始祖の幻影を文字にする【1】

〇ためらうことなく、躊躇することなく、全身にエネルギーを与えて前進し、或いは、有効指数を計算した、今朝のことを思い出すなど、我々は日々、考えている、その考えというものが、どこまで考えかは、始祖に聞かねばなるまいが、この本小説において、始祖はもう死んでしまい、言葉を発さない状況であるから、何とも困った話なのではあるが、始祖の幻影を追うことはできる。始祖が残した言葉、聞いた言葉を書物にすることが、俺に明示された標的であるのだ。

〇しかし同時に、俺は俺のために、始祖の幻影を追うのか、他者のために幻影を追うのか、その判別がつかない状況下であって、それが通常の常態化した生活というものだ。何せ、始祖が文字にして書物にしていてくれれば、俺もこんな、或る種の苦悩作業をする必要もないのだが、決めたのだから、俺は、残した言葉、聞いた言葉を、拾い上げねばならなくなったのは、非常に厄介なことなのである。

〇さて、始祖へと送った俺の言の葉は、つい最近、遺品の整理から無数に出て来た。幼い俺が書いた、俺の始祖への言葉が、歪んだ筆記体で、手紙として残っている。始祖がそれらを持っていたという事実が、俺にこの文章を書かせる原動力になってはいるのだが、しかし、そこに、始祖の返事は書かれていないものだから、始祖の幻影を文字にする、第一手法は、見つからなかったという訳である。そうなると最早、全てが幻影の様に思えて来て、落胆しながら、首を垂れて、道を歩く始末だ。

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