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好きな果物を訊かれて答えたら「あなたらしいね」と言われた

私はフルーツが大好きだ。実家で暮らしている時は至る所にバナナやリンゴ、パイナップルなどのフルーツが常備されており、どんな時でも手に取れるのが当たり前、フルーツ食べ放題ハウスだった影響もきっとある。

しかし現在の私はと言えば、スーパーで「このミカンはMサイズで498円。Sだと398円。つまりどっちがお得なの?」と立ちすくんでいるのだから、そう考えると実家の福利厚生はすごかったんだなと今になって分かる。

結局「多分こっちがお得だ」ということにした「ミカンSサイズ」が詰まったネットを買い、帰りにふとこんなことを思った。「もし誰かに、一番好きなフルーツを訊かれたらなんと答えようか」。別に誰にも訊かれていない。しかし、あらかじめ考えておこうかなと思ったのだ。こう見えて私は準備がいいところがある。

家に着くとリュックを下ろし、中からラフランスを取り出す。今日の仕事で、山形県の関係者から偶然もらったのだ。ラフランスなんて食べる機会滅多に無いから大喜びである。ミカンSには悪いがお前たちは明日に延期して、今はちょうど食べ頃のこのラフランスをいただくことにしよう。

まな板なんて使わない。使うわけがない。そして切って皿に盛るわけもない。台所のシンクの上でラフランスを持ったまま皮を剥くと、汁がどんどん落ちてくる。すごい。ガブリ。ああ、えええなんて美味しいのか。「私の好きなフルーツ」って、ラフランスだったんだ。こんなにすぐ答えが出るものだったか。

しかしその後、シャワーを浴びている時に思った。「そういえば・・。先月柿を食べた時、あまりに美味しくて『柿が一番だわ』って思ったよなあ」「夏に友達と桃パフェを食べたときは『やっぱ桃が一番好き』って言ってたよな」

・・この「フルーツデータベース」をもとに計算すると、私の好きなフルーツは来月あたりに「イチゴ」に取って代わられるだろう。なんてことだ。私の一番好きなフルーツってなんなんだ。もし訊かれたら一体どうすればいいの・・?

翌日、心なしか重い気がする足取りで仕事に行くと、先輩にこんなことを言われた。「ねえ、昨日もらったラフランス食べた?美味しかったよね〜。あなたってフルーツ好きなイメージがあるけど、何が一番好きな?」

う、うわあああああ。

なんてことだ。まさか、悩み始めた翌日に例の質問が!すみません、人生の頻出問題にもかかわらず、傾向を掴むことも、対策を練ることも間に合ってないんです。ああ、こういう時に「梨です!」とか即答できる人間になりたい。このままでは、フルーツ好きという私のアイデンティティまでクライシスしてしまいそうだ。

私は意を決して言った。「実は今、答えを探していて。ちょうど昨日、ラフランスが一番好きだな〜と思っていたところでした。なのに先月は、柿が一番だと思ってました。この調子だと来月にはまた変わってます。自分が何が一番好きなのか分からないんです。。」

すると先輩は笑った。「何それ。なんかそれ、す〜っごくあなたっぽいじゃない。『今が一番最高』ってことでしょ。え〜いいじゃない。食べるたびにそれが一番なんて、あなたらしいよ」

・・・あれ?答えがないのに、それが私らしい?

たしかに私は、今というこの瞬間に全力集中するところがある。そういう「今に集中するスキルというか性格?」を、セレンセビリティ(たしか・・)というらしい。なんと名前までついている性質なのである。

結局、「好きなフルーツ」のチョイスで自分を表すことはまだできなさそうだけれど、「それに関する考え方」という別の切り口でなら、自分を定義することもできるなと思ったのであった。

現状一位はラフランスでも、来月にはイチゴになって、巡り巡って次の秋には、「去年追い抜いたはずのラフランス」を追い抜いて、柿がまた1番になっている。私はそういう、ボジョレーヌーボタイプの人間なのだ。


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