感謝の想い~1枚の色紙に込められた3年間の旅路~
私は今年で50歳。一つの区切りの年を迎えました。
ふと、これまで50年生きてきた中で一番の宝物は何だろう?と考えた時、真っ先に思い浮かぶ物が一つあります。
それは1枚の色紙です。
人生であの選択をしたからこそ、巡り合うことのできた宝物。そんな私の宝物である1枚の色紙にまつわるお話です。
安定
私は27歳の時に転職をして、地元のIT企業に入社しました。昨今は、働き方改革の影響で長時間労働は減っていますが、当時は、長時間労働が当たり前の時代です。
私も例外ではなく、残業の日々でした。けれども新しい仕事を覚えるのが楽しく、上司や先輩、同僚にも恵まれていたこともあり、仕事が終わったあとの居酒屋で愚痴をこぼしつつも、大きな不満のない会社員生活を送っていました。
そんな会社員生活を過ごしながら、あっという間に時は流れ、入社から10年が経過。私が37歳のあの日、想像を絶する大災害が起こります。
選択
2011年3月11日午後2時46分、東日本大震災。
私は東北から遠く離れた場所に住んでおり、被災したわけではありません。東北地方に友人・知人はおらず、大切な人を失ったわけでもありません。そんな私ですら、あの時の津波の映像は私の人生観を大きく変えました。
「いつ、誰でも、どこでも、大災害にあっても不思議ではない。昨日まで命があるからといって、今日命があるとは限らない。」
もちろん、実際に被災に遭われた方や大切な人を失った方からすると、「経験もしていないのに人生観の何が分かるの?」とお𠮟りを受けるかもわかりません。
しかし、あれから12年以上経過しましたが、大震災前後で私の生き方、考え方が大きく変わったのは紛れもない事実です。
「今日に感謝。周りに感謝。人生一度きり。死ぬときにやり残したことがひとつでも少なくなるように、やりたいことはとりあえずやってみよう」と。
とは言っても何か大それたことを意味しているのではなく、日常のささいなことでも興味をもったら、三日坊主、いや、一日坊主でも構わないのでちょっとやってみるかといった考え方になっていきました。
40歳の時にずっと行きたかった富士山に登りましたし、3年前ぐらいですが、一度は経験してみたかった乗馬の体験もしました。
人によっては、特別な事でも何でもありませんが、面倒くさがり屋の私にとって、以前なら面倒くさがってやらなかったことでも、人生観が変わってからは、特に躊躇することなくやりたいことが出来るようになっていきました。
そんな私ですが、若い時から漠然とではありますが、自分のお店を持ちたいと考えていたことがあります。
「商売へのあこがれ」「お客様と直接の触れ合いが好き」「地元への恩返し」「自分の裁量でやってみたい」etc…
文字にするとこのような理由となりますが、綿密に計画を立てていたわけではありません。
しかし震災後、人生観が変わったからか、心の底から湧き出る想いが日に日に強くなってきているのを感じでいました。
会社員の仕事は、大変ありがたいことに、マネージャー職をやらせて頂けるまで評価を頂いていました。
記事の最初の方で、上司、先輩、同僚に恵まれたと書きましたが、マネージャー時代は、部下に恵まれ、頼りになるメンバーばかりで、相変わらず大きな不満はありませんでした。
もし、この時に大きな不満があれば、すぐ会社を辞めて何も悩まず新しい道に進んでいたのかもしれません。
そうでなかったことが、逆に私を悩ませました。
「やりたいことはやってみる」なら、会社を辞めてお店の経営にチャレンジする以外選択肢はないはずです。
しかし、現実は、心の中の天使や悪魔が叫んでいます。
「これまでお世話になった会社に対して、立場も立場なので簡単に辞めることなんて出来ない!」
「待遇も悪くないのに、あえてそれを捨ててまで辞める必要あるの?」
「一度きりの人生、やりたいことをやってみるんじゃなかったの?」
それまでの人生で一番悩んだのかもしれませんが、それほど時間を掛けずに結論を出すことが出来ました。
短期集中でとことん悩んで結論を出したという感じです。
私は退職する選択をしました。
「会社をやめるなんてもったいない」という声もちらほら聞こえてきましたが、自分の人生は他人のための人生ではなく、自分のための人生なので、周りの声はあまり気にならなかったです。
むしろ応援してくれる人がたくさんいて、それは嬉しかったです。
挑戦
チャレンジしたのは、フランチャイズのお弁当屋さんです。この選択の理由を一言でいうと「理想」と「現実」のバランスを考えたといったところです。
確かにフランチャイズなので、本部が決めたルールに従ってお店を運営していく必要があり、純粋に自分の店とは言い切れない面があります。
しかし、間違いなく新しい人生が始まった瞬間でした。2か月間の研修を経て42歳の冬のことです。
現実はとにかくハードワークでした。調理・接客といった店舗業務はもちろん、発注業務や棚卸業務、近隣への営業や従業員の勤怠管理など、やることだらけです。
そして何より、事業である以上、利益を出していかないといけなかったので、売上、原価、経費をしっかり把握し総合的な業績管理をしていく必要がありました。
これら様々な業務を、従業員のみなさんと役割分担しつつ、ひとつづつ覚えていきました。
会社員時代も連日の残業でヘトヘトになった経験はありましたが、働いた時間数で言えば、軽く会社員時代を上回りました。
辛いこともたくさん経験をしました。
クレーム対応はしんどかったです。店側の不手際によるクレームであれば、もちろん厳粛に受け止めないといけませんが、なかにはあるんです、理不尽なクレームが。
メンタルは鍛えられましたが、できれば経験したくはなかったですね。
従業員と一度大喧嘩もしました。感情的になったらダメと頭ではわかってるつもりでしたが、両者が感情的になってしまいました。会社員時代、リーダー職を何年もやってきましたが、まだまだ反省することばかりです。
しかし改めて振り返ると本当に楽しかったですし、充実感がありました。
私が生まれた時から20代半ばぐらいまで過ごした町での出店ということもあり、昔からの知り合いがお店に買いに来てくれたり、知ってるお宅に配達に行ったこともありました。
配達と言えば、大昔に通っていた幼稚園に配達した時がありまして、その時は、少し感動を覚えました。
配達に伺った際、昔お世話になった先生の名前をお伝えしたところ、その名前をご存じだったようで、一瞬、タイムスリップしたような感覚になりました。
他にも、秋には学区の運動会が開催され、数百個の注文を頂いたことがありました。作業開始は午前2時!そんな時でもパートの方たちが午前3時から出勤してくれたり、絶対朝起きれなさそうな大学生のバイト君たちも頑張って午前5時に出勤してくれたり、会社員時代と同様、本当にいい人ばかりで、我ながら周りに恵まれているなと感じていました。
当時、このフランチャイズ契約は3年契約でした。3年経過ごとに、契約を更新するかどうか決めなければなりません。
仕事は大変でしたが、充実感がありましたし、2店舗目出店のためにお金も貯めていました。おかげさまで、利益もまずまず出ていたこともあり、続けたい気持ちは強かったです。
一方で、今の時代もそうですが、人手不足が深刻で、会社員ではありえない労働時間になっていたことから、健康面で懸念することも出てきていました。
様々な葛藤がありましたが、最終的な結論は、契約の更新をしませんでした。わずか3年でオーナー生活は終わり、会社員に戻る選択をします。
しかし3年間やれることは全力でやりきったし、感謝こそあれ、後悔なんて全くしていません。
宝物
オーナー生活最後の日。
いつも通り朝からお店に出勤。通常の業務に加え、翌日からの引継ぎ業務が加わるなど、いつも以上の忙しさです。朝、お店に向かう際は「今日が最後か・・・」なんて少し感傷に浸ってましたが、仕事が始まると、いつのまにやら、普段と変わらない感覚で働いていました。
しかし、いつもと違うことが1つだけありました。3年間一緒に働いてきたパートの方からプレゼントを頂いたことです。
袋に入ったものはとても薄いものだったので、中身が何か全く分かりませんでした。
その中身が、冒頭でお伝えした1枚の色紙です。
表紙に「お疲れさまでした」と書かれたその色紙は、私の写真のまわりに、最後に一緒に働いた従業員の皆さんの写真にコメントが添えられていたものでした。
確かに数日前、急にレジで写真を撮られた記憶はありましたが、まさかプレゼント用の写真だったとは!!私に内緒でプロジェクトがすすめられていたようです。
この1枚の色紙には、経験、自信、成長、仲間、3年間のすべてが詰まっています。かけがえのない私の宝物となりました。
あの3年間、一緒に働いてくれた従業員の皆さんには感謝の言葉しかありません。
当時も感謝の言葉をお伝えしましたが、あれから5年近く経った2023年、改めて感謝の言葉を述べさせていただきます。
ありがとうございました。
今回、noteで「#あの選択をしたから」という企画を通して、私の宝物をテーマにお話させていただきました。
私はあの選択をしたおかげで、宝物に巡り合うことができました。
価値観は人それぞれ。同じ人でも年齢によって感じることも変わってくると思います。
成功してお金持ちになるのが幸せというのも一つの価値観です。しかし、それは唯一の価値観ではなく、私みたいに、自分のやりたいことをやってみることによって幸せを感じる価値観もあります。
どちらの価値観が正しいという問題ではありません。私の価値観を今回紹介しましたが、価値観なんて人それぞれなので、人にはすすめませんし、まして、「こうやって生きろ」なんて説教じみたことは言いません。
ただしどんな価値観でも、幸せになるためには、行動するという選択をした人のみということは間違いないと思っています。頭の中で考えているだけでは、おそらく何も起こらないでしょう。
これからは変化の時代です。行動すると何かが変化します。そしてワクワクします。
宝物は一つしか持ってはいけないなんていう人生のルールはありません。
新たな宝物を探して、人生後半戦も、挑戦を続けていきたいと思っています。
それにしても私の写真、自分で言うのもなんですが、めっちゃいい笑顔です(笑)
2024年4月25日追記
この記事を元にAI音楽で曲を作ってみました。ぜひお聞きください。
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