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2022年参加アーティスト①辻本さん・スペースノットブランク【AIR日高村6日目】

こんにちは。フリーキュレーターの牛込麻依です。
2023年10月に参加しているAIR日高村の活動レポートをお届けしています。

2022年のAIR日高村

本日も休日をいただいています。今回はAIR日高村2年目となる2022年参加アーティストのまとめ第一弾ということで、辻本さんとスペースノットブランク(小野彩加さん、中澤陽さん)の2組を紹介していきたいと思います。

2022年のAIR日高村は、1年目から拡充させ、5組のアーティストを招聘しました。

2022年度参加アーティスト・辻本佳さん

2022年度のプログラムで最初に訪れたのはダンサー・振付家の辻本佳さん。9月上旬から2種間の滞在となりました。

プロフィール
Multi-disciplinary artist(ダンサー・振付家・現代美術)
三重県出身。5歳から20歳まで柔道を学ぶ。09’-13’カーン国立振付センターCompany FATTOUMI LAMOULEUX“Just to dance…”に参加。Monochrome Circus、あごうさとし、やなぎみわ、康本雅子、井田亜彩美、などとのコラボレーションを継続的に行なっている。
故郷である紀州熊野でフィールドワークを行い、自然物、音、写真、身体感覚を収集し、自らの身体を媒介として扱い舞台上で再構築することで作品を制作している。『Field Pray』と題して、『#1どうすれば美しい運動が生まれるか』『#2擬態と遡行』『#3泥炭地』を発表。国際芸術祭などへも参加している。
2021年2月に新作『洞』をTHEATER E9 KYOTOにて上演、同名写真作品シリーズを発表し、好評を博す。2021年4月に舞台芸術、現代芸術の普及発展に貢献することを目的とし、『つじもとけい事務所』を設立、代表を務める。8月には、WITHコロナにおける作品のあり方を探る滞在制作作品辻本佳『渠』シリーズ(主催:つじもとけい事務所)を、京都府八木市、長野県茅野市、京都府京都市にて展示、公演を行う。

nossonインタビューより

私は、「空間と場所の認知」について関心を持っており、ダンス作品や写真作品の制作・発表をおこなっている。アンリ・ルフェーブル、エドワード・W・ソジャ、イーフー・トゥアンらの著書から空間論についての着想を得て、空間(知覚される、思考される、生きられる、地理的空間)に焦点を当てている。長く日高に住んでいる柏井家の話や、地域おこし協力隊の方々、沿革にいる斎藤さんの話を伺うことで、複数の視点での話を伺えたことは非常に有意義であった。併せて、2週間の滞在の中で、日高村村史を読み、実際に生活をすることで、明治以降の日本と日高村の変遷について思いを巡らせることができた。滞在期間中、特に夜は時間があったため、もし日高村に移住するならどういう生活を送りたいかについて考えてみた。私は数年前に結婚していて、パートナーの仕事が都市部でしかできないため、移住することは難しいだろうと予想された。しかし、私個人で移住を考える場合には、就農支援を受けて、農家として生きていくこともあり得るかもしれないし、和紙も仕事として面白いのでないかとも考えた。滞在期間中に、「いの・アートミーティング」や、高知市にある高知県立県民文化ホールでダンス公園を見ることができたことや、蛸蔵のようなインディペンデントスペースがあることも魅力的に感じた。地域おこし協力隊の方々も、溌剌としていて、移住先として魅力的な場所なのだろうと感じた。以前より、40歳を目前にして生活や働き方を変えたいと考えていたので、京都に戻ってからは園芸・農業関係の求人を探しており、自身の制作と生活のあり方を見直している。もし、今後日高村に滞在することが可能であれば、国道33号線と日下川の歴史を中心に、作品作りを行いたいと思っている。短期間でしたが、受入事業者となって下さった柏井さん、滞在のお世話をしてくださった斎藤さん、村内を案内して下さった地域おこし協力隊の村上さん、日高村の方々にも非常に感謝しています。本レジデンスでの、初日と最終日は台風と重なり、ある意味日高村、台風県高知を感じる機会になりました。期間中は、ゆったりと日高村を味わえ、充実した2週間でした。

参加レポートより

辻本さんの受け入れ事業者となったのは、作物をできるだけ自然な形で健康に育てることにこだわり、土壌を健康な状態に整えて少ない肥料や農薬で育てることができる「電子技法」で葡萄を、高設栽培でイチゴを育てている柏井ファームさん。

滞在中は台風の時期に重なったため、男手が必要な台風対策の作業を担ったそう。普段から鍛えられている辻本さんの力が役に立ったんですね。

好奇心旺盛な辻本さん、元々色々な地域について「知る」ということに興味があったそう。

ただ知りたいという純粋な気持ちから、いろんな地域に行って、情報集めをしていました。いわば、夏休みの自由研究みたいな感じ。どうしても自分の中からずっとアイディアが出続けるわけではないので、自分がおもしろいと思うことを体験して、刺激を受け続けたいんです。

nossonインタビューより

滞在中に日高村村史を読まれていたことも辻本さんならではの活動。かなりアカデミックにフィールドワークに取り組まれたいたのがわかります。たくさんの方に話を聞きながら、史料を読みながらその土地の歴史、文化、生活についてインプットされた辻本さん。

インプット多めなAIR日高村のプログラムは辻本さんに合っていたようですね。

2022年度参加アーティスト・スペースノットブランク

2組目の参加アーティストは、小野彩加さんと中澤陽さんのユニット「スペースノットブランク」です。

プロフィール
小野彩加と中澤陽が舞台芸術の創作を行なうコレクティブとして2012年に設立。舞台芸術の既成概念に捉われず、独自の新しい仕組みを研究開発しながら舞台芸術の在り方と価値を探究している。固有の環境や関係により生じるコミュニケーションを創作の根源とし、作品ごとに異なるアーティストとのコラボレーションを積極的に行なっている。2018年、高松市「高松アーティスト・イン・レジデンス」選出。2019年、穂の国とよはし芸術劇場PLAT「豊橋アーティスト・イン・レジデンス/ダンス・レジデンス」選出。2020年、ロームシアター京都×京都芸術センターU35創造支援プログラム「KIPPU」選出。2021年、金沢21世紀美術館芸術交流共催事業「アンド21」選出。2022年、KYOTO EXPERIMENT 2022「Shows」招聘。

nossonインタビューより

2022年10月。日高村にて14日間のアーティスト・イン・レジデンスを行ないました。私たちは二人組の舞台作家で、普段は舞台芸術作品を制作しています。過去にはアルバイトで接客業や販売などを行なっていたこともありますが、現在は作品制作のみを生業としているため、他業種の仕事に触れる機会はとても新鮮なものでした。しかも生姜農家というまったく未知の世界に、行く前までは一体何が待ち受けているのか、少しのこわい気持ちと、たくさんのわくわくした気持ちがありました。いざ行ってみれば、「日本はどこに行っても日本だな」と思ったり、「自然がたくさんあって心地がいいな」と思ったり。「こんな田舎にきて嫌じゃない?」と何度か訊ねられましたが、そもそも私たちの仕事が固定観念を拡張するようなことであることもあり、特に「田舎」か否かを気にすることはありませんでした。どこに居ようがインターネットさえあればなんでもできる現代だからこそ、かもしれませんが。「どこにいてもやることは変わらない」といつも考えています。しかしそれは「場所性」というものを否定しているようにも聞こえてしまうし、どうしても「ここでしかできないことは何か」を自然と考えようとしてしまいます。そのどちらもが共存した状態、つまり創造的な制作と、普遍的な生活を新しい場所で両立させるのがアーティスト・イン・レジデンスの魅力だと思っています。今回日高村には、私たちの思考、表現、活動などのあらゆる「必然性」を省みる機会にしようという意識で行きました。そしてまさしく現在の私たちの状態を発見し、理解しようとするところに至ったと感じています。私たちが何をやりたいのか、何をやり続けていきたいのか、何を表現したいのか、すべきなのか、完全な答えにはまだ辿り着いていませんが、その取捨選択するための新しい選択肢をたくさんいただけたとと思っています。それは何か、具体的に説明するにはまだ言葉が足りません。ただ、実感として未来の行く先を考えるきっかけのひとつになったことは間違いありません。今後、城崎やフランスでのアーティスト・イン・レジデンスを控えています。2023年から2024年にかけてはさまざまな場所に出向いて、さまざまな場所で上演する機会もいただいています。日高村での体験、経験は、非常に豊かなものでした。結果として私たちは私たちなりの目的と答えを導き出し、日高村という環境に於ける私たちの「必然性」に今後のわたしたちにとっての一縷の希望を垣間見たように思います。「次に何をするのか」を考えるために、必要な時間だったと、強く感じています。また高知にも、日高村にも訪れたいと思います。私たちができることを探しながら、たどり着くべくして辿り着いたひとつの場所として、これからも大切に日高村のことを思い出して、また新しい場所に日高村で生まれた萌芽を運んでいければと思います。

参加レポートより

舞台作家として活躍するお二人。「農家という全く違う職業に身をおいて、新しい生活サイクルを体感してみたい」という考えと、AIR日高村の「インプットに集中できるプログラム」に魅力を感じて参加されたそうです。

滞在中に作品を創れば、“成果”が目に見えて分かりやすい。でも日高村はそこではなくて、滞在経験から生まれるインスピレーションや、その先の繋がりに価値を見出していました。自分たちの芸術作品を作ることだけが全てではなく、生活や風景、情緒などを新たな視点でじっくり見つめて、インプットできる環境にも魅力を感じました。

nossonインタビューより

実際に滞在中は1日のほとんどの時間を壬生農園での生姜の芽取り作業、袋詰め作業に従事されていたそう。夜は疲れてよく眠れたということで、全身全霊で日高村の生活を体験されたんですね。

ご飯は地域の方に差し入れしてもらったりしながら生活していたそう。田舎ならではの交流の形ですね。

他の皆さんと同様ですが、もしまた日高村に来れたらこんな舞台を作りたい!という思いを持って下さっているようです。2週間たくさんインプットをした分、みなさんアウトプットの欲求が強いみたいですね。さすが表現者です。


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