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【小説】『16才』②

 「あのころ…
  木曜深夜の"オールナイトニッポン"と
  金曜八時の"ワールドプロレスリング"だけが
  救いだった……」

ーーーーー
 
学校をやめて家を出て働こうか…

「その感情に気付いたのはいつだったろう」読んだばかりの長州力自伝。『革命戦士長州力 俺の心の叫びを聞いてくれ!!』に、そんな一文があったのを思い出した。革命前夜、帰国の際の心情を書いたものだが、まさにそんな気持ちだった。学校に行かなくなったのは、なにも母や雪だけが原因ではない。
 この高校を選んだのは、家計を考え公立校で、かつ滑り止めを受験せずとも確実に合格できるワンランク下の学校という理由だけだった。進学するのは1割程度の、レベルの高い学校ではない。将来の希望展望は特になく、卒業をしたら就職するのだろうと、ぼんやり考えるだけだった。
 成績は悪い方ではなく、授業も嫌いではなかった。一年生の頃こそ、たび重なる授業妨害や授業中の私語などで、担任の先生を逆に登校拒否に追い込むほどの問題児ではあったが(H先生ゴメンなさい…今は本当に反省しています)、二年生になってからは落ち着き、優等生ではなかったが不良でもなかった。だが…。

いったい…何のために勉強するのだろう

 あれは骨折をしていた時だ。ギプスをした右手では授業中ノートに文字が書けない。左手で書くほどクソ真面目でもない。担任であるイハラ先生の国語や、学生運動を経験したというノダ先生の社会科の授業は、話を聞くだけでも面白い。だがそれ以外の…特に嫌いな先生の授業は寝ていることにした。
 そしてテスト…テストは、今そのままの学力を測るものではないのか。テスト期間だけテストのために勉強するのがイヤだったし、その期間になると、優等生になってしまう周囲の連中も気に入らなかった。それに反発するかのように、寝ていた科目のテストを白紙で出した。
 数日後、そのことで、イハラ先生から呼び出しを食らった。イハラ先生は職員室にはいない、国語教師なのになぜか、社会科準備室…というアジトに、社会科のノダ先生たちといた。女子たちがクサいという、社会科準備室のタバコとコーヒーのニオイは嫌いではなく、むしろ心地良かった。

「お前どういうつもりだ?」

 イハラ先生に思いの丈を話す、ノダ先生もいる。二年生になって授業中の私語などの問題行動をしなくなったのは、この二人の先生によるものが大きい、不良のようにグレてはいない、ただのお調子者だったオレを問題児として見ることはなく、どこか買ってくれていた…その気持ちが何となく伝わっていたし、また先生たち自身も、職員室を離れ自分たちのグループで行動しているその姿勢は、まるで長州力率いる維新軍団を思わせ、そこもまた信用出来たのだ。この先生たちとは、そんな信頼関係で繋がっていた。それでも、そんな先生たちにさえ、家…母のことは言えなかった。なにか触れてはいけないような気がした。
 学校にも行かず、オレは何がしたいんだろう…12チャンネルで見ている再放送の青春ドラマのように、家を出て一人で暮らすことか?違う…なぜなら、今も一人暮らしのような生活なのだから…。

 プロレス界は、どうやら新団体が出来るらしい…。全日は、鶴田がAWAに挑戦するそうだ。新日では、あの事件以来、“テロリスト”と呼ばれる藤原と維新軍との抗争が始まった。オレの中の闘魂…あるいは革命魂が 今まさに目覚めようとしていた。 

パパ、ママ お早うございます
今日は何から始めよう
テーブルの上のミルクこぼしたら
ママの声が聞こえてくるかな
1、2、3、4 5つ数えて
バスケットシューズがはけたよ
ドアをあけても 何も見つからない
そこから遠くを ながめてるだけじゃ

別にグレてる訳じゃないんだ
ただこのままじゃいけないってことに 気付いただけさ

そしてナイフを持って立ってた

誰の事も恨んじゃいないよ
ただ大人たちにほめられるような バカにはなりたくない

そしてナイフを持って立ってた
ナイフを持って立ってた

少年の声は風に消されても ラララ…間違っちゃいない

そしてナイフを持って立ってた

そして…いろんな事が思い通りになったらいいのになあ
(ザ・ブルーハーツ『少年の詩』より)

 オレ…いや、人はなぜ生まれ、何のために生きるのだろう…。

『16才』② END

続きはXにて毎日公開中
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毎週日曜日に加筆修正してnoteに掲載

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