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お金はないけど時間はある

どんよりした天気が続いたせいか、
久しぶりに気持ちがずっこけている。
くー、晴れない。

実家に行くことになっていたが、今日は頭が痛いからやめておく、とLINEする。母から電話があり、私の体調を気遣う声。風邪ではないのね、と確認。今週の予定を確認し、やはり今日父の病院に行こう、という話になる。では午後の面会時間に合わせて!という話でまとまった。のっそりした気持ちを、えいっと動かす。外は晴れてきて、うっすらとした頭痛は消えた。電車で読む本を決める。読みかけの『モモ』にする。

母と駅で会い、父が入院する病院に行く。父の顔を見ていろいろ思うことはあった。ともかくリハビリを頑張っていた。文句が出るってことは元気な証拠か。あっという間に面会時間は終わる。実家でコーヒーを飲む時間だけはあった。栗味のチョコパイをくれて、あられせんべいを食べ、母としゃべる。別日だったら、この時間は持てなかった。こんなちょっとした余裕が必要だなあ、と思う。
「私はお金はないけど、時間はあるな」
なんて、つぶやく。時間はさしだせる。
今の私は、そういうふうにできている。
「話ができるといいわ」と母が言う。
良かったと思う。今の私にできること。

帰りの電車で『モモ』の続きを読む。カメのカシオペイア登場のシーン。こうやってあらわれたのか、と読み返して気づく。私がカメを飼うとしたら、名前はカシオペイアにしよう、なんて思う。ページは第三部の前まできた。読み返すのも、とてもいいものだ。

帰宅し、洗濯物を取り込む。子どもたちも帰宅。雨が強く降る。娘の習い事に送りたいが、しばし足止め。自転車では行けないから、2人で傘をさして歩く。また空はどんよりしてきた。まったく、どんより雲。つい足早に歩いてしまう。娘の歩幅に合わせよう、と立ち止まるがまた早くなる。そんなことを繰り返して到着。「がんばってね」と声をかけて、教室のドアがパタンとしまった。

ぱっと空を見たら虹がくっきり見えた。虹!とさけびたくなる。虹ってなんて嬉しい気持ちになるのだろう。誰かに教えたくなる。誰かときれいだね、と分かち合いたい。歩きながら、虹を見つめる。ありがとう、と思う。3人の知らない方にすれ違い、「虹が見えますよ」と声をかけた。1人は虹を見なかった。猛スピードの自転車だったから。もう1人はどこどこ?と目を輝かせた。もう1人は空を見上げて「わあ」と嬉しそうに言った。

なんてことない昨日という日。
あれは、ご褒美の虹だった。