親の笑顔

「年に何回かしか笑わないオヤジが笑ってました」と後輩がニヤニヤしながら話してくれた。その笑ったコト、が何だったかを忘れてしまったけれど。後輩のお父さんがめずらしく笑ったというコト、がおもしろくて。あの時、私まで一緒にニヤニヤ笑った。いまだに後輩の言葉を思い出してちょっとおかしくなる。もう10年以上前に聞いた話なのに。

母が笑っていると嬉しかった。
買い物に一緒に行って、母の気に入ったものがあると、すごく嬉しかった。母の嬉しそうな顔が嬉しかった。母が涙をながして、腹をかかえて笑っている姿は特に嬉しくて(これこそ、後輩のお父さんと同じく年に何回か)。そんな姿をたくさん見たいと思った。
子どもの頃から。そして今も。

母に花をプレゼントするとすごくいい顔をする。近所のスーパーで売られている花束はかわいくて安い(500円)。ところが、母の住む駅の花束はものすごく高い。なかなか買えない。でも時々、一輪だけ買う。前に芍薬を一輪買ったら、ものすごく喜んでくれた。芍薬は駅構内のアオヤマフラワーマーケットで買った。

それから、時々アオヤマフラワーマーケットをのぞく。やはり花束は高い(近所のスーパーと比べたらだけど)。一輪だけ買おう、とながめる。今日はじっくりながめた。シルバピンクという名前のバラがあって、一本の茎からたくさんのバラがついているから(スプレーバラというそう)一輪にも見えない。だから、それを買ってみた。

レジに持って行ったら、
「ご自宅用ですか?」と聞かれて
「あ、えーっと、はい」と言ってしまった。
「あの、母にあげるんです」と言い直す。

「お母さまにあげるんですね」と
店員さんがパッと目を輝かせた。
「無料でのお包みもできますよ」
と言ってくれて、結局そうしてもらった。
「お母さまに、(このバラは)お水は
たっぷりで、とお伝えくださいね」
と店員さん。

店員さんの言う「お母さま」はなぜかあたたかくて。二回目の「お母さま」に不意に泣きそうになった。いや、ここで泣いたらダメダメとちょっと我慢。時々こういうことがあって困る。でも、これはいい店員さん(いいひと)に出会えた証拠でもあって。ピンクのかわいいバラを手にして、るんるんで母の住むマンションに向かった。

母の笑顔がもう見える。



私は子どもたちに、家族に、
笑顔を見せているだろうか。
やはり、たくさん笑いたい。
笑い合いたいものだ。

笑顔、笑顔。