おつかれランドセル

「お前、今何って言った?」

男の子がくるっと振り返り、
黄色い傘を振り上げる瞬間を見た。
男の子3人。学校からの帰り道。
傘の先は男の子の腕に当たった。
…目に当たらなくて良かった。

「えー、コトバ」

「あ、何って言った?」

ますます怒る男の子。
困ったように笑う男の子。
けっこう痛かったはず。
私は両方の子を知っている。
3年生の男の子たち。
もう一人の子は、どうしようと
2人を見ている。

私は自転車をゆっくりこぎながら、
気になって、彼らの顔をのぞいた。
それ以上さわぐことはなさそうだった。
ちょっと振り返り振り返り、
自転車をこぐ。
私が立ち止まり、
どうしたどうした、
という話ではなさそうだった。
それは、おせっかいだな、
と自分に言い聞かせる。

こんなことがあるのだろう。
いちいちあったイヤなことも
もう親には言わないでおく日々
というものがあるのだろう。



そういえば、息子がめずらしく
泣いて帰ってきたことがあった。
それも6年の時だから最近。

目にゴミが、と言っていたけれど、
どうもおかしい。
しくしく泣いている。
聞いてもこたえない。
何も言わない。

でも、どんなはずみだったか。
その夜、コタツでしゃべっていた時
ぽろっと教えてくれた。

からかわれてさ、頭にきて、
Aくんを蹴ったんだ、って言った。
信頼している友だち、Aくんを。
その子がそんなことを言うなんて
信じられなくて。蹴ったんだって。
でも、Aくんは仕返ししなかったんだ。

どうしようもない気持ちになって、
自分のしたことも含めて、
息子は涙が出てきたらしい。

泣いて帰ってきた日の翌日。
帰ってくるのが遅い。
遅すぎる。と思ったら、
Aくんともう一人の友だちBくんと、
3人でただただ、しゃべっていたそうだ。
どんな話をしていたのかは
分からないけれど。
とにかく、あの出来事は
どうでもよくなったらしい。
そのBくんっていうのが、
私からするとすごい子で、
息子が困っている時に
なぜかいつもかたわらにいる。

今日は卒業式で、
Aくんと写真を撮った。
Aくん、Bくん、みんなと一緒に帰った。



あの日の3年生の男の子たちを見て、
私はつくづく思った。
背中に背負うランドセル。
ランドセルはほぼすべてを
知っているんだろうなって。
ランドセルってカメの甲羅みたい、
って私、よく思ってしまうんだけど。
いろんなことをランドセルは、
背中で一緒に受け止めているのだろう。

ランドセル、おつかれさま。