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口取りから始まる、和菓子の1年。

あけましておめでとうございます。

本年もより一層のご愛顧を賜りますよう精進してまいります。
2023年も五勝手屋をよろしくお願い申し上げます。

皆さま、楽しいお正月をお過ごしでしょうか。和菓子の世界でお正月と言えば、北海道では『口取り』と呼ばれるお菓子があります。これは、タイやエビ、松竹梅などの縁起物をかたどった練り切りのお菓子で、目にも鮮やかな色彩と光沢で新年や年取りのお膳に彩りを添えます。

この口取りの文化は、主に北海道の漁師町と青森県の一部で見られる独特の風習のようです。その名は饗膳や本膳料理の最初に出される『口取り肴』という酒肴から来ていると想像できますが、いつから、どうして、といった詳細な歴史はわかっていません。
ただ、松前藩の時代には、縁起物の練り切りではないものの、くじら餅やきんとん、流しものを盛り合わせにした甘い『口取り』が存在していたようです。

五勝手屋のお正月の口取りは、エビ、はまぐり、松竹梅の5つ。50年以上前から、お正月にはこのモチーフを使っています。また、より一層おいしくするため、3年前から原料を白小豆に変更し、これによりベースの色が肌色がかったものになりました。 縁起物の口取りは、結婚式などにも登場します。江差町には、厄年の男たちの厄を払う『年祝い』という風習があって、このときの口取りは「厄を分け合う」という意味で、参加者に切り分けて配るという大切な役割を担っています。

こうして、長らく北海道に根づいた口取りの文化は、ほかの習わしにも見るように、少しずつ、その影が薄くなりつつあります。甘いものが潤沢でなかった時代には、それはそれはうれしいお菓子で、お正月には一人に一セット、家族の人数分用意したというご家庭もあったそうですが、そうした時代をとうに過ぎ、現在、作り手である私たちには“文化の保護”に近い感覚も芽生えています。
とはいえ、暗い話題だけではありません。若い方や北海道外のお客様からのご注文がここ数年伸びており、確実に裾野が広がっていることも実感しています。そしてもちろん、縁起物として欠かさないお客様も大勢いらっしゃって、今年も皆さまのお正月のお供をさせていただきました。
口取りから始まる、和菓子の1年。季節はこれから冬本番を迎えますが、お菓子の世界では少しずつ春がやってきて、今年も春夏秋冬をおいしく美しく巡ります。
改めまして、この1年も五勝手屋をよろしくお願い申し上げます。
2023年1月吉日

(五勝手屋本舗オフィシャルホームページ 【連載:一月一話】 第9回