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透明だった私へ

 透明だからこそ輝きが増す。なぜなら人は光っているものに引き寄せられるから。でも近づきすぎると、眩しく感じるものである。自分で目をつぶればいいものの、逆にその光を必死に隠そうとする人がいる。それが差別、いじめ、区別になることがある。A玉じゃなくてビー玉でいればいいのかもしれない。それでも私は輝きたい、自分の力で。

覚書より

 これは、記念すべき100冊目の本(ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー)を読んだ後にノートに残した覚書である。そして、かつて子どもだった私へのメッセージでもある。新年度ということで、いろいろな気持ちを抱えて過ごしている人の応援になればいいなと思う。少々ヘビーな内容かもしれないのであしからず。

ぼくはイエローで、ホワイトでちょっとブルーからリフレインしたこと

 実は、前回の記事では書かなかったが、私にとってこの本を読むのは少々、いや結構辛い部分があったのである。なぜなら、自分の子供時代が思い起こされたからである。

 私が小学生時代を過ごしたのは1990年代の半ばである。片田舎の裕福とはいえない環境で育った。公園で不良がタムロ(死語?)していることが多く、明るい時間帯になるとシンナーとそれを吸った袋が散らばっていたりお菓子のゴミが散乱していたりする光景が今でも目に浮かぶ。

 『あれ、何?』
 『シンナー。』
 『シンナーってなに?』

 そんなやり取りを近所のお兄やお姉としたものである。

 援助交際が、社会問題としてクローズアップされた時には、近所の子ども(高校生の知っているお姉さん)が渦中にいることもあった。

『ホテルに行ったんだって。』
『えーーー』

そんな具合である。当時小学校高学年だった私は、当然、援助交際がどのようなものかはわかっていたが、それに対する認識が曖昧な環境で育った。

 ある日、クラスメイトのお姉さん(中学生)が喫煙をして歩いているところに出くわしてしまったこともある。なぜそういう表現をしたかと言うと、もれなく口止めをされたからである。

 家の郵便受けに汚物(おそらく、親が言葉を濁したので定かではない。)入れられた時には、警察が来たこともあった。

 そうして中学に入ると、上の学年の先輩方はもれなく荒れており、お金の無心をされたこともある。乱暴な言葉でいえば、カツアゲである。

 校内暴力もあった。自分が被害にあったことが今でも癒えない傷である。私は性暴力を含めて、身体的な暴力は、何よりも辛いことだと思う。なぜなら被害を大人に訴えた時に、もう一度その時のことを思い出さなければいけないからである。二次被害とはまさしくこのことなのだ。悲しいことに、身を持って言うことができてしまう。

 

暴力被害は繰り返される時限爆弾のようである。
 体が治っても、何十年経っても心は癒えない。

 しかし、私がこの『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』の中に出てくる家庭環境に恵まれない子どもたちのように、グレたり、問題を起こしたり、あるいは里親を転々としたりしなかったのは、決して自分の置かれた環境や立場を

憎んでいなかったからなのである。

 私には、辛い時も悲しい時も、消えてしまいたいと思った時も読書と勉強という親友がいたから生きてこられたといってもいい。そして、今の私を形作り、努力してきたことに助けられることも多い。人生のバディである。

 作者のブレイディみかこさんは、作中で『子どもはすべてにぶち当たる』と表現されたが、私はこの言葉の続きに

子どもはすべてを作るものである

と表したいと思う。かつての私がそうだったように。読書と勉強という武器を持って、自分の手で作り出してきたアイデンティティとその現実、今の居場所を大切にしたいのである。

 これからも差別や区別から生み出される暴力をはじめとした出来事があるかもしれない。そうであっても、自分で作り出してきたものから得た軸はゆるぎのないものであると自信を持って言うことができる。

 もし今、自分の環境や境遇に不満や悲しみ、やるせなさ、悔しさを感じている人がいるのなら、透明になってほしい。

 個性のことを類似表現でカラーということがあるが、あえて色を持とうとしないでほしい。透明であれば、それは一見すると、苦しみの連鎖を生むように思えるが、一度差し込んだ光を何倍にも増幅させることができる。何にも染まらないからこその強さがあるのだ。

 環境によって人はいくらでも変化することができる。変化してしまうということも言える。しかし、かつての私がそうであったように、何にも染まらず、自分を信じ続けられる人であってほしい。誰からも愛されなくても、自分で自分を愛することはできるから。


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