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映画の心

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Amazon Prime Videoで見れる文芸映画を中心に映画が訴えていることを映画の評論ではなく、作品論として独自の視点で捉え、思ったこと、感じたことを綴っています。取り上げ… もっと読む
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記事一覧

『晩菊』(原作:林芙美子 1954年6月22日公開)を観て

この映画は、女性にとってはある意味痛快なお話だと思う。確かに女性に人気があった作家ということは感じれた。男をコケにして、ドライな女心を描いていて、娯楽小説という表現は失礼かも知れないが、当時、気軽に読めて、楽しめるものだったに違いないと思った。 派手な起承転結がないのがこの映画の特徴でもあり、どこから観始めて、何処でやめても良いという日常をあらわしている。登場人物は、おきん(元芸者で今は不動産と金貸しで生計を立てている)、おとみとたまえ(おきんと一緒にやっていた元芸者で、お

『破戒』(原作:島崎藤村 1962年4月6日公開)を観て

映画化3回、テレビドラマ化3回と多く取り上げられている『破戒』、この映画を観るに当たっては、いつもの通り予備知識なし、写真から想像するにやや重い映画だろうと想像し観ることにした。古い原作のものは、古い映画を観たくなるもので、今回も最新のものではなく、2作目の作品を見ることにした。観終わって、この映画について感想を述べて良いものか、と思うぐらいに複雑な心境にさせられる映画であった。 ストーリーに入るとしよう。主役は、小諸の被差別部落出身で小学校の先生をしている男・瀬川丑松(市

『愛する』(原作:遠藤周作 1997年10月4日公開)

久々に涙腺が緩みました、完全にやられましたね。原作は遠藤周作、私と遠藤周作の出会いは、高校生の時である、数冊恋愛にかかわるような本を読んで、女性とはこんなに理性的なものかと、やけに美化したことを覚えている。遠藤周作はキリスト教徒であるということもそのころ知ったのであるが、キリスト教についての知識はなかったものの、なんとなく、キリスト教徒だから女性を美化するのかなぁとも思った。実際の女性は、遠藤周作が書いていた女性像とちょっと違うのかなと気が付いたのは20才ごろで、女性に対して

『潮騒』(原作:三島由紀夫 1964年4月29日公開)を観て

『潮騒』、多くの皆さんが知る三島由紀夫作品である。三島ファンの皆さん、私ごときが、三島由紀夫の作品について語るのもおこがましい上に、これから始まる稚拙な感想をお許しください。 潮騒と言えば、私の時代では、三浦友和と山口百恵ということなんでしょうけど、あえて、浜田光男と吉永小百合の潮騒を観ることにした。私は、三島由紀夫について、良く知っているわけではなく、文学者の三島由紀夫というより、愛国者、政治活動家、市ヶ谷駐屯地での割腹自殺、東大教養学部での全共闘主催の討論(この映画は、

『絶唱』(原作:大江賢次 主演:舟木一夫 和泉雅子 1966年9月17日公開)個人の感想です

『絶唱』、観終わって、そこから絶唱について調べ始めた。いつものことであるが、私は、予備知識なしで映画を観ることにしている。このタイトルがなんとも絶妙というか、本来の意味以外に漢字から受け取る印象も含めて、この物語を語っている。絶唱とは、1 非常にすぐれた詩や歌、2 感情をこめ、夢中になって歌うこと、と書かれている、確かにこの映画は、この二つの意味を持つ内容となっている。一方でこの意味を知らないと、漢字が持つイメージとして『唱が絶える』と言う風にも解釈出来る。そういう観点では、

『白日夢』(原作:谷崎潤一郎 1964年6月21日公開)を観て

谷崎潤一郎、なんかエロいらしいとか、著名な本の名前とか、そんな程度の知識しかない私がなんとも言えないこのタイトルとこの写真の映画を観てみることにした。この写真からどんな内容なのか、まぁ、いろいろと想像を掻き立てられるものはあったものの、観終わって改めてこの写真を見ると、口を開けていかにも悶えている女性、この様子は、なんと、歯の治療の時の顔ではないか(最初に出てくるシーン)。手元に見えるのは、治療に使う器具、ミラートップ、探針で、口の中をぐりぐりしてみたり、細いホースみたいなも

『風のある道』(原作:川端康成 主演:芦川いずみ 1959年9月13日公開)個人の感想です

いよいよ川端康成作品である。アマプラで無料で観れる数少ない川端康成作品を観ることにした。もちろん、文学音痴の私は川端康成と言えば、『潮騒』とか『伊豆の踊子』の名前は聞いたことがある程度の知識。鳥羽から渥美半島に渡るフェリーに乗ると、船内アナウンスで、「あちらに見えます島が、潮騒の舞台となった島です。」と紹介があるので、「へー」って思った記憶はある。興味がある方は、乗ってみられるのも良いかも知れない。 さて、アマプラに書かれているこの映画の紹介は、『美しき三人姉妹の心に去来す

『何が彼女をそうさせたか』(原作:藤森成吉 主演:高津慶子 1930年2月6日公開)個人の感想です

より古い文学作品の映画を探していたところこの映画『何が彼女にそうさせたのか』に当たったのだけれども、1930年の映画ということで、普通、私は映画を観る際には事前に内容が分かるものは調べたりしないけど、さすがにこれはどんなものだろうと調べてから観ようという気になった。しかし、映画のプロフィールは見ても、あらすじは見るまいと、で、この映画は、無声映画と書いてあるではないか。無声映画そのものが未体験であったので、その興味もあり、観てみることにした。 観終わったあとの感想は、まず、

『雨月物語』(原作:上田秋成 出演:京マチ子、田中絹代 1953年3月26日公開)個人の感想です

どういう感想を書けばいいのか、という映画にぶち当たってしまった。この物語の原作は、江戸時代後期(1776年)に上田秋成によって書かれた怪異小説とのこと。この怪異の言葉すら初めて出くわした。怪異とは『現実にはあり得ないと思われるような不思議な事柄やそのさま』ということのよう。いつものように、映画を観終わって映画のことを色々調べたのだが、この言葉に思わず納得した。 観始めてすぐに戦国時代のお話ということがわかったが、戦国時代というのは本当にこんな感じではなかったか、と思えるぐら

『あいつと私』(原作:石坂洋次郎 主演:石原裕次郎 1961年9月10日公開)個人の感想です

吉永小百合が写真に写っていたので、観てみるか、という程度で観始めた映画であったが、コミカルな中にもこの時代の変化をてんこ盛りにしたとても面白い映画だった。リリカルとかニヒリスティックと評されていたけど、そんな感じではなく、十分に世相を反映していて、とても面白かった。ちなみに吉永小百合は、主演女優芦川いずみ(藤竜也の妻)の妹役にすぎなかった。ドテッ! 時代は、1960年、戦後15年、安保闘争の時代、まさに学生運動の始まりのころである。登場人物の年代も恐らく明治、昭和一桁、戦中

『乳母車』(原作:石坂洋次郎 主演:石原裕次郎 芦川いづみ 1956年11月14日公開)個人の感想です

石坂洋次郎作品『陽の当たる坂道』に続いて3本目の『乳母車』を観てみた。私は、映画を観るとき、予め調べはしない、あらすじが分かったり、専門家の評論でバイアスをさけるためだ。今回も、どんなメッセージを届けようとしているのか、そして自分はどのように解釈して結論付けるのか楽しむことにした。 文学とはは、その当時の文学者が前衛的な感性を持って社会にメッセージを投げ込み、そのメッセージが庶民の心に刺さり、そして社会に影響を与えていくということだろうと理解している(様々な考え方はあると思

『東京物語』(監督:小津安二郎 主演:笠智衆 原節子 1953年11月3日公開)個人の感想です

『東京物語』、小津安二郎作品として有名という程度の知識で、もちろん、内容は知らない。名前からして笠智衆が東京の子供たちのところに出て行って東京をいろいろと周るところは出てくるのであろうと想像して観始めた。 終わってみると、なんとも年老いた両親に対してとても残酷なお話であった。私の父は、1933年(昭和8年)の生まれで、この映画が公開されたときは20才の時である。私が大人になる前から、自分達は子供の世話になるつもりはないと言っていたことを覚えている。祖父が田舎で長男と一緒に暮

『陽のあたる坂道』(原作:石坂洋次郎 主演:渡哲也 1967年3月25日公開)個人の感想です

石坂洋次郎の作品で石原裕次郎主演の『あいつと私』がとても面白かったので同じ石坂洋次郎の『陽のあたる坂道』も観たくなった。石原裕次郎主演、渡哲也主演の2つあったが、渡哲也主演を観てみることにした。 『あいつと私』は、大学生のその時代の風俗を面白おかしくコミカルに描いたもので『陽のあたる坂』というタイトルと写真からさわやかな恋愛ドラマを想像したけれども、まったく違っていた。 物語の途中までは重苦しく、裕福なながらも訳ありなお金持ちのお家騒動的なお話であるかのように思えたが、終

『からたちの花』(北原白秋の若い頃、柳川時代を描いた作品。1954年10月26日公開)個人の感想です

北原白秋、有名な詩人、でも、詩も人となりについても良く知らない。遠い昔、柳川に行って、北原白秋の生家に行ったことがあったが、行ったということ以外、記憶に残っていない。柳川と言えば、うなぎ、本吉屋という有名なうなぎ屋があってセイロ蒸しを食べたことがある。このセイロ蒸しというのは、この筑後地方の料理法で他にはないということらしい。とてもおいしいので訪れた際には、ぜひ、お勧めです。 さて、この映画であるが、白秋と白秋の友人の中学時代の淡い恋物語と別れ、家の没落、不登校から退学、東