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福岡市美術館 「インカ・ショニバレCBE:Flower Power」

福岡市美術館で現在開催中(〜2019.5/26まで)の「インカ・ショニバレCBE:Flower Power」はどうか見逃して欲しくない展覧会のひとつ。何故かといえばとにもかくにもまず作品が素晴らしく良いこと、次いで福岡でこのクラスの現代美術作家の個展をこの規模で見られる機会はそうそう無いこと、にある。

インカ・ショニバレCBEは、1962年ナイジェリア(元英国領)人の両親のもとロンドンに生まれ、3歳から17歳までナイジェリアで過ごした後ロンドンに戻り芸術を学び、今や英国を代表する(作家名のCBEは英国の勲位)世界的な現代美術アーティストで、彼の個展は今回の本展が日本初となる。

アートスクール在学時、Black-British(アフリカ系英国人)でありながら近代ロシア主題の絵画に打ち込む若きショニバレへ教授が向けたひとつの質問—「なぜ君はオーセンティック(真正)なアフリカのアートを作らないのかね?」—をきっかけに、彼は自らのうちに何重にも層をなす異邦/異端/混交性を作品のなかへ結晶させていく(=ロンドン生まれのナイジェリア人で/黒人でありながら白人権威的な英国美術界に身を置き<後に高く評価され>/青年期の病気により半身に不自由を負ってなお作品制作を続ける)。

自らの“非・真性さ”に照らしながら「真性さauthenticity/○○らしさ とは何か」を執拗に問うことで、それらを定義する“権力”を可視化する。

これ、とりわけトランプ政権(あるいは日本の現政権も)以降社会全体を覆う排他/純血主義に対抗する重要な視点であり、また昨今の映画や音楽などエンタメ界にも広がる多様な人種や性指向などを肯定する「Diversity & Inclusion(多様性と包括)」の機運にピタリとハマるもので、そうしたトレンドが気になっている方にはそれだけでも十分必見の展覧会と言えるでしょう、し、
それら以上に強調しておくべきは、彼の作品は何をおいてもまず抜群に「美しくエレガント」な点である。貴族的な様式美をたたえ(実際はそれらをしたたかに拝借し横滑り/反転させるのだが、そのやり口も含め)、観客を一目で捕まえ、うっとりとさせる華やかな「美しさ」がある。

その「美しさ」と力強さに大きな役割を果たすものこそが、彼の作品の最重要素材である「アフリカンプリント」の布である。この「アフリカンプリント」が彼の出自の異邦/異端/混交性を体現する無二の素材であり(その理由は展覧会場のキャプションを読んでまず驚いて欲しい。本当に驚く。)、作品を幾重にも読み込ませる複雑な通底和音を敷き込む装置としてはたらく。

詳細な解説は会場キャプションと素晴らしい図録(正路学芸員の美意識と気迫はいつでも痛快。今回も最高)を参照いただきたいが、とりわけ展覧会のラストを飾る「Woman Shooting Cherry Blossoms(桜を放つ女性)」は必見。

なぜ桜なのか(それは何をあらわしているか)、銃が象徴する“力”はどんなもので何に向けられているか、地球儀の頭に書き込まれたものは何か、アフリカンプリントのドレスはどこのいつの時代の様式のものか、など、怒涛の勢いで何重もの意味への導線を引き込み、無数の解釈に耐久する強靭さに鍛えながら なおハッと息を呑むほど美しい。 ほぅら、こういう作品こそが「良い作品」ってもんでしょう(しかもこれ、今回の展覧会のための新作)!とにかくこれは、超つよい。

僕はこの展覧会を「ハイブリッド(混交)賛歌」として鑑賞した。昨今の幼稚な論理で排他にいそしむ純血主義者たちも、それこそ彼らが頼りにする「歴史」をもうちっと真剣に勉強すれば、僕ら人間そしてそれらが日々生み出す文化に「純血」なんて存在しようがなく、どころか今この瞬間の発展はただひとつ「混交」の成果に他ならないことは誰でもわかる話で、ならばその過程で無数の手を介し混交してきたこの歴史と存在それ自体を認め、称え、喜び合おうじゃないかと。 良いよね。

本展、どうか会期中に足を運んで欲しい。
見損なうと本当にもう2度と福岡では見れない作品たちなわけで、それが都心のど真ん中の大濠公園で観れることはほんとにすごいことだし、何より内容が素晴らしい。
はやく見た人と語り合いたいんですよー。

▶︎ 福岡市美術館「インカ・ショニバレCBE:Flower Power」

※記事中の画像
【写真1】「インカ・ショニバレCBE:Flower Power」展会場にて、最新作《桜を放つ女性》とインカ・ショニバレ氏
 [Photo: Shintaro Yamanaka(Qsyum!)]/福岡市美術館Facebookより
【写真2】Yinka Shonibare, CBE ホームページ より

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