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ご好意

僕は、人に好意を向けるもの向けられるのも苦手だ。
嫌いではない。むしろ、僕は人間が全員大好きだし、好かれるのだなんて涙が出るほど嬉しい。

しかし、どちらも苦手なのだ。
「好きな子に話しかけたいけど、嫌われたくないから話しかけられない」という、あの甘酸っぱい状況が、僕の場合は人類全てに適応されてしまう。
青春の一時だけ味わうからこそ素晴らしいのに、僕のは明らかな過剰摂取だ。舌がヒリヒリする。

この対策として「人類みな自分のことはどうでもいい存在だと思っている」と信じ込むようにしている。人類全てに対して叶わぬ片思いをしている状態だ。
こうしておけば、嫌われるかもしれない可能性など無くなる。どうでもいいのだから。
実際に文字にするとなんと悲しい話なのだろうか。しかし、こんな悲しい人間関係を構築することで、なんとか会話が成立するのだ。

その弊害からか、好意を寄せられても「僕は君のことを好きだけど、君は僕のことどうでもいいと思ってるはずなのに、なんでこんなこと言うんだ…?」と、信用できなくてトラップかと思ってしまう。
なんとも惨めな悪循環だ。誰か、もっといい対策を教えて欲しい。




ここまで読んでもらえばお気付きだろう。僕は難しい子なのだ。

そんな難しい子のもとに、1つのLINE、否、トラップが送られてきた。
数ヶ月前、研修期間に少しだけ喋ったことのある同期の女の子からだった。

簡単に言えばご飯に行こうという内容なのだが、情熱の国スペインの国民でも、2.3歩は後退りしてしまうくらい情熱的な文面だったのだ。
文面だけ見れば飛び上がるほど嬉しい内容なのだが、純日本人の上に、難しい子の僕にかかれば「トラップでなきゃ辻褄が合わない」としか思えなかった。

「なんでトラップを張るんですか?」と聞けば早いのだが、僕にだって20年以上の会話のキャリアがある。流石にそんなミスはしない。

丁寧に対応し、二人ではなく、数人でご飯に行くことになった。誰を呼ぶかは任せた。
同期の輪が広がるのだから、絶対に喜ぶべきイベントなのに、晴れやかではない。

周りに相談しても羨ましがられるだけで、誰もメッセージの下の剣山に気付いてくれない。
嫌味と捉える人も居た。

全然自慢ではない。
むしろ怖い話をしているのだ。

トラップを突然仕掛けてくるのも怖いが、他にも怖い要素がある。
この好意が今の所本物だとした時の、リスクの高さだ。
全然話したことのない相手が持っている好意は、確実に減点方式で進んでいくものだ。理想像から入ってしまっているんだから、現実を見たら減点するしか無い。
僕には理想を覆せるほどの魅力と腕力がない。

勝手に幻滅するなら、好意を向けないで欲しい。自分の理想像とかけ離れていても、まずまずの仲を絶対に続けるという覚悟を持ってから人に好意を向けるべきだ。本当にその覚悟を持って、メッセージを送ってきているのか?
ちなみに、僕は好意を向ける時、その覚悟を持っている。

まあ、だから友達が少ない。


こんなに怯えたり、相談したり、少し怒ったり。忙しくしている間に、その女子からの返信はなくなった。

かれこれ数週間既読無視されている。

難しい。あまりにも難しすぎる。女心は秋の空とはよく言ったものだ。

あぁ。今年のサンマは安くなると嬉しいな。
僕の悩みは、七輪を買うか否かに、動き始めていた。

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