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エゾシカと森林被害

つぶらな瞳が可愛らしいエゾシカは、北海道のみに生息するニホンジカの亜種だ。 本州以南のニホンジカよりも体が大きく、オスの場合、最大で体長190cm・体重150kgに達する国内最大の草食動物だ。

北海道ではエゾシカの生息数が増加している。農業への被害もかなりのものになるが、森林への被害がすさまじい。樹皮が周囲ぐるりと食べられたり、角こすりではがされたりすると、その木は枯れてしまう。また、植栽した苗木が食べられて無くなってしまう。全道でエゾシカは67万頭いるらしい。増えすぎたエゾシカによる樹木への食害や角こすりなどの森林被害は拡大している。

森林は国有林、私有林など所有する地主が様々だが、エゾシカは誰の土地かに関係なく森林を移動する。関係機関が連携して様々な森林被害防止対策に取り組んでいる。植林したばかりの場所には、高さ2.5mほどの獣害対策用ネットを植林地の周囲に設置し、エゾシカの侵入を防ぐ(侵入防止柵)。また、高さ100cm程度の筒を苗木一本一本に被せて保護する(苗木食害防止用保護チューブ)。20年くらいたった植林地の樹木は、胸の高さの位置まで、獣害対策用のネットを一本一本巻き付ける(食害対策保護ネット)。さらに、猟友会などの銃器による捕獲やワナによる捕獲などが積極的に取り組まれている。

エゾシカは、枝や細い幹を口で引きちぎって食べる。切断面はギザギザで木の繊維が残っていることがある。また、枝や幹をくわえて折り、枝先を食べることもある。エゾシカは樹皮を食害する。上あごに切歯がないため、下あごの切歯で削り取るようにして樹皮を食べる。アオダモ、ミズキなどの樹種には幅5mm前後の食痕が見られる。ハルニレなどの樹種は、樹皮を口にはさんで引きはがすため、樹皮は繊維状に引き裂かれて、剝皮された幹には無数の切歯痕が見られる。カラマツなどの針葉樹も食害にあう。また、角こすりによっても樹皮を加害する。角の尖端部をこすりつけた場合、幹に筋状の深い傷がつく。角の分岐部や側面による場合は、帯状にこすったような傷跡が残る。トドマツという針葉樹の小径木などでよく見られる。樹皮が被害にあうのは、主に積雪期だ。

銃器やワナなどで捕獲されたエゾシカは食用となる。シカ肉は高タンパクで低カロリー、鉄分などのミネラルが豊富に含まれ、健康志向によく一致する食材だ。わたしも地方に出張した折に、山小屋風のレストランで、シカ肉のカツカレーを食べたことがある。

山奥の林道を車で走ったりする趣味があり、その折に、メスと子どもからなるエゾシカの数十頭の群れを見たりすることがある。林道まで行かなくても、田舎の国道のふちの斜面などに群れている。山林の中を一人で歩いていた時、立派な角を生やした巨大なオスと出くわしたことがある。その大きさへの恐怖とともに、凛とした風情のたたずまいに畏敬の念を感じた。

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