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【小説】『16才』⑤

 「あのころ…
  木曜深夜の"オールナイトニッポン"と
  金曜八時の"ワールドプロレスリング"だけが
  救いだった……」

ーーーーー

 月曜日。久々に制服を着て家を出る。夏休み明けの9月1日みたく、友達に会うのが楽しみだ。チャリに乗り駅に着くと、早速オノデラに声を掛ける。

「ったく…シャレにならねえよな、おい」
「アハハ…しょうがないねえ、どうも」

 オールナイトリスナー同士の会話は、なぜか殿と高田センセーの掛け合いみたいになるから不思議だ。教室に入ると、女子からも声を掛けられる。

「何で休んでたの」

 昨日考えた渾身のギャグでもくらいやがれ。

「手術…ホーケーの手術」

 どうだ、ウケただろ。電話を掛けてくれたフジムラが冷ややかな視線を浴びせ去って行く。演じてるワケじゃない…こうゆー性格なんだ。

 イハラ先生が来てHRが始まる。オレに一瞥をくれることもなくHRを終え、去り際に一言。

「放課後、社会科準備室まで来い」

 望むところだ、その挑戦を受けてやるぜ…オレの首をかっ切ってみろ。

 国語の授業になる。『かもめのジョナサン』飛ぶために生きるのか、生きるために飛ぶのか…だと?まさに今の心境だじゃないか。イハラ先生はワザとこの作品の授業にしたのか…いや、教科書の順番通りだ、偶然だったのか。なぜか心に突き刺さる、マジメに聞こう。正岡子規に落書きしている場合じゃない。
 
 休み時間、フジマ君から借りた『カムイ伝』を読む。フジマ君は、その風貌と高校生らしからぬ堅物の言動から、"地蔵"とあだ名される変わったヤツだ。マンガ好きではあるが、コバのように最近のマンガは読まずひと昔前のマンガばかり読んでいる。オレもそっちの方が好きだった。カムイを読んでいたら、また問い掛けられる…。

 お前はいったい、何のために生まれてきたんだ?

 長州、ラジオ、ジョナサン、カムイ…最近なぜか、見るモノ聴くモノすべてから、そう問い掛けられている気がした。ノダ先生の公民の授業で教わった、自我の芽生えというやつか。放課後イハラ先生から呼び出されている、先生に聞いてみるか…そう思いながらヤキソバパンをコーヒー牛乳で流し込む

 放課後、イハラ&ノダのタッグが待ち受ける社会科準備室のリングに向かう。こんな時にはお笑いを捨て、セメントもできるのがストロングスタイルなのだ。

「コンドウは、ピーターパン症候群…て知ってるか」

 意表を突かれた…一年生の時、登校拒否に追い込んでしまった因縁のハヤカワ先生もいる。ハヤカワ先生までオレに気を掛けてくれているのか。これではまるで、イノキVS新国際軍団の1VS3マッチじゃないか。3人を相手にしても、決してギブアップしない。

「オレの心の叫びを聞いてくれ」

 なぜ勉強するのか、なぜ学校に行くのか、学歴のためだけならば、オレには必要ない…オレは社会の歯車じゃない!

「こんな学校辞めてやる」

 だがそれは、長州ではなく、2・3札幌の藤波のセリフだったことに気付いた。

「オフクロさんには話したのか」

 イハラ先生のカウンターの逆ラリア―トのようなその言葉に、思わず黙り込んでしまった。

ジョナサン 音速の壁に
ジョナサン きりもみする
ホントそうだよな どうでもいいよな
ホントそうだよな どうなってもいいよな

一発目の弾丸は眼球に命中
頭蓋骨を飛びこえて 僕の胸に
二発目は鼓膜を突き破り
やはり僕の胸に

それは僕の心臓ではなく
それは僕の心に刺さった

リアル よりリアリティ
リアル よりリアリティ
リアル よりリアリティ
リアル よりリアリティ リアル

あの日の僕のレコードプレーヤーは
少しだけいばって こう言ったんだ
いつでもどんな時でも スイッチを入れろよ
そん時は必ずおまえ 十四才にしてやるぜ
(ザ・ハイロウズ『十四才』より

やはり、母は帰って来てないとは言えなかった。

『16才』⑤ END

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