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2023.09.28(木) 諸悪の根源はスイッチング!〜「川島隆太著 『オンライン脳 東北大学の実験からわかった危険な大問題』を読んで2〜

 「このダンボール10,000枚、今すぐ作ってくれ!うちが一番オタクの会社から、購入してるんだから、もちろん、対応してくれるよな!工場長」とA社の社長が、いきなり現場に入って来て無理矢理、生産を入れようとする。

 「畏まりました!社長のご意向とならば・・・」

と、工場長がラインを切り替えようとするいなや、

 「うちは10日も前から、注文してるんだ!順番守ってくれないと困るよ!工場長!」

 と、B社の購買係がそれを阻止しようとする。

 「確かに、その通りで御座いますね・・・」

 と、B社に応じる工場長。

 「いやいや、待て待て!こっちはこの間納品された製品に印刷不良があって、使えないんだよ!いわば、クレーム品なんだから、何よりもまず先にやってくれなくては困る!」

 と、C社の品質管理担当者がそれに割って入ると、

 「この度は、誠に申し訳ございませんでした。即刻作り直します・・・」

 と、今度はC社の製品を作ると言い出す始末。

  そこにD社が参戦して、

 「新しく取引させてくれ!最優先で製造するって言うから、注文したのに、この有様は何なんだ!」

 と、資材担当者が文句を飛ばす。

 「うちのが先だ!」

 「当社を優先しろ!」

 「クレーム対応はどうなってるんだ!」

 「話が違うぞ!」

 と、各社が皆、我先に、自社のダンボールを作らせようと躍起になり、現場は大混乱で、あれやこれやの押し問答。すると、

 「あっ、危ない!」

 「ガシャーン!!!」

 と、工場長を攻め立てる、現場の混沌した最中、誰かがぶつかったのか、その機械が倒れてしまった。そして、うんともすんとも言わなくなってしまい、結局その日は一枚もダンボールを製造する事が出来なかった。

 心理学の世界には、「スイッチング」という言葉があります。 これは、パソコン作業とSNSの並行利用が与える悪影響の研究から生まれた概念です。「何かに集中しているとき妨害が入り、別のことをやり始めること」が何度も繰り返されて、Iつのことに集中する時間が極端に短くなる現象(状態)をいいます。

 スイッチングが多くなれば多くなるほど注意力が散漫になっていくことが、データとして示されています。

「川島隆太著 『オンライン脳 東北大学の実験からわかった危険な大問題』 P.84より引用」

 脳には切替時間が必要で、 さっきまでやっていた作業に残っている状態を専門用語で注意残余 (attentio residue) と呼ぶ。

 集中する先を切り替えた後、 再び元の作業に100%集中できるまでには何分も時間がかかるという。

「アンデッシュハンセン著 『スマホ脳』P.73より引用」

 五つから七つのワーキングメモリが飽和状態になると、脳のネットワークがうまく働かなくなり、 作業効率の悪化やミスを招きます。

「長谷川嘉哉著 『一生使える脳 専門医が教える40代からの新健康常識』P.76より引用」

 スイッチングを繰り返すことにより、注意残余が増えていきます。ちょうど、プリンターにおいて、未完の印刷ジョブが溜まっていくように。それが一杯になってしまうと、容量が圧迫され、動作が鈍くなったり、フリーズして印刷出来なくなってしまいます。

 それは、人間も一緒です。思考するために、情報を一時保管するキャパ、すなわち、ワーキングメモリは5〜7つ程度しかないと言われています。しかも、1つの作業をするためには、膨大な情報量を必要としますから、上手に解放していかなければ、あっという間にパンクしてしまうのです。

 冒頭の寸劇は、脳をダンボール工場に見立て、集中する事を製造する事に例えています。そして、周囲の人間達からの矢継ぎ早な発言にスイッチングを繰り返す事を、生産ラインの切り替えととして表現し、その影響で最終的には脳がフリーズしてしまう事を、工場設備の破損という形で表してみました。

 実際は、営業担当者がおりますので、得意先が直接、工場長に働き掛けるという事は、もちろんありませんし、ましてや製造の現場に容易く入れる訳でもございません。ストーリーを簡略化するための演出で、このようにさせて頂きました。予め、ご了承ください。

 スイッチングにより、脳がフリーズしてしまう危険性があるという事をご理解して頂いたと思いますが、恐ろしいのはここからです。長期的にフリーズを繰り返した脳は、いったいその後どうなってしまうのでしょうか?興味深いデータが著書には記載されてありました。

 私たちは、仙台市の 5〜18歳の児童生徒224名を対象に3年間、脳の発達の様子をMRIで観察しました。

 インターネット習慣がない、または少ない子どもたちは、3年間で大脳灰白質の体積が増加していました。ほぼ毎日インターネットを使う子ともたちは、増加の平均値がゼロに近く、恐ろしいことに、ほとんど発達が止まっていたのです。

「川島隆太著 『オンライン脳 東北大学の実験からわかった危険な大問題』 P.93より引用」

 成長期の子供の脳が発達していないという驚愕の事実。これに加えて、著書ではスマホ依存の大学生に、脳の老化サインが出ていたという事も指摘されていました。一般的に、記憶力が最もいいと言われている、人生で一番成長する重要な時期に、止まる、それどころか脳の劣化が始まっているというのです。

 このような成長の阻害から、そして脳の老化から免れるためにも、スイッチングを避ける事は必須であり、そのために重要な事は、スマホとTVとの付き合い方です。なぜならば、その二つは、最もスイッチングを誘発しやすいデバイスだからです。

 LINEやFacebook、Instagramや旧Twitter。YouTubeにTikTok、Yahooニュースにメール。あらゆるアプリから、フォローしている人からの発信やら、視聴履歴に基づくレコメンドやら、友人からのメッセージ等々、あなたの注意を引こうと次から次へと刺客を放って来ます。どれもこれも魅力的で、ついにあなたの集中は削がれてしまい、Instagram を開いてしてしまいます。その間に、LINEで友人からメッセージが来ては返信をしてしまいますし、今度はLINEの中のショート動画に気を取られてしまいます。そうこうしているうちに、ニュースサイトが気になり始め、ネットサーフィンに走ってしまう。そんな経験は、誰しもお持ちでしょう。

 TVも同様です。

 脳が処理している情報のうち八割以上は、視覚を通して集められています。

「長谷川嘉哉著 『一生使える脳 専門医が教える40代からの新健康常識』P.162より引用」

 立て続けに情報のシャワーを浴びせ続けるのが、TVというものです。ストーリーの本筋以外にも、出演者の服装や髪型、登場する食べ物や、背景等々、映し出される情報は多岐に渡ります。加えて、間に挟み込まれるCMは、少ない時間で印象に残そうと、強い光と大きな音で、ドーパミンを放出させんと、入念に仕組まれています。私達が目移りしてしまうのは、避けられようがありません。

 パソコンやモニタでゲームをすると、一般に脳の「前頭前野」の働きに抑制がかかってしまうという不思議なことが起こります。

 安静にするときよりも活動量が低下する前頭前野の強い「抑制現象」が生じたのです。

 テレビ番組の視聴中にも、番組とは無関係に、ゲームの場合と同じ抑制現象が生じました。

「川島隆太著 『オンライン脳 東北大学の実験からわかった危険な大問題』 P.51より引用」

 このように、映像を断続的に送り続けるTVによって、脳のワーキングメモリは一杯になってしまいます。それにより前頭前野の抑制現象、すなわちフリーズが引き起こされてしまい、最終的には脳の老化に繋がってしまうというのです。

 では、いったい具体的に、どのようにスマホやTVと付き合っていけばよいのでしょうか?

 私たちの推計によると、1日に1時間程度のテレビ視聴やゲーム使用が子どもの発達に与える影響は、まったくテレビを観ない・ゲームをしないのと変わらないことが示されています。一方、1日2時間を超えると、子どもの発達や学習時間への負の影響が飛躍的に大きくなることも明らかになっています。

「中室牧子著 『学力の経済学』 P.60より引用」

 子供の学力を調査したデータが、ヒントになります。スマホ操作や、TV視聴といった、いわゆるスクリーンタイムは、1日1時間程度に留めておくのが、脳の成長を阻害せず、また老化も促進しない、一つの目安となると言えるのではないでしょうか?

 来月で70歳を迎える、両親へ

 お父さん、お母さん、お誕生日おめでとうございます。先日は、遠方からわざわざ函館まで来て頂き、誠にありがとうございました。3歳の娘も、おじいちゃんとおばあちゃんに、運動会を見てもらった事が、非常に嬉しそうでした。是非とも来年もお越しください。

 さて、今はまだ保育園に通っている彼女も、小学、中学、高校、大学と進学していき、やがては成人式、そして結婚式と続いていきます。その晴れの姿を、ご覧になって頂きたいのですが、成人式を迎える頃には、お二人とも90歳近くと大分高齢になってしまいます。そこで、私が心配しているのは、健康、その一言に尽きます。

 テレビが好きだからと、よく話されておりますが、その危険性をキチンと認識しておりますか?よもや認知症なんて、自分が絶対に罹るわけがない、そんな風に思っているのではないでしょうか?得てして、人間は自分の能力を過信しがちですので、そう考えるのも無理はないでしょう。

 失って初めて、その大切さを理解するとは良く言いますが、認知症は、記憶を失っても、それ自体にすら気付かない、恐ろしい病気です。私の祖父がそうだったように。そして、その祖父も寝床でボーッと、TVをよく見ていたものでした。

 より長く、娘との時間を過ごして貰いたい、その為に、過激ですが、敢えて言わせて頂きます。

 TV視聴を辞めますか?それとも自我を捨てますか?

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