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留守電のメッセージの話

大学生のとき、Iという友人がいた。
教養があり、社交的な性格だったので多くの人から好かれていた。

ある日、Iが恋の病を患った。

どういうラブストーリーが始まって終わったのかは分からないが、彼の失意の表情に我々も心を痛めた。

なんとか励まそうと思い、みなで考えたのだがいい考えが思い浮かばない。
自分たちにできることは彼を笑わせることだと思い、いろいろ策を練った。

Iは大学に来なくなった。
それほどショックが大きかったのだろう。

まずは何とか大学に戻ってきてもらおうと、彼の家に電話をかけた。

当時、電話と言えば固定回線である。
携帯電話はあることはあったが、まだまだ通話料が高かった。

そのため、我々は公衆電話から彼の自宅に電話をかけた。

いろいろ励まして見るものの、立ち直る気配はない。
何度かかけるうちに電話にも出なくなってしまった。

電話はすぐに留守電になってしまうので、最初こそ普通に励ましのメッセージを吹き込んでいたのだが、だんだんと変なノリにになってきた。そのうち、調子に乗ったわたしたちは誰が面白いセリフを言えるかで競いだしていた。

友人のSは声色を見事に使い分け、いろいろな人物のモノマネをして声を吹き込んでいた。我々はそれを聞いて爆笑をしていた。もうこのときにはだいぶ当初の目的から外れてしまっている。

あとは何度も、
「オッス、オラゴクウ。いっちょやってみっか」
と入れていた。

そういう日が2、3日続いた。
相当な量のメッセージが吹き込まれていたはずだ。

それに業を煮やしたのか、あるとき人が出た気配があった。

「おお、ようやく出てくれたか」
「……」
「おーい、Iくん?」
「あの」
「うん?」
「もうやめてくれませんか!こっちはホント迷惑してるんです!!」

聞いたことがない女性の声だった。
彼女の金切り声に我々は血の気が引いた。

どうやらSは何度目からか間違った番号を押していたようだ。
そのため、何度かけてもIがでなかったというわけだ。

彼女からしてみればまったく知らない男たちから何度も「オッス、オラゴクウ」と電話がかかってくるのだから恐怖でしかなかっただろう。

本当に申し訳ないことをしたと思い、謝りに謝った。

後日、素知らぬ顔で大学にきたIに対して不条理にも怒りを感じてしまった。

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