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ムーミン博物館で買ったもの フィンランドノート③

洋服の整理をしていた。
そしたら、出てきた。
もう捨てたと思っていたものが。
引き出しの奥に、ちゃんとあった。
フィンランド、タンペレにある
ムーミン博物館で私はそれを買ったのです。
※今はムーミン美術館というそうです。



2008年9月30日、私はヘルシンキにいた。
ヘルシンキからタンペレまで電車で二時間。
出発音も特になく、
スーッと…発車したような記憶がある。

旅行会社が手配し郵送してくれた
全ての紙にペンでアンダーラインをひき、
決して間違えることのないように、
駅にとまるたび駅名をチェックした。
丁寧に書かれた旅行会社の紙は、
私にとってお守りだった。

どんどんのどかになる風景。

今回の旅の目的でもある
ムーミン博物館にいよいよ行くのである。

私はムーミンが好きだ。
きっかけはおそらく、小学生の頃にテレビで見たムーミンパペットアニメーション。ランプやムーミンママのバック。ほれぼれした。9歳の私を夢中にさせた。番組が終わると私はムーミンの世界にひたる。まるでお風呂でちょっとのぼせたかのように。しばらく、うっとりとしていた。

小5の時、ムーミン童話の読書感想文を書いたことかあった。でも、その時はムーミン童話の良さをまったく分かっていなかった。
ところが、大人になって読むとすごいのである。そのひとこと!きましたな、と心にバシバシ届けられる。これは子どもだけのための本ではない、本物ってそういうことなんだ、って思った(『ムーミン谷の十一月』が特に好きだ。何かを変えたいとか、一歩踏み出したいひとに特にすすめたい)。

そして、私はムーミン博物館にやってきた。

平日だったからかひとは少ない。フィンランド人はほんの少しで、見かけるのは日本人ばかりだった。つくづく思う。日本人ってムーミン好きだなあ、って(もれなく自分も)。1人で見ている女の子もいて仲間だなあ、と思ったけれど、言葉を交わすことはなかった。お互いにそんな感じ。1人でわざわざフィンランドに来て、わざわざ日本人と話したくないのだ。そんなオーラが互いにあって、あえて目を合わせることもなく、ちょっとおもしろかった。互いに暗黙の了解のように分かり合えていた(気がする)。

雑誌MOEの特集でさんざん見てきた
夢だった「ムーミン屋敷」。
ひとつひとつじっくりながめ、
心ゆくまで一枚一枚の絵をながめる。
そこに書いてある解説も読み込む。
期待通りの見応えだった。

ものごとって、みんなとてもあいまいなのよ。まさにそのことが、わたしを安心させるんだけどもね

トゥーティッキ
『ムーミン谷の冬』より

この言葉が心に残って、
私はノートにメモしている。

続いてお楽しみでもあるミュージアムショップに向かう。ポスター、絵はがき、ムーミンのクッキー型を選ぶ(これらすべてもうないけれど)。そして洋服2枚を手にとった。一目惚れだった。私のではない。赤ちゃん用だ。彼氏もいなくて結婚の予定すらないと言うのに。躊躇することなく、ベビー服の男の子用と女の子用を買う私。もし使うことがなかったら、誰かにあげようと思った。おねえちゃんの子どもにあげよう、と。でもでも、自分の子に着せたいよなあ、と思いながら。

旅で夢見たすてきな出会いなど一切なく
フィンランドから帰国する。
一人旅で、何かが変わることを
期待したけれど、
相変わらず私は私のままだった。

ところが、ほどなくして
夫に出会うことになる。
私たちは付き合うことになり
結婚する。

そして、ついに
タンペレのムーミン博物館で買った
ベビー服を着せる時がきた。

男の子が生まれ、

女の子が生まれた。

こうやって着せる時がくるなんて。

27歳の私、よく買っておいてくれたね、
と言ってあげたい。

タンペレのムーミン博物館で買った
ムーミンのベビー服二枚。
子どもたちはすっかり大きくなったし、
よれよれだけど。
やっぱり捨てられない。

引き出しをあけるたび、
よく見えるように奥ではなくて、手前に。
昨日、私はしまったのでした。