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#悲しいりんご箱 (601字)





 りんご箱に、りんごを、入れた。

 真っ赤なりんごが、箱の中で、甘酸っぱく微笑んだ。

 わたしは、アップルパイになるのよ。わたしは、ジャム! 僕は生で齧られたいな。

 しゃりしゃり、しゃりしゃり、音を立て、りんごは収穫祭を喜んだ。

 秋の空の下、わたしは、上を見上げていた。

 いわし雲が、すうっと流れていくのを見ていた。

 いわしは、群れをなし、夕日にきらめいていた。

 リンゴは、優しく歌ってた。

 〝ポールはいじわる、ヨーコはかわいい、ぼくはリンゴ、スターのリンゴ!〟

 歌詞はどうかと思うけど、リンゴは優しく歌っていた。

 林檎は、優しく笑っていた。

 いつもきれいな林檎。

 リンゴなんかより、よほど林檎のほうが、歌がうまい。

 わたしは言った。

 歌ってよ、林檎姫。

 林檎姫は、笑ってりんごを齧った。

 しゃりしゃり、しゃりしゃり。

 りんごは、幸せそうだった。

 みんなが、幸せそうだった。

 わたしも幸せだった。

 わたしは思った。

 こんな平和が、ずっと続けばいいのに、って。

 秋の収穫祭は、まだ、続くだろう。

 ミサイルに、空爆に、銃弾が、子供を撃つ。

 収穫なのだ、命の、収穫なのだ。

 これに、大義はあるのか?

 一体、誰が、祭りの生贄なのだ。

 命のりんごが腐るほど、なにもかも取り尽くして、一体、誰が、最後に残るのだろうか。

 一体、誰が、この祭りを止めるのだろうか。

 誰でも、いい。

 お願い、とめて



[おわり]

#シロクマ文芸部

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