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ずっとイライラしてる美しい人へ

どこのどなたかも存じ上げない、年の頃は35歳程の美しい女性が私の隣に座った。

その日は、私の誕生日で、塾帰りの息子と待ち合わせをして外食をする予定だった。
早めに店についた私は案内された席で息子を待った。
そして隣のテーブルでその美しい女性は一緒に来ていたお友達に身の上相談をしていた。

聞くつもりはなかったが、あまりに大きな声なのでどんどんと会話が耳に入ってくる。

どうやら彼女は保育園に通う子供がいるシングルマザーで、その日は祖父母に子供を預けて来ている様子だった。

彼女は終始イラついていた。

友達に話す内容も相談というよりは愚痴や不満のオンパレードで、途中かかってきた電話にも非常に大きな声で荒々しく対応していた。

その様子はまるで昔の自分だった。

息子が3歳の時からシングルマザーとなった私は、いつも何かに怒っていて常にイライラしていた。そしていつの間にか子供はとても敏感に母親の機嫌を察知し、母親が望む反応をするようになっていた。

わが息子も週末はよく実家に泊まりに行った。
「おじいちゃんの家にお泊りに行く?」と聞くと、必ず「行く」と言った。私が望む答えを知っている息子の、私に気遣っての「行く」だった。

その美しい女性のこどももおじいちゃんの家に泊まりに行くことを嫌がらないと言っていた。
我が家のように、母親に気遣っての「行く」でなければいいなと思った。

息子が実家にお泊りに行っている間は、友達に会って彼女と同じように愚痴を聞いてもらったりお酒を飲んで過ごした。
ストレス発散をしているつもりだった。
しかしその時は多少気分が晴れても、朝起きるとまた同じ日常の繰り返しで改善されることは全くなかった。
それどころか、ますます悪くなっていった。

人は口から入るもので作られるのではなく、口から出るもので作られるとはよく言ったもので、当時の私は口を開けば愚痴や文句で、自分で自分に嫌な言葉を浴びせ続けていたのだ。
改善するはずがなかった。

それに気付くまでに本当に長い時間をかけてしまった。

そんな日々を思い出しながら、息子が来るのを待った。

少しして現れた息子は誕生日プレゼントに、あるアーティストのCDをプレゼントしてくれた。
それを選んだのは、私と息子の共通の好みのアーティストだったからだという。
彼は一所懸命に考えてプレゼントを選んでくれた。
私はとても嬉しかった。

その美しい女性に伝えたい。

「私もひとりで子供を育ててとてもつらかった。
だからあなたのその苛立ちや怒りがとてもよくわかる。
でも、心配しなくてもよい。
いつか必ず気付くときがくる。
我が家も息子はこんなに良い子に育ってくれた。
あなたもきっと大丈夫。」

ただ「大丈夫だから安心していい」と言ってあげたい。

でも本当は、ひとりでよく泣いていたあの頃の自分に言いたいことなのかもしれないな。



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