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甘い確率計算

ピンクのイチゴ味のチョコとミルクチョコの組み合わせが可愛らしく、とても美味しいアポロ。

僕は週に1回、1箱食べる習慣がついている。
冷凍してポリポリの状態で半分食べ、常温に近付いてからもう半分を食べるのがマイブーム。あなたも是非一度は冷凍アポロを試してみて欲しいと思う。

そんなアポロの中に稀に入っている、星形のアポロ「ラッキーアポロ」なるものの存在をご存知だろうか。
普通に食べても美味しくて幸せなのに、抽選の興奮まで味わえる。アポロは色んな意味で2色のお菓子なのだ。

このお菓子を食べる際に、最大限楽しむための戦略がある。
ラッキーアポロ抽選を長く受け続けるために、1粒ずつ出して食べるのだ。数粒一気に頬張りたいという誘惑に負けてはいけない。絶対に1粒ずつだ。

ラッキーアポロが入っていなくても、最後の1粒まで「もしかしたら」を楽しめる。ラッキーアポロが途中で出ても、箱に戻し最後までラッキーアポロ抽選を受け続け楽しむ。
こんな隙の生じぬ二層構造戦略でお送りしているのだ。
早く特許を取得したい。


途中で箱の中にあるとわかってしまったら、面白くないと思う方もいらっしゃるかもしれない。
しかし僕はむしろ、ラッキーアポロがあるとわかってから燃え滾る。
普通のアポロとラッキーアポロ、最後の二粒の状態になると、ラッキーアポロの食べられるか箱へ生還するかの胸アツなデスゲームが始まるからだ。

連続でラッキーアポロが出ると「粘るねぇ~食べられたくなくて必死だねぇ~!!」と箱に戻しながら、一人で盛り上がってしまう。
100円ちょっとでデスゲームの主催者になれるなんて、あまりにも手頃すぎる。

今日もアポロを食べていると、終盤にラッキーアポロが登場し、彼の辛く厳しい戦いの火蓋が切って落とされた。さっそく最後の2粒まで食べる。今回の参加者はどこまで耐えられるのか。

1回目
2回目
3回目
4回目
5回目
6回目

ここらを過ぎてからある考えがよぎる。

あれ、ちょっと、これ凄くない?

突然生まれるラッキーアポロとの連帯感。敵ながらあっぱれである。
ラッキーアポロは7回目も、難なく潜り抜ける。

8回目
9回目
10回目

これは、一体なにが起きている。
もしかして箱の中1粒だけじゃないよな。箱を振るが、明らかに2粒のアポロがぶつかる音がする。

興奮で鼻息を荒くしながら、2のべき乗の表を検索する。10回連続は1024分の1の確率ということがわかった。あまりの興奮に頭に血がのぼる。
このラッキーアポロはどこまで行けるのだ。
こんな時は、明確な目標を決めた方がいい。

手頃な確率を検索する。
すると、一生のうちに雷に打たれる確率は10000分の1という情報を見つけた。
べき乗の表を確認すると、14回連続で16384分の1の確率に到達するようだ。
ちょっとした目標を決めたかっただけなのに、あと4回ラッキーアポロを出すと、体中に強烈な電流が走るという、とんでもない窮地に追い込まれていた。

デスゲームの主催者の僕と、ラッキーアポロの立場は確実に逆転しつつあった。

しかし、奇跡はもう充分起きている。後4回なんて。そう上手くはいかない。

11回目。ラッキーアポロ。箱へ戻す。
12回目。また、ラッキーアポロ。箱へ戻す。。

もう出ないだろう。もう出ないよな。

13回目。またまた、ラッキーアポロ。
頭上に黒々とした雷雲が立ち込める。ゴロゴロと不穏な音が聞こえる。

14回目

ついに僕は雷に打たれた。


こいつは利用したほうがいい。今回のラッキーアポロは敵に回さず、共闘しよう。参加者と主催者が共闘の異例の展開である。

電流でボロボロになりながら、デスゲームを中止の合図を出し、次の目標を調べる。

年末ジャンボを当てよう。
梅雨も明けていないのに年末のことを考える日が来るとは。
年末ジャンボ一等の確率は2000万分の1。25回連続でラッキーアポロを出せば7億円である。

「僕ら」なら行ける。
僕は箱を傾け、ラッキーアポロは7億円へのカウントを刻む。

15回目
16回目
17回目
18回目
19回目
20回目
21回目
22回目
23回目
24回目


明らかに異常な状態に、不思議と興奮はなくなっていた。
何故だか確信がある。

そして
25回目



僕は、主催していたデスゲームの最中に雷に打たれたが、無事に生還し、宝くじで7億円を当てた。


こうなると「激レアさんを連れてきた」が僕をほっておかないだろう。CMでこの回のことが流れていたら、誰だって絶対に見てしまうもの。
僕だったら、デスゲームを主催していた人が出演する時点で予約ボタンを連打する。

そう思うと、何かとんでもないことをしてしまったような気持ちになり、急に怖くなった僕は、1粒ずつ楽しむ戦略を捨て、箱の中の2粒のアポロを出した。

手のひらの上には、溶けて星型をなしていない、手垢だらけの2粒のラッキーアポロの残骸があった。

あぁ。

2粒同時に口に放り込みながら考える。
ラッキーアポロが2粒入っている確率はどのくらいだろう?どうせ、結構高い確率なんでしょ。

何とも言えないタネ明かしに、どうしても投げやりになってしまう。

雷にも宝くじにも何にも当たっていなかった僕には、イチゴ味の余韻しか残っていない。

テンションの高低差が応えたのか、とても疲れた。せっかくの休日にこんな無駄な時間を過ごしている人間は世界中探しても、僕1人しか居ないだろう。

僕はいつの間にか78億分の1の確率を引いていた。

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