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読書録:ゼロからはじめる力 空想を現実化する僕らの方法 by 堀江貴文氏

言わずと知れたライブドア創業者ホリエモンこと堀江貴文氏が宇宙産業に挑む背景をまとめた本。
宇宙ビジネスに従事する人間として積読になっていたため手に取りました。

結論を先に述べると、流れるような思考展開で、1つ1つ丁寧に言語化されている印象でした。非常に読みやすかったです。


宇宙産業とは

国が見据える宇宙産業の背景に簡単に触れておきます。

2017年に内閣府が定めた「宇宙産業ビジョン2030」によると、当時日本国内で1.2兆円と試算されていた産業が2030年代早期には倍増のおよそ2.4兆円程度の規模をめざしています。

著書の中でも出てくるが、宇宙産業を構成するのは主にこの辺り。

  1. 衛星の製造・開発

  2. (衛星と通信するための)地上局アンテナの構築

  3. (衛星を打ち上げるための)ロケット開発・製造・打ち上げ

  4. 衛星で取得したデータの受信・解析

  5. 衛星運用事業者

内閣府のまとめる市場の中では「宇宙機器産業」と「宇宙利用産業」に分かれる。1,2,3が宇宙機器産業、4,5が宇宙利用産業の主な事業内容です。

自動車産業の次に日本を支えるもの=宇宙産業?

本書の中で、電気自動車のテスラの事例を使って、電気自動車の普及や自動運転との相性などから、自動運転がほぼ実現しつつある現在における自動車産業の未来を論じています。

具体的には自動車産業の崩壊を2段階でとらえている。
電気自動車普及により必要な部品点数の減少を含めたサプライチェーンの崩壊(特に部品メーカー)
その後自動運転の普及により必要台数の減少、産業規模自体の縮小。

縮退の可能性が見込まれる自動車産業に対し、産業の中で培われたノウハウを生かす道の1つとして、特に日本では内燃機関エンジンの搭載が今のところ不可欠なロケットの分野ではないか、との論調でした。

ロケット打ち上げに必要な要素(射場)

軌道について分かりやすく記載されていました(=重力に惹かれ地球の周囲を楕円形に回るもの)。
衛星が打ち上げられる軌道はこれまでは主に静止軌道でした。

<静止軌道>
地球からの高度36,000km程度上空にあるり、赤道上空で地球の自転と同じ周期で回るため地上から見ると静止しているように見える。
これまで長年通信や放送、気象観測衛星などで用いられている。

<極軌道>
南北に回転する楕円軌道。地球全体を観測できるため、地球観測衛星などに用いられる。

赤道上空の静止軌道に乗せるためには東方向へ打ち上げが必要である一方で、極軌道に乗せるためには南方向へ打ち上げが必要です。

ロケット発射後は切り離されたロケットが落下するため、射場は南方向と東方向に開けている(人がいない(海)、島がない)ことが重要であり、その観点からも日本の立地の良さを指摘されています。

加えて、アメリカやヨーロッパのような射場から離れたところでロケット製造を行う場合は輸送やメンテナンスの面でも課題が出てくるのに対し、日本はロケット製造と打ち上げ場所の近接は非常に有効である点も利点の一つです。

必要な高品質な部品が国内で調達できるため輸出規制などを考慮する必要がないこともポイントに挙げられていましたが、国内で部品が十分に調達できるかは上記内閣府のレポートを見ていてもまだまだのかもしれません。
一方で、今後日本が国際競争力をもって戦っていく上で日本に航空部品の製造も含めて強めていくという考えなのかもしれません。

ロケット打ち上げで重要な成功要因

国際航空連盟が定義した「宇宙」は高度100kmより上空。
そこへ挑戦したインターステラテクノロジ社の「MOMO(百)」での試行錯誤を繰り返した様子が描かれています。

MOMOの狙いは、

  • ペイロード(荷物)に優しい環境

  • 安い

  • 高頻度

  • 確実な打ち上げ

であり、ロケット自体の性能は優先度を落としているようです。

今後静止軌道衛星ではなくSpaceXを始めとした低軌道衛星などがより需要として大きくなる状況を鑑みると、特に「安くて」「高頻度」での打ち上げは、ロケット打ち上げ事業におけるKSF(重要成功要因、Key Success Factor)なのでしょう。
なお、確実な打ち上げは裾野が広がったときに面白みを求めるユーザを取り込んでいくためにも確実性も重視したいとの考えでした。理にかなっているように思います。

なお、ペイロード(荷物)が打上げ中に揺さぶられる際の振動を弱める意図で固体燃料ではなく液体燃料を用いています。他にも液体燃料の場合は、固体燃料と違って推進力を調節できることも利点と考えられます。

安さにこだわり市場拡大をめざす

確かに高価格帯だと利用用途が限定され市場が広がらないですね。
私が別で検討している事業はまさにそのループに陥っています。
単純にビジネスを成り立たせるためのみならず、市場拡大の視点も入れておくことは自身への重要なフィードバックだと思います。

なお、MOMOの開発費は10億円、打ち上げ1回の費用は5000万円とのこと。著書の中でも出てくるその他事例を鑑みても、当然ロケットの大きさにもよるが1回あたりの価格を下げようとする意図は明確です。
それらを構成する部品などを探し回って過剰(だと思われる)品質をやめ、安価な製品開発への道を進んでいます。
SpaceXが低価格をうたって静止衛星を使ったサービスの代替になろうとしている考えと近しいですね。

そしてそれらによって、「多数の人たちがロケットを使うことで、これまでにない新しい使い道を開拓する」ことをめざしているようです。

ここも思い当たる節があります。
先日私もパッと聞いて訳が分からないアイデアを同僚から聞きました。
正直突拍子もなさ過ぎてあまり会話が進まなかったものの、こういう思想は今後のために重要だと感じます。
今見えていない景色のためにも裾野を広げるという発想は、宇宙ビジネスにおけるカギかもしれません。

ちなみに、過去に打ち上げたペイロードとしては、
「とろけるハンバーグ」「ハンバーガー」「折り紙飛行機」「眼鏡」「コーヒー豆」「ぬいぐるみ」

全く科学的成果とか関係ないですが、宇宙というのは夢を持てるのでしょうね(笑)。PR要素としてだけでも、と打ち上げに協力する企業が多くいるのが面白いです。

おわりに

何より漫画家など最初は素人の集まりから始まり、人を呼び集め、現時点で日本国内で打ち上げを多数成功している会社として作り上げてきたストーリーは非常に面白かったです。

今後の日本の産業拡大の一助となれるか。
私も情熱を持って引き続き邁進します。



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