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冷やし肉南蛮蕎麦の名店『角萬』5店舗を食べ歩く。

『角萬』は東京の浅草近辺を中心に5つの店舗が存在する蕎麦屋。店のシグニチャーメニューは、「冷やし肉南蛮」(通称:ヒヤニク)。ボリュームたっぷりの極太蕎麦にぶっかけ用のつゆをかけて、豚肉、ネギを乗せた豪快な蕎麦だ。特大ボリュームとインパクト抜群のビジュアルから、ネット上では「蕎麦界のラーメン二郎」という異名で呼ばれていたりもする。

実のところ、僕はつい最近まで一度も角萬に行ったことがなかった。非常に有名な店であるため、以前から認識はしていたし、下町エリアで人気のボリューム系蕎麦という異質な存在感に興味をそそられてもいた…が、「蕎麦界のラーメン二郎」という、やや安直なフレーズに対し、ほんの少し忌避感を覚えてしまっていたのと、「肉」と「蕎麦」という組み合わせ的に美味しさの程度が想像できる感じがして、食指が動かずにいた…。

しかし先日、浅草方面に用事があった際に何故か角萬の存在が頭にちらつき、浅草角萬で冷やし肉南蛮を食べてみることにした。するとこれが自分の予想を遥かに上回る美味さで、正直、度肝を抜かれた。単なるボリューム系蕎麦として色モノ的な評価に留めておくにはもったいない、麺料理としての完成度の高さに感動し、一瞬にしてその味のファンになってしまった…そこですぐさま、これまでの不勉強を反省し、『角萬』巡りをすることにした。浅草、梅田、向島、本郷、入谷の全5店舗。各店のメニューや盛り付けに共通点はあるが、実際に食べてみると、味にかなりの違いがある。各店の味の印象をここに記録しておく。

なお、角萬はチェーン店ではないのでグループのウェブサイト等は存在しない。各店舗の関係については『角萬 梅田』のInstagramに記載があり、「台東区の竜泉に本店(すでに閉店)があり、浅草、向島、梅田は暖簾分け、本郷は昔は暖簾分けだったが今は別の人がやっている、入谷は全く関係がない」という旨が書かれている。この記載を読んでもなお、「本郷で店をやっている別の人とは誰なのか?」「入谷は全く関係ないのになぜ同じ店名で同じメニューを出しているのか?」などの謎が残る…。

(参考)『角萬 梅田』Instagramアカウント


1.浅草角萬(台東区浅草)

浅草角萬 外観


浅草寺から北に歩いて10分弱のところにある。数年前にオープンしたようで、店はかなり清潔な印象。

冷やし肉南ばん 1050円

この冷やし肉南ばんが最高に美味しかった。

まず、太麺が良い。ラーメン二郎を引き合いに出す指摘がよく見受けられるが、ラーメンの麺らしいもちもちとした食感は殆ど無い。そしてもちろん、日本蕎麦らしいつるっとした喉越しも無い。噛みごたえがあり、噛むほどに蕎麦の香りがほどよく感じられる。麺の雰囲気としては、ラーメン二郎よりも、武蔵野うどんに近い印象。

ツユは関東風だが、魚介のダシの香りがかなりストレートに立っており、蕎麦ツユらしからぬインパクトがある。

そして何と言っても、半端なき麺とツユの馴染み方。冷やしでありながらも、一口目から麺とツユがおそろしいほど良く絡んでいる。それどころか、麺にツユが染み込んでいるかのような感覚すらある。麺とツユの調和、この神懸かり的なバランスこそが、浅草角萬を至高の存在たらしめている。

具は少し分厚い豚肉と大きめに切ったネギ。肉自体にそこまで旨味はないが、脂がツユと絡み、ジャンクな味わいを演出している。ネギは臭みがなく、食感のアクセントを生んでいるが、個人的には肉とネギよりもツユと麺のバランスが肝となっているように見受けられる。なんなら、かけそばでも十分美味しいんじゃないかと思う。

自分としては、この浅草角萬が5店舗の中でナンバーワンだった。

2.角萬 梅田(足立区梅田)

角萬 梅田 外観

リニューアルして間もないため、店の中はかなり綺麗。ファミリー客の多さが目立った。

冷し肉なん 1150円

麺は浅草以上に太く、噛みごたえが強い。浅草同様、噛むほどに蕎麦の香りが際立つ。

ツユは浅草にかなり近い印象だが、ダシよりも醤油の甘さが引き立っている。具材の肉の旨みがしっかりとツユに溶け込んでいるように感じられた。

同じ暖簾分け店舗であるせいか、全体的な味の印象は浅草にかなり近い。個人的には全5店舗の中で浅草に次ぐ美味しさ。

ちなみにこちらでは、ツユと麺を別にして食べる「汁別」という武蔵野うどんの肉汁うどんライクなスタイルが選択できる。


3.角萬 向島店(墨田区向島)

角萬 向島店 外観

建物全体に植物がからまって、看板まで侵食している。角萬の中でも最もいなたいビジュアルの店構え。

肉南ばん(冷やし) 1200円

向島の特徴は何と言っても、麺のボリューム。全店舗の中で断トツの量で、体感としては梅田、浅草の1.5倍位はあった気がする。

麺は極太、激硬。蕎麦の香りは他の店舗と比べてもかなり控えめで、限りなく武蔵野うどんに近い印象。

ツユはダシの味わいがかなり控えめで、砂糖のような甘さが一際立っている。

下町エリアのボリューム系蕎麦というアミューズメント要素を重視するなら、ロケーション的にも、量的にも向島店が一番満足度が高いだろう。ただ、ツユの美味しさや麺とツユの馴染み方を考えると、個人的な味の好みとしては浅草、梅田の2店が勝る。


4.角萬 本郷店(文京区本郷)

角萬 本郷店 外観

平日のみ営業、しかも臨時休業の日が多いので食べるのがとても難しい店。僕は3回振られて4回目でやっと食べることができた。

本郷は他店と異なり、冷やし肉南蛮ではなく、冷やしきつねが看板メニューである。さらに、他の角萬と比べて、ちんまりとした印象のビジュアルからか、ファンからも、ちょっと別枠のような扱いを受けているように思える。僕も食べる前はほとんど期待しておらず、全店制覇するためにスタンプラリー感覚で訪問してみたのだが、これが思わぬ伏兵で、非常にインパクトのある蕎麦だった。

冷しきつね 650円

一般的な蕎麦よりほんの少し太い麺。武蔵野うどんのような極太麺がウリの角萬の中では完全に異質といえる。麺はしっかり締められており、とても冷たい。そして一口食べた瞬間に驚愕したのだが、地味な見た目とは裏腹に、恐ろしいほど硬く、噛みごたえがある。博多ラーメンのバリカタ(ちなみに僕はアンチバリカタ)とは違う、武蔵野うどんや吉田のうどんなどの太麺のような硬さ。こんなに細くてインパクトのある硬さの麺はとても珍しい。また、浅草と同じくらい蕎麦の香りがしっかり味わえることも付け加えておきたい。

ツユはダシと醤油のバランスがとれた甘辛味。インパクトは控えめだが、麺とほどよく絡んで美味しい。

きつねはしっかりツユに浸かったザックリとした重量感のあるタイプ。

そして、良い仕事をしているのが天かす。硬めの麺に負けないほど異様な硬さを誇る天かすがツユに油分を加えてパンチを生み出している。この天かすの功績を考慮すると、この蕎麦はきつね蕎麦ではなく、きつねと天かすがダブル主役のむじな蕎麦といってもいいかもしれない。

見た目こそ、他の角萬とは大きく異なるが、とても角萬らしい美味しさが感じられる。この店は間違いなく、角萬だ。


5.角萬(台東区入谷)

角萬 店舗入口

『角萬 梅田』のInstagramによると、他の角萬と無関係であるという入谷の角萬。入り口には年季の入った木製の看板が掲げられている。

冷やし肉南 1050円

麺は浅草よりかなり太くて硬い。蕎麦の香りはかなり控えめ。

ツユは浅草、梅田とも近いが、それらよりもやや甘い印象。節系のダシがしっかり効いていてかなり美味い。ツユ単体で評価するなら、一番好みかもしれない。

豚はちゃんとした厚みのある肉が程よくら茹でられてあり、ぷりぷりとしてうまい。

他の店舗とは無関係だそうだが、味は間違いなく角萬の味であり、かなり美味い。浅草や梅田と比較すると麺とツユの馴染み具合が足りない気がするが、麺もツユも具もそれぞれ単体で魅力が感じられる。


まとめ

店舗同士の繋がりが有るんだか無いんだかよく分からない謎の関係性や、5店舗それぞれ味に個性があることなど、とにかく不思議な魅力がある角萬。

個人的にベスト3を挙げると、①浅草②梅田③本郷、となる。

色々と口コミを掘ってみた限りでは、向島をベストに挙げている人が多い気がするが、僕にとって浅草の美味しさは本当に衝撃的だった。とにかく麺とツユの馴染み方が素晴らしいので、角萬が気になっている人にはぜひ一度、浅草を試してほしい。また、武蔵野うどんと非常に似た感覚の食べ物であるため、蕎麦好きだけでなく、うどん好きにもアピールする料理だと思う。うどん好きで、もし、まだ食べたことがない人がいたら、是非ともチェックしてほしい。