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未来学を取り入れると合意形成が進む理由

こんにちは!
合意形成ラボ研究員のゴウイケイコです。

先日、明治神宮に行ってきました。原宿駅そばとは思えないほど豊かな自然は大正時代の造営で生み出されたものです。多数の専門家が集結し、100年後の未来を思い描きながら作り上げた「永遠の杜」構想。たぶん合意形成は簡単じゃなかっただろうなと思いつつ、杜を眺めていると、彼らの構想の素晴らしさに感じ入ります。

今回は、人工知能のシステム開発等を手掛ける株式会社IF代表取締役CEOで、神戸情報大学院大学 客員教授としても活躍する未来学の専門家、小塩篤史さんに、合意形成と未来学をテーマにお話をお伺いします。

フォーキャストな未来とバックキャストな未来

ゴウイケイコ:初めまして、小塩さん。さっそくですが、小塩さんが研究されている「未来学」と合意形成には大いに関係があるとのこと、そもそも未来学とはどういったものでしょうか?

小塩さん:未来学の定義はやや抽象的で難しいのですが、そのルーツは1960年代から70年代とされます。当時は人口急増と経済発展で世界中に環境汚染が広がり、地球の未来を憂う声が上がりました。レイチェル・カーソンの書籍『沈黙の春』もその文脈です。

ゴウイケイコ:化学薬品の大量使用とか海洋汚染とか、さまざまな環境問題について書かれた本ですよね。

小塩さん:そうそう。誰もが見えない未来への不安や恐怖を抱くなか、世界の未来学会が次々と立ち上がり、日本では1970年の大阪万博を前にSF作家の小松左京らが「万国博を考える会」を発足。この会は経済成長一辺倒の万博に対するある種のアンチテーゼだったんですよね。

未来学には、これからこうなるだろうと現在から未来を考えるフォーキャスティングの側面と、理想を含めてあるべき姿や取り得る選択肢を考えるバックキャスティングの側面があります。前者は未来予測、後者は未来想像・創造。どちらも必要です。

ゴウイケイコ:バックキャスティングではあるべき姿を合意形成します。合意形成はやはり未来学と関係性が深いのですね。

小塩さん:もちろん極めて重要な役割を果たします。フォーキャスティングでも「こうなるだろう」という未来予想を合意できないと、適切な意思決定ができませんよね。

バックキャスティングの場合、研究成果として発表するならば合意形成は必ずしも必要ではありません。計算機科学の専門家であるアラン・ケイはPersonal Computerという概念を生み出しました。しかし、のちに“パソコンの父”と呼ばれるほど優れたビジョンを持ちながら、彼は所属する企業で合意を得られず、製品化ができなかった。周囲の共感や納得、合意が得られなければ、それ自体をマーケットにすることは難しいのです。

※参考:小松左京 公式サイト(大阪万博についてのコラム

問題は合意形成が情緒的なものだと思われていること

ゴウイケイコ:結果的にいま私たちはパソコンを使っているので、アラン・ケイのビジョンが現実になったと言えなくもないですよね。でも、もしもアラン・ケイ自身が製品化まで行っていたら、いまのパソコンとは違うものになっていたのでは?

小塩さん:その可能性はあります。合意形成されて良かったパターンと、そうならなくて良かったパターンがあって、未来学においては“良さ”をそぎ取らない合意形成が、良い合意形成だと思います。よくあるのは関係者一同が大きく損しない最大公約数的な合意形成。でも、新規事業開発やイノベーションにおいては、そういう合意形成がかえって足を引っ張るんですよね。

ゴウイケイコ:なるほど、最大公約数というと総意みたいに聞こえますが、言い換えれば普通というか凡庸というか、イノベーションは遠そうなイメージです。

小塩さん:なぜアラン・ケイが合意を得られなかったかと言えば、自分自身が発明者であり、自分のコンセプトを曲げなかったからだと思います。合意形成のことを考えれば、当事者であるアラン・ケイよりも、彼のビジョンにインスパイアされた、ほかの誰かが動く方が良かったかもしれないですね。

ゴウイケイコ:ビジネスシーンでも似たケースは多々ありそうです。

小塩さん:問題は、合意形成の情緒的な価値には意識が向けられても、機能的な価値が適正に評価されていないことだと思っています。

ゴウイケイコ:情緒的価値と機能的価値?

小塩さん:合意形成することの意味と言い換えてもいいです。あるプロジェクトの会議で何かを決めますよね。合意形成した以上、ブレてはいけないはずですが、「社長の機嫌が悪そう」みたいな理由で決定事項が撤回されることが散見されます。

理由は合意形成が感性や主観だと捉えている人が多いから。合意形成は本来、プロジェクトを進めるための評価軸に沿ってなされるべきだし、その評価軸にも合意しているはずですよね。だから、誰かの機嫌で左右されてはならないし、意思決定の根拠となるくらい大切にすべきなんです。合意形成を組織の活動に生かすためには情緒的な合意形成から機能的な合意形成へ、意識を変える必要があります。

利害関係を切り離して考えれば合意しやすい

ゴウイケイコ:前職で決定事項がひっくり返る場面を何度も見たもので、小塩さんの話にうなずき過ぎて首が痛いです(笑)。当時の上司は「鶴の一声で決定がひっくり返るようでは、中長期の意思決定なんてできないよ」とボヤいていました。

小塩さん:その通りですね。私も、せっかくみんなで協力して良いものを作ろうと集まっているのに、プロジェクトを進めるほど、目先の利益を守る近視眼的な意思決定になってしまうという経験をしました。それで合意形成には未来から考える方がいいと思い至ったんです。

ゴウイケイコ:それは、どんなプロジェクトですか?

小塩さん:どんなプロジェクトにも共通する課題ではありますが、私が携わっていたのは地域の病院・クリニック、行政、保健所の情報システムを連携するプロジェクトでした。より良い地域医療というビジョンには賛成でも、情報を見られることへの心理的ハードルは高くて、いざ実務の話に入ると反対意見が噴出したんですよ。

ゴウイケイコ:総論賛成、各論反対の典型的なパターンですね。

小塩さん:どうしたものかと解決方法を模索するなかで、南アフリカで未来シナリオを作った事例を知りました。南アではアパルトヘイト後も人種間の対立が続いていて、このまま人種隔離制度を残すのか、融和して新しい南アを作るのか、激しい議論が起きていたんです。そこで対立する彼らにいくつかの未来シナリオを示すと、全員が融合した未来を選択。それを起点にビジョンを作ったそうです。

これから何かを変えると言うと対立しがちですが、未来の話なら利害関係を切り離して考えられるので合意形成しやすく、その上で何をすべきかを考えるとプロジェクトを進めやすい。この方法で100%うまくいくわけではないですが、少なくとも地域医療のプロジェクトではうまくいきました。

ゴウイケイコ:まさにバックキャスティングですね。

小塩さん:私はそうやって泥くさくバックキャスティングに辿り着いたので、視覚会議を知ったときはビックリしましたね。こんなにスマートな方法があるのかと。視覚会議誰の発言かを気にしないで良いのがポイントで、忖度なく会議が進みますよね。普通の会議では上席者に遠慮したり、声の大きい人の意見に流されたりしますが、そういった心配がありません。しかも、50分間で結果が出せます。前提となる情報のインプットは別の手法を組み合わせる必要はありますが、合意形成に適した手法だと思いますね。

ゴウイケイコ:これまで視覚会議を何度も使っていますが、忖度ない会議手法って良い表現ですね。使わせていただきます(笑)。

最後に今日のポイントを振り返ります。
(1)現在から未来を考えるフォーキャスティングの未来予測にも、あるべき姿を考えるバックキャスティングの未来創造にも合意形成は重要。
(2)情緒的価値の合意形成から機能的価値の合意形成へ、意識の転換が必要。
(3)目先の利益を守る近視眼的な意思決定に陥らないためにも、未来から考える合意形成を。

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