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2021年度参加アーティスト久保田さん・葉栗さん【AIR日高村5日目】

こんにちは。フリーキュレーターの牛込麻依です。
2023年10月に参加しているAIR日高村の活動レポートをお送りしています。

AIR日高村

本日はお休みをいただき、他の仕事などを進める1日でした。この機会に、過去参加されたアーティストさんたちについてまとめておこうと思います。

まず、私が参加しているAIR日高村について。

日高村(高知県高岡郡)では、関係人口創出、人手不足解消に向けた取り組みの一環として、文化芸術分野(文学、音楽、美術、写真、演劇、舞踊、メディア芸術、伝統芸能、芸能、生活文化等)のアーティスト(キュレーター、評論家、研究者、アーツマネージャー等を含む)が、日高村に滞在して行う活動を支援する「アーティストインレジデンス事業」を実施いたします。
創作活動、制作作品の提出義務はありませんが、カウンターパートとなる事業者のもとで、規程の雇用条件で就労していただくプログラムです。

AIR日高村募集サイトより

全国各地で行われているアーティストインレジデンスのプログラムと異なり、日高村では「関係人口創出」「人手不足解消」に重点が置かれているわけです。

使っている助成金も、芸術系でよく使われる文化庁のものではなく、地方創生の文脈のもの。それゆえ、創作活動、制作作品の提出義務がないのが特徴です。

また、「カウンターパートとなる事業者のもとで、規定の雇用条件で就労していただくプログラム」となっています。簡単に言うと、滞在中には日高村の事業者(主に農家さん)のもとで、農作業などの業務をやってね、ということです。

アーティストインレジデンスというと、どうしてもアーティストは何か制作しなければ!何か発表しなければ!となると思いますが、その義務がないプログラム。滞在中何も作らなくてもOK。何もしなくてもOK。

それよりも、地元の事業者さんとたくさん交流して、シンプルな人手として活躍することに価値が置かれているんですね。

でも、単純に人手が必要なら、アーティストでなくてもいいのでは…?アーティストインレジデンスをすることの意味はどこにあるのだろう…?

まだまだAIR日高村を理解するには奥が深そうです。

2021年度参加アーティスト・久保田舞さん

AIR日高村が最初に実施されたのは2021年。初回の参加者は埼玉県からお越しのダンサー、久保田舞さん

プロフィール
1995年生まれ。埼玉県立芸術総合高校にて舞台芸術を学び、大東文化大学スポーツ科学科入学後モダンダンス部に所属。卒業後は作品制作・上演を国内外で行いフェスティバルでの作品上演や、シンガポールではレジデンスを経て現地アーティストと共に作品制作に取り組んだ。近年は他ジャンルアーティストとの共演や、オペラへのダンサー出演、在住する川越市にて野外パフォーマンス企画の開催に取り組むなど活動の幅を広げている。

AIR日高村2021年度冊子より

普段と異なる環境に身をおいて活動したいと思うきっかけとなったのは、2020年上半期頃、予定していた舞台等の仕事がキャンセルになったことでリハーサルや本番で都内まで都内まで出ていくことが無くなり、多くの時間を在住する埼玉県川越市で過ごしていました。その中でいつもは見えてこない人の流れや街の歴史に興味が沸き、協力してくださる人との出会いもありながら場の魅力に押されて地元で公園(野外パフォーマンス)を企画しました。
劇場ではない空間で、特に地元の人に見てほしいという想いで公園を行った際に作品制作のプロセスにおいてダンサーや振付家だけでとどまらず、地域の方の協力を受けて作り上げた空間に今までにない興奮を覚えたと同時に、さらに地域に根付いた活動ができないかや、他の地域にも足を踏み入れてみたいと、自身の活動方針が変化していきました。
普段経験できない環境に身を置き、土地や人々に触れながらその場でうまれたものや感覚を表現として残したり、あるいは作品にしなくてもさまざまな滞在経験をこの先の活動に活かしていきたいと考えています。新しい場や仕事に触れてみたいと思う中で今回の滞在がその一歩になり、活動を通じて日高村の魅力を外へ発信したり、日高村にも還元できるような滞在を目指せたらと思います。

エントリーシートより

コロナ禍で環境の変化があり、自分自身と活動方針を見直した久保田さん。「地域」への興味を持ち、地域へ飛び込む経験としてAIR日高村を活用されたのですね。

先日お伺いしたnossonさんもインタビューしていらっしゃいました。

こちらでも「地域と舞台芸術の関わりをもっと密接にできないかなと思うようになりました。」とお話しされてますね。

滞在中は、ショウガや文旦を生産している壬生農園さんでお世話になったそうで、休みの日も日曜だけ。あとはほぼ全ての時間を農業に充てていたというから驚きです。

10日間の滞在の中で、とにかくインプットをされた久保田さん。毎朝のルーティーンとして体を動かしつつも、壬生農園での農作業や壬生ファミリーとの交流を経て、さまざまな「カケラ」を集めたそう。

そういう『変わっていくこと』『失っていくもの』と『残していきたいもの』日高村で感じた“カケラ”を集めて、ひとつの作品にできたらと思っています。

nossonインタビューより

AIR日高村は、滞在時間も約2週間と短めです。その中で、作品制作に充てる時間も少ない。インプットに専念された久保田さんの滞在は、今後の活動に生かされる時間となったようです。都会の生活では体験することのできないさまざまな「カケラ」を集めることができるアーティストインレジデンスの形もありなんですね。


2021年参加アーティスト・葉栗翠さん

2021年2人目の参加者は、横浜育ちの画家・葉栗翠さん

プロフィール
横浜育ち。2009年武蔵野美術大学油絵学科卒業。見過ごされている土地の記憶を手がかりに、見えるもの見えないもの、忘れるもの忘れられないものをテーマに作品を展開。近年は画材の持つ魅力に着目し研究を続けている。

AIR日高村2021年度冊子より

当初は川についてのリサーチをする計画でしたが、滞在中一番考えさせられたのは「食べる」とは何かということでした。どんな生物も何かしらの生物の命をいただいて生きています。滞在前トマト農家で作業というと牧歌的でロハス的なイメージを持っていましたが、ハウスの中はとても機械的で、すべてを管理している工場のようでした。そしてそこで働く一人一人がそれぞれ歯車となり、責任を自覚してその役割を正確にこなすことで質の良いトマトを安定的に生産できるのだと改めて認識しました。反対に、山の中に分け入って行う狩猟では、罠にかかっていればその命を自らの手で殺し食べる、罠にかかっていなければ諦めて下山するという人知の及ばない自然との対話を見ることができました。大花地区でのこんにゃく作りに参加した際は、自生しているコンニャクイモを使って、かつてはそれぞれの家庭でこんにゃくを作っていたそうですが、高齢化が進み、作り手が減少しつつあるため、移住された方が地域のお年寄りから作り方を習ったとうかがいました。
日高村の圧倒的な自然の恵みは都市部で育った私の想像を悠々と超えていきます。しかし不安定で労力もかかるため、狩猟やこんにゃく作りなど自然の恵みをいただく行為が今後も継承されていくのか気がかりです。ただ俯瞰してみると、このように思うこと自体が、稀人として訪れた私の戯言なのかもしれません。しかしながら少なくとも日々食べている物について、それがどのような経緯で私の胃の中に入っていくのか、延いては菜食主義や都会で食べるジビエについて考えるきっかけとなりました。能津での最後の夜、「また戻ってくる?」と隣のおんちゃんが夏に仁淀川で獲った鮎を焼きながら言ってくれました。まだ今は日高村での経験がどのように制作につながるか想像ができませんが、確実に私の血となり肉となりました。そして日高村が私にとって知らない場所からいつでも戻ってこられる場所になった事実を、横浜に帰ってきてもにやにやしながら噛み締めています。

参加レポートより

2週間の滞在中、トマト農家の日高みよし農園でトマトの収穫作業に従事した葉栗さん。久保田さんと同様、1日のほとんどの時間を農作業に費やしたそう。

インタビューの中でも、「私は地域で働くということに魅力を感じて、日高村に来ました。」とお話しされていますね。

トマトの収穫作業の他にも、地域の方に連れられて狩猟に連れて行ってもらったり、こんにゃく作りの現場に立ち合ったり、農園の中だけの活動にとどまらず、たくさんの方と繋がり、交流し、唯一無二の経験をされたことが伺えます。

日高村のアーティスト・イン・レジデンスは、作品や成果物を強制的に求められてはおらず、滞在期間中は、ただ地域の人たちと働く。
一般的に「アーティスト・イン・レジデンス」という名前から想像するようなものではないかもしれません。
でも、私は一緒に働いたからこそ、人と深く関わることができました。
新しい土地にきて、新しい人に出会い、新しい文化に触れ、今までにない環境に身を置くことで、多くの刺激を受け、他のアーティスト・イン・レジデンスでは得られない収穫がありました。

nossonインタビューより

都会では体験することのできない自然のなかで、普段の生活では触れることのない方々との暮らしに寄り添った葉栗さん。かけがえのない経験からの収穫=インプットが多かったことでしょう。

成果発表を義務としないからこそインプットに集中し、満足のいく経験ができるのかもしれませんね。

お二人には個人的に直接インタビューをさせてもらいたいところです。
本日はこんなところで。

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