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江差町の“3月”は。

春間近、長い冬の終わりに心がゆるみつつも、転勤や引越しで別れのさびしさを感じている―。この季節、悲喜こもごもの時間をお過ごしの方がいらっしゃるのではないでしょうか。
官公庁や地方官庁の多い江差町の3月は、毎年、人事異動によってたくさんの方が町を離れる別れの季節です。

多くの方は3年間、江差町で暮らし、そうしてまた別のまちへ。ご家族でいらっしゃる方も多いですから、大人だけでなくお子さんたちにも、おのずと出会いと別れの物語が生まれます。たとえば私が小学生のときは1学年に3クラスありましたが、卒業を迎えるまでに、その顔ぶれの約半分が入れ替わっていたほどでした。江差町に長く暮らしているひとは、そうやって幾度も別れを経験しながら【3月】という特別な時期への耐性をつくっていくように思います。

ただ、私の娘の時代は少し大変そうです。1クラス7人という少人数で、きっと、ひとりひとりの存在が大きいことでしょう。そして、彼女はまだ2年生。例の“耐性”ができていません。3月ではなく昨年の12月でしたが、とても仲の良かった友達が1人、ご家族の転勤によってまちを離れ、娘はまだ、さびしそうにしています。

こうして、毎年訪れる多くの別れ。でもそのことは「3年間、江差町で暮らしたひと」が日本全国にいる、ということでもあります。中には少なからず江差町の広告塔となって、まちの魅力を語ってくださる方がいるかもしれません。いえ、きっといるはずです。

東京のデパートなどで催事に出ていると、そうしたかつての江差町民の方が、五勝手屋の名前めがけていらしてくれることがあります。また、私のことを「羊かん屋の息子」と記憶している方が声をかけてくれたり、五勝手屋のSNSを見て、懐かしそうに足を運んでくれる同級生がいたり。


そうやって五勝手屋の名が江差のまちを思い出す旗印になっているのを感じるとき、お菓子を喜んでいただく嬉しさとはまた別の感慨と、老舗の役割に改めて感じ入ります。

今年もまた3月がやって来ました。江差を離れる皆さま、どうかお元気で。次に五勝手屋の名を見かけたら、江差のまちを、人を、あの海を、思い出してください。

(五勝手屋本舗オフィシャルホームページ 【連載:一月一話】 第11回