民主主義の失敗(端書き)

民主主義の失敗は様々な側面として存在する。東西冷戦終結後世界は急速に民主化が進んだ。東欧諸国は相次いで民主化を果たし、アフリカや南米においても多くの独裁政権が倒れ民主化した。
しかし、現在では世界各地で民主主義の課題が突きつけられている。米国においては移民排斥を訴えるトランプ政権が誕生し、ハンガリーやポーランドでは極右が勢力を伸ばした。中東・マグレブ諸国では、アラブの春によって一見民主化が果たされると思われた。だが、リビアやシリアでは未だに泥沼の内戦が続いている。このような民族・宗教による分断も民主主義の失敗と言える側面である。
もう一つ民主主義の失敗の例を上げるとすれば、民主主義の根源である多数による決定という構造そのものが世代間格差を生んでしまっていることだろう。イギリスにおけるEU離脱問題いわゆるブレクジット問題は、欧州連合離脱を国民投票において決定したことが直接的な原因となっている。投票そのものは残留派約48%であったのに対して、離脱派が約52%と僅差ではあるものの離脱派が多数を占めた。しかし、世代別にこの投票を見ると大きく見方が変化する。若者世代の30代以下は多くが残留支持、60歳以上の高齢者が離脱を支持と世代によって真っ向から意見が別れてしまっていたのだ。具体的には18~24歳の73%、25~34歳の62%が残留を支持。ところが45~54歳を境に離脱が多くなり、65歳以上では60%が離脱に投票していた。(数値は日本経済新聞記事「英国民投票、若年層は大半が「残留」 世代間で意識に違い」 2016/6/25より引用)このような世代間格差による分断は民主主義の失敗と言えるだろう。
この世代間問題は日本においても同様である。高齢者層の支持する政策は短期的視野のものになりやすく、若者層の支持する政策は長期的視野のものになりやすい。少子高齢化が急速に進む日本において数的優位にあるのは高齢者である。この先に待ち受けるのは痛みを伴う改革や長期的視野からの決定が困難になることだ。これに拍車をかけるのが若者層の低投票率である。前回2016年の参議院選挙、世代別投票率は20歳代が35.60%、30歳代が44.24%、60歳代は70.07%となっている。(数値は日本経済新聞記事「投票率、年代の差どうなるか」2019/7/19より引用。)ただでさえ母数が少ないのにも関わらず若年層の投票率は低いままだ。このため上述した高齢者優位を強化してしまっている。このような状況が続けば、政策決定の上で高齢者を配慮政党や政治家による「シルバー民主主義」の状態になりかねない。
このような問題の対策としてはいくつかの方策がある。まずは主権者教育の改善だ。日本における主権者教育は非常に遅れていると言わざるを負えない。選挙の仕組みの説明に重点が置かれ、政治的中立性が強調されすぎ、自主的な判断を取れる有権者が育つ環境とは言えない。次に挙げられるのが子供に対しての選挙権付与だ。18歳にも選挙権が与えられたが、それ以下の子供たちにも選挙権を付与し、その親に代理で投票させるというものだ。親は子供の将来を考慮した上で投票を行う。長期的視野からの票そのものの数を増やすのだ。
個人でできるものとしては積極的に投票に参画することはもちろんのこと同世代の啓発、積極的な議論の推進が必要だ。若者世代における問題意識を掘り起こすためにも政治をタブーとしないで、議論や討論を日常的に行うべきである。政治に対する話題を忌避し続ければ必然的に政治への関心が薄れ投票率の低下に繋がりやすい。

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