高校生の僕のお話3

文武両道も最たるところまでいくと、昇り昇って天狼星になるということが、高校1年の冬の大きな収穫であった。まあとにかく勉強勉強部活朝寝坊エナジードリンク白昼夢裸体女寝言チョークの鉄槌のエンドレスendless。青や春など訪れぬ。

九時過ぎに部活が終わりい、先輩失礼しまあすと部室を出る出るおおおさむいさむい、しかし良い気分じゃ、夜空が澄み渡っておるぞ。この夜空の透き通るように、我が心に一点の曇りもないぞと僕は例の如くオリオン座を見つける。オリオン座は見つけやすいのだ、中心の仲良く並ぶ三つの星が僕を歓迎、導いてくれるらしい。オリオンに人差し指を向け(ギリシャの神様に人差し指など向けるのは恐れ多いことであるが、僕に関しちゃ神差し指が一向に生えてこないので許してくださりませ)、なぞるオリオンをなぞる、左下に指を滑降させていくと見えるのはひときわ明るい恒星である。名をシリウスという。本国では天狼星と呼ぶ。かっくいい~。恒星の中でいっちばん明るい星である。よーくみると、赤く光っているのがわかる。

結局はこのシリウスだけが俺のことを分かってくれているのだと、明日も頑張るぞと、ガールフレンドや友人に慰められるよりも高尚な慰みを受けていた僕はかなりな幸せものであるのだ。これは冗談でもなくほんとのことで、僕は今でも夜空に行き会うとシリウスに挨拶をする。天狼星というのもかっこいい。そしてあの美しい、凛と燃えるような目。いやはや。いつしかシリウスは僕の憧れなのだ。

何億光年と離れた、宇宙の果てしない果てに、僕の感謝と憧憬が届く頃には、僕はとうに死んでいる。あちらも、爆発して消え失せてしまっているかもしれない。僕の思いが光より速く動いてくれていればよいのだか。

そんなしみじみとした思いを、隣で俯きながら英単語帳を目で殺している友人に共有したくて、

「おい、見ろ夜空を。貴様はどだい視野が狭いのだ」

とシリウスを指差すと、友人も指を差し(彼も神差し指を持っていなかった)、

「ああ、あれねあの白い奴か」

「うーん、多分違うね」

「あ、こっちね、きれいだなあ」

「いや違うんだけれども」

と、絶妙な具合で伝わらない。それがなんだかうれしかった。

やはりシリウスは僕だけの星だ。

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