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【みじかい小説No.1】ババくさいミシンのねいろ。

今日もリビングで母のミシンの音がする。
裁縫の先生をしていた祖母を思い出してか、母は週に一、二度はミシンを取り出してガタガタ言わせている。
今は古いTシャツを継ぎはぎして、夏のパジャマにするハーフパンツを作っている。
「あら、また失敗しちゃった」
そう言って縫った糸をほどくのは、もう何度目だろう。
おばあちゃんの手先の器用さは遺伝しなかったなぁ、といつもの口癖が口をつく。

いずれ母が亡くなれば、私も母を思い出してミシンを取り出すこともあるのだろうか。
そんなことを思ったりもするが、そんな手垢のついたノスタルジーは最も私の嫌いとするところだ。
いいや、私がミシンを扱う時は、自分自身のまったく新しい趣味として新鮮な気持ちで取り組むに違いない。

そんな確信めいた思いを確認しながら、私はスマホをいじる。

今日もリビングでミシンの音を聞いている。
ババくささを多分に感じながら。

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