見出し画像

『ザ・ボーイズ』と『タイバニ』:オジ&デス対談第5弾 Vol.1

ぬいぐるみと人間が対談形式で映画について語るシリーズ第5弾はアメコミ原作のネット配信ドラマ『ザ・ボーイズ』と2011年にテレビ放映されていた日本のアニメ『TIGER & BUNNY』(通称タイバニ)という組み合わせ。両方とも見ているひとにも片方しか知らないひとにも、どちらも未見というひとにも読んでほしいネタバレほぼ無し&脱線ありなトーク、まずは『ザ・ボーイズ』の話から。

「汚いタイバニ」〜『ザ・ボーイズ』〜

オジサン さてと…今日は、比較的最近ネット配信が始まったアメコミ原作のドラマ『ザ・ボーイズ』のシーズン1(全8話)を見たので、それについてと…あとは『ザ・ボーイズ』を見た人たちの間で「『ザ・ボーイズ』は汚いタイバニ」という評価(感想)があるので、日本のアニメであるタイバニこと『TIGER&BUNNY』について、合わせて語っていこうということになりました。

デス タイバニはれっどさんやオジサンは、オレが一緒に暮らすようになる前から好きで、オレだけタイバニ見たことないって状態だったけど、ネットでまとめて見ましたよ、ってことで。
 『ザ・ボーイズ』はアマゾンプライムビデオのオリジナル作品なんだけど、かなり評価が高い。再生回数も記録的だとか。アマゾンスタジオとソニーが一緒に作ってるドラマで、まだシーズン1しか配信されてない新しい作品。
 超能力を持つスーパーヒーローがいるのが常識の社会で、彼らに立派な社会的地位があって主に米国内で大活躍してるって世界の話。そのヒーローチームが「セブン」と呼ばれていて、彼らのマネージメントとかプロモーションを担っている会社がヴォート社。ヒーローのスカウトやヒーローイベントの開催、映画製作なんかもやってる感じ。

オジサン まぁ、要はスーパーヒーローのエージェントであると同時に、ヒーローを利用したエンタメ産業によって金もうけもしている企業ですよね、ヴォートは。

デス このドラマ(物語)は単なるスーパーヒーローものではなくて、テイストとしては『ウォッチメン』とか、『キック・アス』とか…スーパーヒーロー的なものを相対化する作品だよね。ヒーローのイメージやメンバー構成はアベンジャーズよりはジャスティス・リーグに近いって感じかな。スーパーマン、ワンダーウーマン、フラッシュ、アクアマンなんかを彷彿とさせる、というか明らかにパロディになってるヒーローたちが中心。
 ちなみに原作者はガース・エニスってひとで、DCコミックスやマーベル・コミックスでも描いてたことがあるひとだから、当然スーパーヒーローものに造詣も深い(※同じくガース・エニス原作でアマプラオリジナルのドラマ『プリーチャー』も人気作。デスも好き)。
 『ザ・ボーイズ』でもスーパーヒーローたちはすごい能力を持っているんだけど、DCやマーベルのヒーローと違い、そいつらがどいつもこいつも片っ端からクズだったらどうしよう、っていうね。そして、そいつらと互いに利用し合って拝金主義的に商売にしている大企業があって、金もうけできればヒーローがクズであろうが不正があろうが気にしない。そんな、権威・権力・巨大資本と結びついたヒーローたちと、その腐敗や悪事を暴く「普通のひとたち」(“ボーイズ”)との闘いってのが話の主軸になっている。

オジサン で、スーパーヒーロー産業をやってるひとたちが最終的にはアメリカの軍事に食い込んでいこうとしているんですよね。だから、正しいことをすることよりも、今後ヴォート社がアメリカの軍事に口出しする際に国民の支持が得られるような行動をスーパーヒーローに求めているかんじで、最初は志があったヒーローでも徐々に腐ってくってことになってるんだな、って辺りでシーズン1終了ってかんじですよね、ざっくり言うと。

デス そうそう。だから当然続編があることが前提になった作りになっている。で、スーパーヒーローと対峙することになる「普通の人たち」は別に特殊能力も持ってないし特殊な仕事についてるわけでもない。一応リーダー的な役割のブッチャー(珈音曰く「ベニチオ・デル・トロのパチモンみたい」なルックスのひと)は元FBIって設定だけど、他は電器屋で働く青年ヒューイ、非行少年向けの福祉施設で働いているマザーズ・ミルク(MM)、それとフランス語訛りのフレンチーってのがいて・・・えっと、こいつはなんだっけ?

オジサン フレンチーはやばい橋渡ってそうなやつですよ。武器の密輸とかそういうかんじの。

デス まぁ、見た目は気弱なコソ泥タイプってかんじで、ちょっとしょぼいんだよね(笑)

オジサン (笑)

デス で、この作品は地上波での放送を前提としてないし、映画館にかかるものでもないから、レーティングを気にしなくていいってこともあって、けっこう過激な描写も多い。
 ストーリーは、後々“ボーイズ”のメンバーになるヒューイのガールフレンドに、偶然走ってきたAトレインっていうヒーローがぶつかっちゃうって事故から始まる。ヒューイたちは路上で手をとりあってキスしてるところだったんだけど、Aトレインってフラッシュやクイックシルバー並みのスピードで動くことができるヒーローだから、ぶつかられた彼女は即死、一瞬にして木っ端みじんの肉片と骨片と血飛沫になってしまう。当然、Aトレインもセブンもヴォート社もこの事故を大事にしたくなくて、適当にうやむやにされそうになるんだけど、ヒューイはブッチャーと知り合って他にも色んなヒーローの悪事がなかったことにされていることを知り、やっぱスーパーヒーローだからという理由で裁かれないなんて理不尽は許せないよねってことになる…というかんじ。

オジサン デスのひとにとってここが一番気に入ってるっていうポイントはあります?

デス まずさ、この作品ではスーパーヒーローをやっている奴らが実はヴィランなわけだけど、ただ、畏怖の念を抱かせるザ・スーパーヴィランみたいな極悪人とかではなくて、ハーヴェイ・ワインスタインとかドナルド・トランプとか、日本の吉本興業やらジャニーズ事務所の裏話にもありそうな、徹底的にクソではあるんだけど、一方で割と凡庸で卑小な悪でもあるんだよね。
 で、さっき話した冒頭のAトレインの衝突場面はすごくグロテスクで悪趣味といえば悪趣味なんだけど、特殊能力者が実在する世の中であったなら、こういう事故は起り得るし、いったん事故が起ってしまったらこんなに悲惨なんだよ、ってことを映像化してるわけで、グロ描写に必然性があるんだよね。露悪的に見える表現はあるけれど、それはあくまで必要なメッセージを伝えるための手段になっている。
 他にも、セブンに新しく加入することになるスターライトっていう若い女性ヒーローがいるんだけど、彼女は憧れのヒーローの一員になったと思った途端、性暴力が組織内で起っているってことを、身をもって知ることになる。で、この彼女とヒューイはお互いに相手の素性を知らずに偶然知りあって親しくなっていくんだけど、ヒューイが外側からヒーローに懐疑の目を向けて“ボーイズ”として活動していく一方で、スターライトはヒーロー側、組織内部からヒーローたち(ヴォート社)に対して懐疑の目を向けていくことになる。ヒューイとスターライトは登場人物の中でも、最も善良で正義感があるキャラで、一方で純朴で良い意味で人間的なところもあったりと、視聴者がすんなりと感情移入できるキャラという位置づけ。
 さっきから悪趣味とか露悪的な表現と言ってるけど、性暴力は明確に「悪いこと」として描かれているし、#MeToo でも明らかになったハリウッドで長年ひた隠しにされてきた性暴力事件の数々を意図的に想起させるものになっている(※1)。でさ、これは特に日本のコンテンツでありがちな気がするけど…悪趣味とか過激な表現というのが、単に弱者をいたぶる表現って方向に向かってしまう例があるけれど、それと違って、『ザ・ボーイズ』はむしろ弱者が強者に虐げられていることが許せないよねって方向で、場合によっては過激とされる表現を用いてるんだよね。だから、そういうところが推しポイントですね。

オジサン 相変わらず要してないですね〜(※2)

※1 実際にスタッフのひとりエリック・クリプキがインタビューの中で社会情勢の変化や#MeTooなどの影響を受けて脚本を変更したことを話している。
「スーパーヒーローは嘘っぱち」『ザ・ボーイズ』エリック・クリプキ(クリエイター)インタビュー
※2 デス・バレリーナは「要するに」と言ってからが長いことが前回オジサンに指摘されている。
「要するに地獄」

画像1

『ザ・ボーイズ』は“アンチ「ヒーロー映画」”なのか?

オジサン スーパーヒーローの側が腐敗してて、“ボーイズ”の側がそれを成敗するっていう話にも見えるんだけど、スーパーヒーローの奴ら、あれはあれでそれなりの正義感に基づいてなんかやってるようなとこもあるし、ブッチャーたちが正義感でやってるのか?というとそうでもないってとこもいいところじゃないかな、と。
 デスのひとは「凡庸な悪」って表現してましたけど、それなりに正義感とか理想みたいなものもあるんだけど、それが良い方に向かわなかったり、何が正しいのか薄々気づいているのに何もできずにいるってあたりが、組織に属している人間が自分の正義感に基づいて行動できずになんとなく悪に流されるというか、取り込まれていくみたいなことも描かれているんじゃないかって思います。

デス 単純に善悪逆転させるってわけでもないし、クソなんだけど魅力的なところもあるのがセブンのヒーローだったりする。特にリーダー格のホームランダー、こいつが一番クソなんだけど、見た目はスーパーマンとキャプテン・アメリカを足したような感じで能力的にもスーパーマンに匹敵する、多分メンバーの中で一番強い。
 アベンジャーズでもジャスティス・リーグでも、リーダー的なひとはいるけど、たまたまリーダーっぽい役割をしてるだけで、別にみんながその人の最終判断を仰がなければいけないわけじゃないし、基本的にみんな対等なんだよね。でも、セブンにおいては完全にホームランダーがナンバーワン。社会的な名声もあるし能力的にも強いし、傲慢で狡猾でもあるから誰も逆らえない。こいつの、悪人っぷりがまた、感心するクソっぷりで。ジョーカーとかサノスとかとは違って…キモいし。

オジサン そうなんですよね。キモい理由は、これは見てもらわないとってかんじなんですけどね。

デス でも、あの絶妙な偽善的なクソヒーローっぷりね。大衆に向けては最も清廉潔白なヒーローってかんじに完璧に振る舞っているんだけどね。でも、裏の顔がとにかくクソで。キモいし。陰湿だし。でも、頭は良くてずる賢いんだよね。あの二面性の演技の仕方とかが絶妙。『イングロリアス・バスターズ』のクリストフ・ヴァルツをちょっと思い出しちゃったんだけど(笑)

オジサン あー。好きになっちゃいけないキャラなんだけど、でも好きっていう…

デス 現実にいたら絶対好きにならないし、正邪で判断するなら邪なんだけど、フィクションのキャラクターとして好きか嫌いかと言われたら「好きかも…」っていうね。

オジサン たぶんですけど、『ザ・ボーイズ』観たひとの中で一番の人気キャラ、なんだかんだでホームランダーだと思いますよ。あの邪悪な笑顔はちょっと頭から離れませんからね。

デス そうそう。なんかね。正確にはトランプ的なものというよりも、ややリベラル寄りのセレブだとかカリスマ政治家とかの偽善性に通ずるいやらしさがあるんだよね。

オジサン ああ。

デス だから他のセブンのメンバーが全然まだ小悪党にみえるっていうか。 

オジサン ホームランダーの極悪さが10だとすると他のひとは1とか2って感じですよね。

デス そうそう。他の奴らが考えてる悪いことってのは、世の中のみんなが考える悪いこととそんな変わらない。ただ、彼らには能力があるから、いざ悪いことをすると効果が普通のひとよりもでかくなっちゃうし、成功の確率も高くなるってのはある。

オジサン あと、ヒーローとして様々な場に露出している分、自分の保身のために悪いことをするみたいな。

デス まぁ、こういうヒーローを相対化するような作品ってのはときどき出てくるわけだけど、例えばウォッチメンの時代にはあまり問題化されてなかったことなんかもテーマになってきてる。しかも、アメコミヒーローものってのはいまや全盛期なわけじゃん、商業的にも。そういうときに敢えて…あるいは今だからこそ注目されるってこともあるかもね。
 で、『ザ・ボーイズ』に対する反応は色々あるみたいだけど、アメコミヒーロー映画好きに対して喧嘩を売っている作品だと考えて怒ってるひともいるらしいし、ディズニーなんかと組んだりして“クリーン”な気取ったヒーロー映画大作ばっかり作りやがってって思っているようなひとからも褒められていたりするらしい。でも、オレはどっちもちょっと違うっていうか、アベンジャーズも『ザ・ボーイズ』も提示している価値観は変わらないと思うンだよね。ただ、その価値観をどういう形で提示しているのか、その描き方が真逆になってはいるんだけど、反発するものではなくて相互に補完するものだと思う。

オジサン そうですね。

デス 『ザ・ボーイズ』だって、スーパーヒーロー自体を否定してるわけじゃないよね。ここにでてくるスーパーヒーローがクズってだけで。
 で、これはオレの勝手な推測だけど、原作者のガース・エニスはDCでは『ヒットマン』っていう割とマイナーな話、マーベルだと『ゴーストライダー』『パニッシャー』みたいなどちらかというとレーティングにひっかかるタイプのアンチヒーローやダークヒーローものを描いてきたひとなんだけどさ、DCやマーベルって著作権がクリエイターではなくて出版社に帰属するんだよね。日本でいうと漫画業界よりもアニメ業界に近い。そのおかげで、権利関係で揉めることなく、会社主導でヒーロー同士をコラボさせたりってことが可能になっている面もあるんだけど、クリエイターからすれば自分たちの仕事が過小評価されているって感覚もあるみたい。
 オレの知る限りではDCもマーベルもそれなりに作家性を大事にしているように思うけれども、会社の方が立場が強いし、各ユニバースの整合性も必要だから、それなりに縛りはある。そういうコミック業界・出版業界の会社主導の体質みたいなものへの批判は込められてるんじゃないかと思う、『ザ・ボーイズ』はダイナマイトコミックスってところから出てるし。
 まぁ、日本のアングラ気取りのサブカルって単なる逆張りとか露悪趣味の開陳でさもラジカルなことやってますみたいな顔をするタイプがけっこういるじゃん。『ザ・ボーイズ』はそういう作品じゃないし、少なくとも今の映画産業におけるアメコミヒーローブームを腐そうとかヒーロー映画ブームに水を差してやれ!みたいなしょうもない動機で描かれたものでも撮られたものでもないよね。オレは、むしろMCUとかスーパーヒーロー映画が好きなひとにこそオススメしたいなって思う。

オジサン そうですね。で、さっき商業主義とヒーローの結びつきの話とか出たことだし、『ザ・ボーイズ』が「汚いタイバニ」と言われる理由はなんなのか?ってことで、この辺でタイバニの話もしたいんですけど。ボクはなんせ名前の由来がタイバニの主人公なくらいで、以前からデスのひとにもタイバニを勧めてたんですよね。で、デスのひとが丁度数話見たところで『ザ・ボーイズ』の配信が始まって、「汚いタイバニ」というフレーズが出てきたことで勢いがついて一気に見てもらえたってかんじですよね。

デス そうだね(笑)

=第5弾 Vol.2に続く=

ぬいぐるみと人間の対談だのミサンドリーラジオだの、妙なものをupしておりますが、よろしければサポートをお願いします。飛び跳ねて喜びます。