見出し画像

【毎週ショートショートnote】半分ろうそく

あと半分.......、あと半分.......。

雲ひとつない空の下、子どもたちが賑わう公園のベンチに一人の男が座っていた。
防風ストールを羽織った40代後半の川戸守かわどまもるは、燭台の上にある火の灯ったろうそくを大事そうに見守っていた。
そのろうそくは既に半分まで溶けており、八重咲きの雛菊ひなぎくのように全方位均等に蝋が垂れ下がっていた。

「おじさん何見てるの?」

頭に長いろうそくと燭台を乗せた少年が、ジャングルジムから飛び降りて川戸に近づいてきた。

「自分のろうそくに決まってるだろ。あんまり近寄るな、土煙が立つ」と川戸は言い、少年を手であしらう。

「おじさんのろうそく綺麗だね」

少年は川戸の警告を無視して、ろうそくに顔を近づけた。

「やめんかい、このクソガキ。やっぱり外なんかに出るんじゃなかった」

「おじさんのろうそくあと半分もあるのにずっとじーってしてるの?」

「あと半分もあるからだろ。これだからクソガキは」

燭台を持ったまま立ち上がる川戸は、あまりの怒りに地面を強く踏みつける。
すると、その衝撃で起こった土煙が鼻を刺激し、思わず出たくしゃみがろうそくの火にかかってしまった。ろうそくの火が消えると同時に川戸守は煙となって消えていった。

少年は残った半分のろうそくをしばらく眺めて途中で飽きると、またジャングルジムの方へと走っていった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?