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2022年参加アーティスト③秦雅則さん・大漁舟隆之さん【AIR日高村13日目】

こんにちは。フリーキュレーターの牛込麻依です。
2023年10月に参加しているAIR日高村の活動レポートをお届けしています。

2022年のAIR日高村

今回はAIR日高村2年目となる2022年参加アーティストのまとめ第三弾ということで、秦雅則さん・大漁舟隆之さんのお二人を紹介したいと思います。秦さんは2022年10月中旬から11月頭まで、大漁舟さんは12月上旬から下旬まで日高村に滞在されました。

2022年度参加アーティスト・秦雅則さん

2022年度のプログラムで4組目となるアーティストは、写真を用いるアーティスト秦雅則(はた まさのり)さん。

プロフィール
写真のイメージを用い、既存の価値観に矛盾や亀裂を引き起こす作品を制作する。
1984年福岡県生まれ/2009企画ギャラリー明るい部屋設立/2012出版レーベルA組織設立/2017以降、AIRを利用し様々な土地を転々とする。
展示歴:国内外にて個展・グループ展多数/受賞歴:写真新世紀グランプリ/コレクション:清里フォトミュージアム
主な出版物:「写真か?〜秦雅則と鷹野隆大による対談集〜(2013)」/「二十二世紀写真史〜秦雅則と同世代作家35名による対談集(2015)」/「写真集・鏡と心中(2016)」/「写真集・ZOI&HEO(2019)」/「写真集・今日、心の中は怪談の戦争(2021)」

約2週間という滞在期間ではあったが、農園でのお手伝いは3日間という短い期間だった。それでも、日常では経験することのできないかけがえのない時間を過ごすことが出来た。これまで参加してきたアーティスト・イン・レジデンスでは、アーティストとしての私だけが求められていたが、日高村でのアーティスト・イン・レジデンスでは、アーティスト×農家という自分自身でも想像ができない状態に身を置くことになり、最初は何を求められているのか、自分も何を求めていくのかが分からないという混乱もあった。しかしその混乱は、いつ何時に自分の立場が変わらざるをえない状況になるか分からないという現代の混乱に重なるものでもあると思った。いま仕事としているものが、何十年後も人間がやる仕事として存在しているか分からないAI革命や、何年後におこる分からない自然災害による生活環境の変化、今後想定されている試練だけでも、これまで日常と思っていたことが一瞬で変わってしまうことは想像に難しくない。新種の疫病の流行により、この数十年では大きな都市機能の麻痺を経験した私たちにとっては、想定されているもの以上の試練面も考えておかないといけないだろうし、この現代をバイブしていくために必要な準備というものは沢山あるのだと思う。全てが一つの正しさだけで動いていく時代ではないからこそ、自分自身で様々なことを直に感じられる、考えることが出来る機会として、このアーティスト・イン・レジデンスの混乱は面白いものだと思った。もうひとつ、今回のアーティスト・イン・レジデンスでは単純にとしてきな暮らしだけでは経験できない農村的な暮らしを経験させてもらい、近年の地方移住のムーブメントの一端を垣間見ることができたのも面白い経験だった。日高村は高知市の中心地から電車で30分、車で20分程度の立地の良い田舎であり、農村と言っても中間地点にある場所だと思う。中心地へ通勤圏内であり、少し足を伸ばせば遊びに行ける近所の田舎。なので移住しやすいという強みもあるだろうが、村政がしっかりと移住希望者、移住者へのフォローをしているという雰囲気が見受けられた。作業をお手伝いさせてもらった日高みよし農園の三好さんも東京から移住してきた方で、農園は二年目ということだが未来について楽しそうに話をし仕事に励んでいる姿が印象的だった。アーティスト・イン・レジデンスを利用して様々な土地に住むことを選んで約5年が経つが、国内外ではそれこそ様々なことが起こっている。その全てに当事者として関われているという感覚は持てないが、少しでも自分が場所を移動することで、新しい人々に会うことで、その人々や土地の持つ課題を知ることで、自分の生きている場所がどういうところなのか考えてきた。アートという言葉は人によって捉え方が大きく異なるが、自分にとっては生活や、それを営む私、関わる他人、その奥にいる多くの人々、小さなコミューンの暗黙の決まり事から国の制度、科学の進歩や、地球や宇宙の成り立ち、視線を変えてみるだけで多くの興味対象が現れてくるということを教えてくれるものだと思っている。時として、小さな考えや行動が大きな意味へと繋がることもある。そういうことを頭の片隅に置きながら、日高村でのささやかな日々を過ごしてみた。

活動レポートより

秦さんは日高みよし農園に受け入れされ、3日間農業体験を行ったそう。3日間だけだと、農作業を進めるというよりも、職場見学・体験程度で終わってしまうそうだが、それ以外の時間を思索にふける時間や、写真の撮影に使ったようです。

2022年度参加アーティスト・大漁舟隆之さん

2022年度のプログラムで5組目、最後に参加したアーティストは、画家・映像作家の大漁舟隆之(たいりょうぶね たかゆき)さん

プロフィール
画家・映像作家。生まれは東京・中野。只今は青梅市在住。大阪芸術大学で映像を学び、以降は絵画作品と並行して映像を作り続ける。土偶や仏像などをモチーフとし、生と死、ミクロとマクロ、ざわめきと静けさなどのあらゆる相反するものの気配をあらわした「像」のシリーズの絵画作品、建築物や地図、細胞をイメージした細密画を制作。また手書きのアニメーションなどの映像制作も行なう。手法にこだわらず実験を重ねながら、異星人が眼を剥くような作品を追求している。
2016 年「第六回 天祭一〇八」にて「増上寺現代コレクション」グランプリ受賞。
2017 年「福爾摩沙(フォルモサ)国際映画祭」(台湾・台中市)にてアニメーション作品「太平ナンバー」を上映。
以降、個展、グループ展等で発表を重ねる。
2021 年に参加した「東京ビエンナーレ 2020/2021『アートユニット野営の東京大屋台』」より仮面制作も行う。

nossonインタビューより

何も決めず、東京と違う日々を過ごすことができた14日間の滞在でした。中でも滞在の軸にあった日高みよし農園での時間が印象に残っています。黙々と作業を行ない、休憩時間には椅子を出してお茶を飲みながら皆で談笑する。近すぎず遠すぎず、入りたければ入っておいでと適度な距離感で受け入れてもらえるような感覚がありました。自分が外からの視点を持ち込んでいることを踏まえたとしても、農園の方は不思議なくらい邪なものを感じさせない方ばかりで、冗談を飛ばし合う姿や、時にじゃれ合うような姿も鮮明に印象に残っています。朝出勤してビニールハウスの戸を開け、皆さんと挨拶を交わすときに、前の日の明かり時間がそのまま続いていることには日々ホッとする気持ちになりました。朗らかでありながらどこかシャイで、仕事に対しては真剣に抜き合う姿勢をそれぞれの方から見せていただきました。機械を用いてコントロールを行うビニールハウスですが、その中で対話するようにトマトと向き合い、日々の観察と改良、美味しいトマトを作っていく覚悟を三好さんと話していて学びました。農園の皆さんの積み重ねと創意工夫がハウスのあちこちにあり、ツルおろしの工程の中にはパートの方が作ってきた木の棒を改良した道具が存在していたり、作業に必要なものがないときはあそこにあれがあったはずだ、と余った材料を適正なサイズに切ってあてがって使うような場面を度々目にしました。用意された便利に頼らず知恵を働かせて、工夫をして対応することがこともなげに行われていることに、恥ずかしながら感動して過ごしていました。本来当たり前のことなのかもしれませんが、それが案外自分の周りから見かけなくなって久しいなど、そんなことを思いました。余所者なので美化している部分があるかもしれないと自問しながらも、日頃自分が暮らしている場所での当たり前を疑って考える毎日でした。意識して特別な過ごし方をしたつもりはなく、基本的にはいつもどおりのような暮らし方をした約2週間の滞在の中で出会った人や出来事は当面自分の頭から離れず、そこから学んだことは生活の中に知らず知らずに還元されるのではないかと思っています。また遊びにきてね、と色々な方におっしゃっていただき、AIR日高村のおかげでご縁ができ心強い限りです。

活動レポートより

大漁舟さんも同じく日高みよし農園さんに受け入れされ、2週間農作業をされたそう。みよし農園さん曰く、観察力があり器用で、言われた指示を的確にこなす力があったとのこと。普段画家として活動している中で鍛えられた目と手が役に立ったようです。

元々大漁舟さんは農業に興味があったそうで、AIR日高村のプログラムとも相性が良かったとか!三好さんも興味がある方が来てくれて嬉しそうでした。

「ゆくゆくは農業をしたい」と思っていたわけではないのですが、ここ最近農業の知識があることで「作品作りの発想が変わるのでは?」と感じていました。農業を体験する入口を探していたところだったので、ちょうど良いスタイルでした。

nossonインタビューより

滞在中は、NPO法人わのわ会で、障害者の方を対象にした年賀状を描くワークショップを開催されました。

でも、僕はどんな絵でもその人にしか描けない面白さがあると思っています。ワークショップで1番意識したのは「正解も不正解もないから、好きなものを描いていい」ということを伝えることでした。どんな人でも好きに手を動かして、日常の一部で絵を描くようになったらいいなと。今後も制作活動とまた別に、今回のようなワークショップをやりたいですね。

nossonインタビューより

日高みよし農園でパートの方々とたくさんコミュニケーションをとり交流しただけでなく、わのわ会でもアートをツールにした交流を。大漁舟さんは滞在中の時間を有意義に、村に何かが残る形で過ごしてくださったようです。

宿泊したとまととには、大漁舟さんが描いた絵が飾られています。こうやって目に見える形で残してくださるのも嬉しいですね!

左上、黄色の背景のトマトと、右下の長〜いトマト

なかなか普段の生活の中で絵を描くことってないですよね。AIR日高村のアーティストが来たから、絵を描く機会ができたのだと思います。AIR日高村、いいことやってますね。

以上で、過去参加されたアーティストさんたちのまとめを終わります。


陶hanayaの美しい陶器

日高村の中でも谷間にある陶hanaya。元々お祖父様が使っていた納屋を工房にして、陶芸をされています。お隣の母屋ではお母様が雑貨店を運営。

おしゃれな豆皿
思わず手に取りたくなる造形美

高知県内各所で個展も開催されているようなので、ぜひフォローしてみてください!


大滝山ハイキング

日高村で手軽にハイキングができると聞いて、大滝山にやってきました。片道約45分くらいのハイキング。頂上付近には巨岩がゴロゴロと。

胎内くぐり

頂上は絶景!風が拭いている日だったので、とっても気持ちよかったです。高知ならではの山並みの景色が広がります。

こちらのハイキングコース、観光協会主催で体験コンテンツとして実施中!お寺のお坊さんの説法を聞きながらのハイキングというなかなかクセ強めなものになっています。皆さんもぜひ修行体験してみては?


城八幡宮 花採太刀踊り

毎年10月15日に行われる、無形民俗文化財の太刀踊りを見てきました!

毎年曜日関係なく、10月15日に行われるそう。700年の歴史をもつ、由緒正しい踊りです。ベテランの方々は真剣を持って踊ります。太鼓と鐘、歌に合わせて狭い境内で踊る様は圧巻。皆さんの練習の成果にうっとりしました。

近年は少子高齢化が進み、踊り手も少なくなってきているようですが、700年の歴史を存続させようと頑張っていらっしゃいます。どうにかこのまま続けていってほしい文化です。なかなか貴重な体験をさせていただきました。


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