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『俺は待ってるぜ』(主演:石原裕次郎 1957年10月20日公開)個人の感想です


『俺は待ってるぜ』

『俺は待ってるぜ』のタイトルから石原裕次郎が女を待っているのだろうと思ったら、全然違っていたという作品。夜中に石原裕次郎が波止場(横浜のどこか)に行くと雨も降っていないのに濡れたコートに包まれた北原美枝がひとり立っているというところから始まる。なので、女を待っていなかったことは最初に分かる。こんなに夜が明るくないところに女がひとり立っていた時代がうらやましいと思うシーンだ。石原裕次郎は、波止場にあるレストランのオーナーで北原美枝を既に閉店した店に連れて行き、お酒を飲ませ、風を引かないように介抱するわけだけど、その後、北原美枝はそのレストランに居ついてお手伝いなんかをし始める。女を見つけてそのまま居ついちゃうということで、一体何を待ってんだ、ってところがこの映画のミソかもしれない。そして裕次郎と北原美枝はいい感じになるのかと思えばそうでもなく、恋ごころをもちつつも甘いシーンはなく、どちらかと言えば暗い感じの言い合いをしながら話は進んでいく。行きつく先は暴力があり、やくざありではあるものの、本気の家族愛の映画なんだということは最後に分かる。今は、家族が殺されても復讐というのは簡単には出来ないけど、本心はこんなことだよねって共感は出来る。この映画で印象に残ったところは、暴力ややくざではなく、北原美枝のスタイルの良さがまぶしいところ(身長は162cmで当時でも抜群のスタイルと評判だったらし、八頭身のはしりと言われたらしい)と途中で出てくるお医者さんが「人間がなにか頼れるものをひとつでも持っていればいい、酒でも、女でも、お金でも、何でもいい」と言った言葉かな。シンプルなんだけど、人はどんな状態でも何か自分に心の支えがあれば、生きていけるという貧しいこの時代を反映した言葉であり、今も通じることなのかもしれない。夢を描き、挫折し、でも、こころの支えを持って生きていく男、だけど、この映画では最後に夢破れ、家族を壊され、その怒りをぶちまけ、悲劇的な人生になってしまう悲しい映画です。
今ではあり得ない、女がマッチで男のたばこに火をつけるシーンや花瓶で男の頭を殴るシーンがある。たばこがかっこいい時代ですね。
昭和32年の横浜と本音に迫る家族愛の「時空の旅」を楽しんでいただきいです。

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