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【湯浅譲二】今日行ったコンサートの感想:令和04年(2022年)07月09日(日)【水戸芸術館】

湯浅譲二(おはなし)
高橋アキ(ピアノ)
工藤あかね(ソプラノ)
木ノ脇道元(フルート)
内山貴博(フルート)
尾池亜美(ヴァイオリン)
山澤慧(チェロ)
安江佐和子(パーカッション)
藤元高輝(指揮)
磯部英彬(エレクトロニクス)
片山杜秀(ナビゲーター)

『ホワイト・ノイズによるイコン』電子音楽(1967)
 サーッというホワイト・ノイズ。DTMをしているときにどうしても入ってしまって、どうにかして取り除けないかとオーディオ・インターフェイスを弄ってみたりすることでお馴染みのホワイト・ノイズ。それを素材にして音楽を作った。凄い。世界最初の多チャンネル作品だそうです。一口にホワイト・ノイズと言ってしまっても、音色のヴァリエーションはあるもので、様々な音色が組み合わされている。それが360度から聞こえて来る。導入、展開、盛り上がり、クライマックスがある。飽きさせない。途中、途轍も無い大音響が鳴り、大変びっくりした。雷が落ちたようだった。なんというか、宇宙を感じた。こういう感想を抱くのは、SF映画の劇伴の影響だと思う。演奏者のいない音楽は舞台上に誰もいないので、曲がいつ終わったのかが分からない。拍手のタイミングをみんな逃していた。早過ぎたということはないと思う。

『相即相入』2つのフルートの為の(1963)
 プログラムを読んで、「これは現代の『鹿の遠音』では?」と思った。普化宗というよりは禅宗だし、そして能楽で能管なのだけど。どっちが主でどっちが従ということのない、お互いが主体でありながらお互いに作用していく、有機的な発展をしていく音楽。『2本のフルートの為のソナタ』というわけではない。セリエルだし、チャンス・オペレーションなので、とても前衛的な音響が聴かれる。暗闇の中を切り裂く笛の音色。普段オーケストラの中で鳴らしても聞こえない、低音域の低音量なども緊張感をもってよく聞こえた。こういうヒリヒリとした感覚が好きです。
 https://open.spotify.com/track/7MSDxGc0yRr7OKVJ6oyRRh?si=add9738e4e51448f
 https://open.spotify.com/track/3amVT5vn8ujCX88uni70WO?si=709427123c414375

『内触覚的宇宙 Ⅱ -トランスフィギュレーション-』ピアノの為の(1986)
 委嘱・初演者:高橋アキによる演奏。ハズレなし。2オクターブにわたって散らされた12音音列だそうです。コードと音域が連携して固定されていて、その配置が計算され尽くしている。最初の音からもう美しい。高音の儚さ、低音の野性味、現代曲の美しい硬質な響きが、ピアノという音響体から聞こえて来る。右手・左手が中音域から、それぞれ高音域・低音域へと渦を巻いて広がって行く盛り上がり。緊張感が素晴らしい。後半は残響という倍音を聴く為の曲。低音の鍵盤を音が鳴らないように押さえ、ペダルを踏み、高音域をスタッカートで弾く。すると、ピアノの絃の共鳴する倍音が響いて来る。それはフワフワホワホワして柔らかく、弾かれる鍵盤は鋭い不協和音だが、倍音はとても優しい響きをしている。最後は手をピアノの内部に突っ込み、絃を押さえて残響の消された低音をボツッと鳴らす。そして名残惜しそうな上昇音形が鳴り、曲は終わる。
 藤田朗子による演奏 https://youtu.be/2dOA9TVTB70

『ソリテュード・イン・メモリアム T. T.』ヴァイオリン、チェロ、ピアノの為の(1997)
 実験工房からの友人・武満徹を追悼する曲。ヴァイオリンもチェロも、低音域から高音域へと無調音程で駆け上がって行くのが、大変私好みでした。美しく、恰好良い。繊細でありながら力強い。『ヴァイオリン協奏曲-イン・メモリー・オブ・武満徹-』と同じ、武満徹のような、豊かで柔らかい、ロマンチックで官能的な響きが聞こえて来る。

『UPICによる始原への眼差』テープ音楽(1991)
 プログラム後半の最初の曲はまた電子音楽。UPICというのはクセナキスが作ったシステムだそうです。私の世代は電子音響の原体験がファミコンなのだが、『ホワイト・ノイズによるイコン』は時代的にもファミコン以前という感じだったのに対し、こちらは完全にスーパーファミコン。シンセサイザーではないのだけど、プログレッシブ・ロックのイントロかと思うような導入だった。私は普段、描写的な感想は抱かない方なのだけど、この音楽は、海底から水面を見上げて、太陽光が揺らめいているような印象を受けた。ユラユラキラキラとして綺麗だった。この曲もまた舞台上に誰もいないので、拍手のタイミングに困ってしまった。
 https://youtu.be/XmkbDyKHrug

『「Do you love me?」から』ソプラノの為の(2002)
 今日の曲目の中では一番新しい曲。無伴奏歌曲。私は器楽偏重で声楽が苦手なのだけど、この歌は歌詞と音程の関係が興味深かった。歌うのではなく、台詞を吐き捨てたところが、迫力がありました。

『序破急』5人の奏者の為の(1994-96)
 今日の最大の編成。フルートはアルトとバスと持ち替え。打楽器はマリンバ、ヴィブラフォン、グロッケンシュピールの持ち替え。「急」は作曲されたアッチェレランドとリタルダンドの妙を聴く音楽。疎が段々と密になって盛り上がり、そして解体されて行くというシンプルな構想。