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読書録:あなたも狂信する by 横道誠氏

著者を含めた様々な宗教1世・宗教2世の方へのインタビュー結果を通して、宗教1世を追体験するということが本書の目的だと、下記記事でまとめました。
今回は引き続き、読者録としてまとめます。

私にとっては、母の思いや感覚を追体験できるのではと期待しつつ、本書で学んだことや感じたことをまとめます。

共事者という概念

年初に能登半島地震もありましたが、地震を例に挙げられていて分かりやすかったです。
自身が被災の当事者でなくとも何らか行動を起こした人=共事者。

じぶんがいかなる共事者性を有するかを問題意識の中心に据え、じぶんの固有の当事者性を参照しながら、共事者としてできることを考えていくのが共事者研究だ。

あなたも狂信する No.90/2567より抜粋

これは、私のような立場からマルチ商法1世課題や、宗教2世問題、旧統一教会問題などを見る立場にあるものだと思いました。LGBTQ+のアライと一緒ですね。

「真理」という言葉がなかなかしっくりこない

一方で、頻繁に出てくる「真理」という言葉。私が理系の人間だからか、私がマルチ商法や宗教などにどっぷりと信仰したことがない(というより母を見てきたことから何か1つにハマることを強く避けてきた)からか、自分事として捉えづらい。

本書内で出てきた事例を挙げると、

  • (親鸞会1世談)発達障害と診断され、社会に居場所を発見するのが難しく、若い頃から「真理」を求めていた

  • (統一教会1世談)統一教会には普遍的な「真理」というものが実在するとじぶんに言い聞かせた

  • (エホバの証人1世談)信じれば亡くなった祖父に楽園で再会できる、死は超越されなければならないという教えが「真理」

一連の方々の話を読むと、「自身が置かれた立場、どうにもならない状況を、神様などのより上位の存在や考え方で解釈をするために必要な、すがりたいもの」と捉えました。

公平世界コンプレックス

横道さんが提唱した概念。この言葉は「真理」以上により身近で、実感できました。
マルチ商法会員に当てはめたときに、会員が「真理」を求めているとまでは言いづらいように思いますが、「公平世界コンプレックス」は、宗教1世とマルチ1世に通ずる概念だと思います。

世の中が公正なものだと信じたいのに、そうとは思われない場面に出会って絶望した人たちが多いのではないか、と感じるようになった。まじめに生きていれば、ふだんのおこないが承認され、公正に評価されたいと願うのは当たり前のことだ。

あなたも狂信する No.573/2567より抜粋

もっと万人共通かもですが、特にハマってしまう人には多いと思われます。マルチ商法の場合、

  • このサプリを摂ると発達障害が治る

  • アロマオイルを塗布するとアトピー性皮膚炎が治る

などと、不安を抱える主婦などをターゲットにする勧誘事例が多いです。
家事・育児に疲弊し、やるのが当たり前とされワンオペで家を守ってきた主婦などが、家計の足しに・子どもの健康のために・家族のためになどとマルチ商法を始めるきっかけの背景には、「公正に評価されたい」という自身の存在や想いを(会員である限り)認めてくれるマルチ会員のコミュニティがあるのだと思います。
※辞めた瞬間縁は切れる方がほとんどなのど、なぜ認めてくれるかは考えればすぐに分かると思うのですが…

特に今マルチ2世の被害者が一定いるのは、30年以上前にマルチ商法が流行った時期にハマった親をもつ子どもが、成人して課題を認識し、より苦しむようになったためです。当時は今以上に主婦に求められる負担や不安が大きかった、今も残る女性の不平等性が高かった頃ではないかと思います。

ちなみに私の母は常日頃から

  • 「きっちりしている人が報われる」

  • 「私のアップは本物だと私の親も認めた」

  • 「A社の本質を知ってもらいたい」

などと言っています。

「真理」という言葉ほどではないですが、母の具体的な表現から勝手に想像すると、

  • トップ会員は「本物」であり

  • 会員は自分たちしか知らない「真実」を知っており、(これはほぼニセ科学に関連するものではと思いますが)

  • 何らか周囲には理解されていない「本質」
    があるのでしょう。

※トップ会員のセミナーは聞きましたが、本物かは全く分からなかったですし、本質もさっぱり分かりませんでした

いずれにせよ、その辺りの真理に類した思いを持っているのではと想像しました。

至高体験

「フロー状態」「ランナーズ・ハイ」「ゾーン」などと表現すると少し分かりやすい「至高体験」(6章)。このような体験は信仰生活を続けるための主燃料になる、と筆者は語ります。

ビジネスサイドにおいてはビジネスピッチがあたるでしょうか。大勢の前でプレゼンして相手の心を揺さぶり、その結果フィードバックを受け、よりビジネス創造に邁進する。起業家はそうですよね。

マルチ商法の場合は、「ラリー」などと呼ばれる毎年開催される成績優良者を称えるイベントが該当するかと思います。
大勢の聴衆がいる前で表彰されたり、自身の体験談を話したりする。
加えて、少人数のイベントでも最後に「私は〇〇ランクをめざします!」などと、各自に宣言させる手法を取ります
あとは、サプリなどを摂って苦しんでいたアトピーなどの病気が治った場合にも(プラセボ効果も多分にあると思いますが)、至高体験に類する経験になってハマるのでしょう。

本書に出てくるような、宗教世界における現実世界ではあまり考えられないような体験をすることなどはないのかも知れませんが、継続的にハイになる状況は、マルチ商法ではうまく作られていると思います。

確証バイアスと認知的不協和

確証バイアス=信じたいことは信じる、信じたくないことは信じない
認知的不協和=信念が揺らぐとき、信念を揺らがせているものを過小評価する、またはじぶんの認知を修正して立て直そうとする

あなたも狂信する P126より抜粋

インタビューした対象の組織では認知的不協和を解消する仕組みがあったとのインタビュー結果。

マルチ商法においても当然ながらあります。

私のようなものを含めいわゆるマルチ商法に関する「アンチ」の発信は見ないようにする。
反対する家族や友人が出ると「あなたが変わったからついていけないんだよ」「そんな人は本当の友人ではない」などと距離を取らせる
例え所属するマルチ業者が行政処分をうけても、「中にはそういう人もいるが私のグループは大丈夫」「私が話を聞くアップはホンモノ」などと自分の認知を修正します。

自己治療仮説

何らかの苦しみから逃れるべく、依存するのではとの仮説。私の母の場合は、一部家族との縁が切れたり、周りから良く思われていない状況から逃れるべく、さらに依存してしまうのでしょうか。

エドワード・J・カンツィアンらが提唱した「自己治療仮説」=依存症を患うものは、溺れる対象が気持ち良いからではなく、溺れることで苦しみから逃れられる

あなたも狂信する P154.より抜粋

マルチ以外の取り組みをする母を応援することをトライしてきたものの、母の求めるものは結局マルチ業者、アップ、製品のいずれかを許容することでした。
母の別の職を褒めても、あくまでそれは別の話。マルチ商法やそのコミュニティに依存することで、自身の抱える家族から理解されない寂しさを解消しているのかもしれません。

エホバの証人の事例からマルチの脱会支援を考える

エホバの証人リネンさんの例で、脱会カウンセリングとして牧師さんとの話の様子が描かれていました。

「サタン」をイメージして牧師を警戒していたが、どう接していても聖書と人間を愛している人だと感じられた。罵詈雑言を浴びせられ、無理やり信仰を捨てさせられるのではと想像していたが、そんなことはまったくなかった。キリスト教の出版物に対する拒否感は相手も承知しているため、そのたぐいの出版物は持ちださない。逆にエホバの証人の出版物を参照しながら対話することを許してくれた。

あなたも狂信する P161より抜粋

脱会支援に必要なのは共感。聖書という共通の思いを通すことは、脱会において非常に重要なキーだと改めて感じました。

そして、マルチ商法の場合、脱会支援に携わる人がそもそもほぼいません。
マルチ会員を辞めた場合、マルチ商法での教えは特にニセ医学などに関連するものが多いこともあるため、嫌うことになるからでしょうか。
実際マルチ会員脱会者の経験談は「私のようになるな、騙されるな」「私が追っていたものは夢物語だった」などのようなものが多いです。
一定疑問を持つ方の境遇に対して共感することはできますが、例えば医者などがニセ医学に関する訂正を会員にしても、両者の間に共通する聖書のようなものがないことは、マルチ商法における脱会支援が宗教関連に比較しより取り組むことが困難な(当然実際に脱会支援をして脱会させることは共通的に非常に困難です)理由になるでしょうか。

おわりに

ちなみに、あまり私自身に被害の認識がありませんが、私の母は新興宗教に関する活動も一時期行っていました。
実家のトイレには新興宗教の教えを書いた日めくりカレンダーがかかっていました。
姉も高校生の頃に活動していたことがあります。サークル感覚で友達を作っていました、すぐ辞めていましたが。
私は一度だけ山小屋での集会に参加したような記憶がありますが、全く興味関心を持てずそれっきりでした。

この新興宗教の面では強要もされず特に被害を受けた認識もないため、私は本書で定義する「宗教2世」ではないのですが、母が何らか「真理」のようなものは求めていたのだろうとこのことからも思います。宗教以上にマルチ商法のコミュニティや健康志向が自分にあっていて、惹かれたのでしょう。

思いを馳せることはできたものの、難しい問題だと改めて認識しました。

次はどうするか、また考えます!

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