曇天にゆず
娘と小学校まで。
これが曇天というのだよ、
と言いながら歩く。
手袋と手袋で手をつないで歩く。
この冬、私は初手袋。
あったかいなあ。
寒さの中で感じるあったかさは
たしかにうれしくなる。
*
登校班の集合時刻は7時45分。
けれど娘は7時30分に家を出ないと
気持ちがダメになってしまうよう。
班長は息子で息子は43分くらいに家を出る。
(だから)あわてることなんてないんだよ。
○くん(お兄ちゃん)を見てごらん。
とか言ってみるけど、
そういう問題じゃないんだよね。
用意もすっかりできているのに、
35分じゃ、もう許せなくて泣いている。
じゃあ遅刻して行く?というと泣き止む。
一気に元気になる。そんな感じで、
ちょっと遅刻して行くことが増えている。
遅刻って言っても、
朝の会が始まる直前。
いつまでも続くわけじゃないだろう。
昨日は近所の子どもが泣いていた。
何がおきたのかは分からないけれど、
多分昨日は行きたくなかったんだろう。
「ひとりで(学校に)行くから」
と泣いている。
「登校班で行けなかったら、
(保護者と)一緒に行かないと
いけないの」お母さんが困ってる。
お母さん、仕事間に合わないだろうな。
洗濯物を干しながら
2人のやり取りがちょっとだけ見えた。
お母さんの気持ちを思う。
男の子の気持ちを思う。
うちも同じだよー、と連絡しようかと
思ったけれどやめておいた。
そのうち、私たち親子が歩く姿を
目にするだろうから。
小学校に着いたら、
担任の先生があわてて職員玄関に
入るのが見えた。
あ、先生も遅刻じゃない?と娘に言う。
娘は えっ って顔をして、
振り返ることなくダッシュした。
*
帰り道。空をながめる。
ふたたび曇天だなあと思う。
大根を買って帰ろうと
100円玉2枚ポケットに入れておいた。
畑をやっているひとが、
庭先で野菜を売っている。
そこの家には柑橘の木がいくつかあって、
今、見事に実っている。たわわ。
むかしアゲハの幼虫を飼っている時、
ここの家から葉っぱを分けてもらった。
「すみませーん!
アゲハの幼虫を飼っている
○○と申しまーす!」
緊張しながらおじさんに声をかけたあの日。
へ?って顔されたけど
「ああ!アゲハの幼虫ね。いいよねえ。
好きなだけ持って行きなさい」
と言ってくれて嬉しかった。
私が絵描きなら、
この柑橘の木と家を描くな、
とながめるたび思う。
今日は何が売っているのか。
ゆずが二個で100円!
立派な大根もあったけど、
葉つきのかわいいにんじんもあって。
結局、ゆずとにんじんを買った。
箱にちゃりんとお金を入れる。
台所のカウンターにゆずをおく。
さっそく部屋中、ゆず。
これだよ、これ。
二個のゆずがよりそっているかのよう。
おつかれさまのゆず。
ずっと良い香りに包まれている。
いいものを買えた朝だった。