ネトウヨたちの疑似愛国心、元ネトウヨの視点から ~太平洋戦争は欧米からの解放戦争という曲解~
私は中学生ありがちな恥ずかしい行動所謂中二病を患っていた。邪気眼とかブラックコーヒー飲むとかではなく、ネトウヨをやっていた。韓国・中国を叩き、フジテレビを叩き、太平洋戦争を正義の戦争と信じ、2ちゃんねるに書き込んでいた。そしてある日、「在日特権を許さない市民の会」一般的には「在特会」の新大久保のデモを見に行った。(のちのヘイトスピーチ関連の法整備は彼らがきっかけとなる)当時在日コリアンの知り合いもいないのになぜか彼らに敵愾心を燃やしていた私は、この市民団体に共鳴を覚え彼らの``愛国心``を見に行ったのだ。そこで見た光景は「韓国人は国に帰れ!」とか「くたばれ在日!」といったような罵声でしかなかった。そこに愛国心と呼ばれるものは微塵もなく、ただの排外主義と憎悪を撒き散らす化物がいただけだった。これが私をネトウヨを卒業させるきっかけになったのは皮肉なことだった。
ネット右翼とは朝日新聞の定義によれば「ネット右翼とは一般的に、保守的・愛国的な政治志向を持ち、中国や韓国などの近隣アジア諸国に対して排外的な言動を行う人を指すことが多かった」とある。彼らは憂国の志士であると自負し、日本を救うべく日夜``敵``とネット空間で戦っているようだ。例えば「南京大虐殺」は中国共産党の捏造であるし、太平洋戦争はアジア開放の正義の戦争である。そして、日本の行為を正当化する。要するに歴史修正主義的要素があるのだ。また、韓国・中国・北朝鮮を毛嫌いしこの三カ国を特定アジア「特亜」と呼び強烈に叩く。これに説得力のあるロジックはない。試しにあるネトウヨ系のまとめサイトよりいくつかの記事とコメントを抜粋してみよう。
記事:【グロ注意】米ロードアイランド州で韓国人慰安婦13人を検挙!!
コメント:米国では 売春婦=コリアンって定番なんだろうね
日本でこういう話がニュースにならないのは何故なの?
韓国人の昔からの生業だから報道すると慰安婦問題が嘘だとバレ るからな
記事:立憲民主党・落合洋司「韓国はごろつき、三等国家」→謝罪→公認取り消しへ
コメント:韓国は日常的にヘイトしてるんだな
立憲民主党は韓国寄りであることが改めて明確になった出来事だね
中国と韓国はヘイトスピーチ国家じゃん
挙げればきりがないが、この手の``保守系``まとめサイトは数多くある(ちなみにまとめサイトであっても内容がヘイトスピーチとされる最高裁の判決がある)。内容はどこも似たり寄ったりだ。野党・左派批判、中韓の悪いニュース、マスメディア批判。少しでも韓国や中国の側に立った(ように見える意見)を書き込もうものならスパイだ工作員だと叩きまくる。(実際にこの手のスレッドに書き込んでみれば実感できるだろう。)ただ上述した例のようにそこに説得力は存在しない。彼らは韓国人はうそつきだと叩く。これはただの差別なのだが、これを愛国心の発露だと本気で考えている。これは傍から見ると全く関連性のないように見える。しかし、彼らにとっては日本の敵でありそこに抵抗するのは、愛国的行為になるのだ。といってもそこに深い知識はない。彼らの情報元は大抵ネット知識や妄想といってもよい推測だ。また、太平洋戦争に対する功罪の「功」の部分に焦点を当てすぎてしまい日本の「罪」の部分を無視しすぎる傾向にある。彼らが嫌う偏向報道と同じ形態にあるのは、皮肉としか言いようがないだろう。
よく見られる彼らの言説を一つとってみよう。「太平洋戦争は当時欧米列強に侵略されたアジアを開放した戦争であった。」果たしてこれは正しいのだろうか。確かに1940年代東南アジア諸国は欧米の植民地支配下にあった。その欧米諸国の現地行政府を倒し、日本の軍政下に入れたという点は紛れもない事実であろう。そこに日本は、植民地支配のゆるみという間隙を作ったというのは事実であろう。しかし、日本の統治は欧米の植民地支配が形を変えただけだった。元イン ドネシア国軍史研究所所長ヌグロホ・ノトスサントによるこの言葉が如実に被植民地側からの視点を物語っているだろう。
【日本軍政 期を「暗黒の日本支配」と捉えているが、「その時代を耐えたことによって、インドネシア 民族は、自らの民族的強靭性をさらに強める機会を得た」】(後藤乾一『日本占領期インドネシア研究』(龍溪書舎、1989 年)p40-41 より引用)
また日本の軍政を契機に東南アジア諸国が欧米に対する民族闘争になったとする識者もいれば、日本の力ではないと否定する識者もおり日本の植民地支配に対する評価はまちまちだ。だが、日本の軍政が欧米植民地支配の変化に影響を与えたのは間違いないだろう。ビルマ(現ミャンマー)やインドネシアでの独立戦争に日本軍の装備が流用されたり、残留日本兵が義勇兵として参加したり(映画「ムルデカ(独立)17805」をお勧めする)現地軍組織の系譜は日本によって組織・指導されていることが多い。このよう功の部分から見ると一見日本は、よく言われる解放戦争を行ったとできるように見えてしまう。しかし、罪の部分に焦点を当てればこの考えは改めなくてはならなくなる。
日本は確かに東南アジア地域に進出を行ったもののこれは明らかに資源獲得を志向する者であって、アジア解放は名目に過ぎないことは明らかだ。アジア解放というのならば大韓帝国や台湾を統治下に置いている矛盾を説明しきれない。また、ビルマ独立義勇軍の設立後ビルマを開放すると日本は占領下に置き自治政府を設置、ビルマ独立義勇軍は占領下の妨げになることを恐れられ解散させられている。その後ビルマ防衛軍が設置されるもののこれは日本軍の指揮系統に置かれたものであったのだ。イギリスと日本のビルマでの戦争は現地の民族感情に火をつけ現在のロヒンギャ問題にもつながっている。(詳細を記述すると長くなってしまうので省略する)この事実は紛れもなく日本が関わっている事実である。東南アジアで抗日軍として日本の統治に対する抵抗運動は少なくない数が行われており、特にフィリピンでは苛烈な抵抗が行われ、アメリカ軍と共同して日本軍を明確に敵として攻撃している。フィリピンにおける反日感情は非常に強くまたマニラ市街戦等で甚大な被害がフィリピン市民に生じている。加えて形式上の独立を認めたのは東南アジアでフィリピンとビルマの二か国のみである。インドネシアは産油地帯を擁することから独立の時期を日本は、意図的に遅らせていた。このように日本が正義の解放者であるという主張には無理があると言わざる終えないだろう。
さて、ここまで「日本の解放戦争」という言説についての検討を加えてきたがこの主張に無理があることは明白だろう。ここにネトウヨのねじ曲がった構造が存在する。歴史や物事には多面的な部分が存在する。一方的な正義など存在するはずがない。特に戦争という究極の人と人の殺し合いとなればなおさらである。しかし、ネトウヨは日本をすべてにおいて肯定しその他をすべて否定する。アメリカの東京空襲や原爆投下は批判するが、日本軍による中国・重慶市への無差別爆撃は触れない。または、戦争だからと一蹴してしまう。現代の政治問題も出来事は違うが、一方的なものの見方のみを恣意的に採用し、都合のいい論壇を張る。これでは全く本質を突かないばかりかただのポピュリズムになるだろう。
ネトウヨについて述べたがこれはネットの左翼いわゆるパヨクにも通じる点がある。視点をすべて日本否定にすれば全く同じ構造であるのだ。このような多面性を無視した主張は使えないし、いらないし、存在する価値がない。もし、ネットでこのような主張を見かけたのならば一度その逆側にも立ってみるべきだ。多面性のない一方的な考察はなんの価値もない。元ネット右翼の自分自身本当にそう思うのだ。
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