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無雨

僕、生まれてから小学校に上がるまで父の実家に住んでたんですけど。今考えると変だったなって思うことがあって。
おじいちゃんとかおばあちゃんはそれを"無雨(むさめ)"って呼んでました。無雨っていうのは、言葉通り雨のない雨の日って意味なんです。

どういうことかって言うと、雨が降ってないのに雨が降ってる音がするんです。空は全然晴れてるのに、雨粒が屋根を打つ音が聞こえてくるんですよ。
ぽつ、ぽつって音がするとまず外を確認して、そこで雨が降ってたらまあ普通に雨降ってきたな〜で済むんですが、一向に雨が降ってこないのに音だけがどんどん強くなってくると無雨だって言ってみんな家の中へ入るんです。はい。無雨が降ってきたら必ず家の中に入って窓を閉めなきゃいけないっていう決まりでした。なんでかは聞いたことなかったですね。

保育園とかにいる時も、外で遊んでたら先生に「無雨降ってきたからみんなクラスに戻って〜」なんて言われて屋内に入れられたりしたんですが、当時は子どもでしたしたからダメって言われると余計外に出たくなってしまって、勝手に出ようとしてこっぴどく叱られた記憶があります。
無雨はすぐ止むこともあれば一日中降り続くこともあって、夜になっても止まない日は保育園で一夜を明かしたこともありました。それはそれでお泊まり会みたいで楽しかったんですけどね。

でも、無雨は本当に雨の降る音が聞こえるだけで、それ以上に何かがある訳でもないんです。
むしろ大雨が降るようなこともないような場所だったからか、みんなの雨が怖いっていう認識もさほどなくて。無雨が怪奇現象なんて思ってる人もいなかったんじゃないでしょうか。
むしろ普通に雨が降る日より無雨が降る日の方が多かったぐらいでしたよ。季節関係なく春夏秋冬同じぐらいの頻度で降ってましたし。

不思議な現象ですよ、ほんと。こっちに来てからは経験したこともないですしね。
ただひとつ疑問に思うことがありまして、それは東京に引っ越してきてから何となく気づいたことなんですが。

無雨の音って、あれ、雨が降ってる時の音じゃなかったような気がするんです。

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