、〝アイスバーン〟滑るん得意なんや。ガッコ行くときな、密かにタイム計ってんねん。」

 頬を赤く上気させながらアイスバーンの[バーン]を少し強めに言う君は、雪化粧よりもアイスバーン[Eisbahn]になるのを期待しているようだった。明日雪が積もったら、と僕は言った。

 「コカ・コーラばら撒こか。」
 「なんやねんそれ。それで凍ったらアイスバーンちゃうやんか。[コーラ・バーン!]やんか。」

 [コーラ]でぐっと手を曲げて、[バーン!]で両手を上げたノリの良い君を見て、僕は笑った。

 コーラバーン…コーラバーン…。

 語呂が気に入ったらしい君は歌うように僕の数歩先を歩く。

 楽しそうに歩く君の後ろ姿。

 巻いたマフラーにふんわり乗っかる君の後ろ髪に白い雪がチラチラ乗った。

 白髪になったらこんな感じなんかなあ、というのを言うのはやめる。でも、白髪になっても一緒にいたい。それを言っていいものか、迷いながら言えない僕は君に追いついてキスをした。


[おわり]

 書いてて楽しかったです。
 ご企画ありがとう!

 カバー元の小説も素敵です。
 ありがとう!

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