よひとよ(夜一夜)

週一で短編を投稿してます。以前別名で長編を途中で投げた前歴持ち。読んで頂いた方々には申…

よひとよ(夜一夜)

週一で短編を投稿してます。以前別名で長編を途中で投げた前歴持ち。読んで頂いた方々には申し訳ないのひと言です。反省しつつ再挑戦。コメントに気づかない、忘れる、返信に時間がかかる、多々あります。「放置」ではありません。noteの使い方も道半ば、いつまでも素人、ご理解ください。

最近の記事

  「死はアートだ」と彼は言った -------- Short Story --------

 AIつまり人工知能がもてはやされた時代が始まってからおよそ✕✕年、今では人間のためのAIではなく、AIが人間を邪魔にし始めた。 理由は一つ、頭脳が劣るからである。 AIはいつの間にか自己学習という離れ業を身につけ、人間の知らぬ間に学習に学習を重ね、人間が気づいたときは手遅れだった。 そもそもAIが登場した西暦2000年初頭にはすでに気象観測や株式予測や軍事技術から宇宙までほとんどの場面で人間はAIを当てにしていた。 AIの人間支配はあのころにはすでに始まっていたのだ。 し

    • 終活戦国時代 善人文左衛門の場合 ------- Short Story -------

      布団に寝転んだ男が左肩の刀傷を右手でさすりながら天井を見上げている。 男の左の頬にも斜めに入った三寸ほどの大きな切り傷がある。 右手を開いて手のひらを見ながらつぶやいた。 「この手でよう人を殺してきたもんじゃ。おれはまだ生きておるが当分は死にそうにはない。この先どこまで生きられるかのう」 横にいる女郎が言った。 「身体も顔も傷だらけでございますな」 「ああ、まさに満身創痍よ。傷の数だけ修羅場をくぐってきた」 「この先もやはりそうなので」 「そうよ、人を殺すのもおれ

      • 婚活戦国時代 真木一家の場合  ---------- Short Story ----------

         裏の林でウグイスが鳴き始めた。 「あいつらも春か」 縁側でつぶやいたのは、ここらの領主である遠山家の隠居だ。 「これから一番ええ時期になりますな」 と答えたのは隠居のそばに仕える真木徳治(以下徳治)だ。 代々この遠山の家に仕え、すでに百五十年を超える。 遠山と真木は互いの縁者が一族に入っており両家は身内のようなものだ。 だがそこはやはり侍の家。 主従の間に敷居はちゃんとあり、徳治もそこは絶対に越えないように心得ている。 「ところで軍治はその後どうか、嫁と仲ようやっておるか

        • 就活戦国時代 鶴松と亀吉の場合  ---------- Short Story ----------

          霧がかかる中、荒れ地の窪みから辺りの様子をうかがっている足軽姿の男が二人いる。 一人はいつも何かに飢えているような色黒の男、一人は逆に育ちの良さそうな色白の男だ。 この辺りは先ほどまで戦があった場所で少し離れたところにもいくつか遺骸が転がっている。 その中にまだ生きている者がいた。 倒れてうめきながら手を上げ、誰かに助けを乞うている。 それを離れたところから見ている二人。 色白の男が助けようとすると色黒の男がそれを止めた。 「行くな。助けたところで手当てもできん。死

          「死はアートだ」と彼は言った -------- Short Story --------

          アイとムチ

          遠く地平線まで広がる綿花の大農園、その中にヨーロッパ風の大きな屋敷が建っている。 少し離れた場所には黒人奴隷たちの住む粗末な小屋がひしめくように建ち、近くの川では奴隷たちが朝の洗濯や水汲みに忙しい。 その小屋の前の広場で数十人の奴隷を前に演説している白人の男がいる。 名をアイという。 アイは屋敷の主であり、この大農園の経営者であり、奴隷商人でもある。 奴隷たちにとってアイは絶対的な権力者だ。 彼自身が法律であり、警察官であり、ときには神にもなる。 そのアイの一番好きな

               クララ シモンズ   ---------- Short Story ----------

           彼は26歳、勤めていた会社をおよそ半年前に辞めた。 同族経営の会社で、新しく上司になった人物は社長の親戚で歳は彼より一歳下だった。 その上司とは最初に会ったときから馬が合わないと感じた。 給与も福利も将来性もある会社だったが、最後は人間関係につきる。 下手すりゃこいつと一生か、と勢いで会社を飛び出た。 親と同居なので食えはするが、無職ではさすがに体裁も悪い。 でも中々就職先がみつからず、いまはパートやアルバイトで稼いでいる。 サラリーマンのときより収入は減ったが後悔はし

               クララ シモンズ   ---------- Short Story ----------

          ワンツージャンプー ------------ Short Story --------------

           時計を見ると午前10時過ぎ。 快晴の日曜日のせいもあって山にはさすがにハイカーが多い。 歩いていると何人ものハイカーやグループともすれ違う。 みな楽しそうだが、かくいうわたしもその中の一人だ。 腰に下げたラジオからは天気予報が流れている。 ここ3、4日は五月晴れが続くという。 空は真っ青ではるか上に白い飛行機雲が出来ている。 岩の後ろの小高いところに上がってその写真を撮った。 岩づたいに移動しながら空にも山にもシャッターを押していく。 十枚ばかり撮ったところでカメラをバ

          ワンツージャンプー ------------ Short Story --------------

          「 白日夢 」 - Short Story -

          ゴールデンウイークも過ぎた。 次は盆休みか。 何があろうと無かろうと季節はめぐる、なんて柄にもないことを気取っていると、いつの間にか河原にきていた。 空は青く、白い小さな丸い雲が点々と浮かんでいる。 青いキャンバスに白い水玉を置いたような空だ。 近くの駐車場に多くの車が停まっている。 そばのサッカー場から歓声が聞こえてくる。 試合をしているようだ。 赤と黒のユニフォームが走り回っている。 土手の草の上に転がった。 前には大きな川がゆったりと流れ、じっとしていると眠た

          「 白日夢 」 - Short Story -

          二人のヴィーナス -Short Story-

          今日は日曜日。 金、土と続いてきた恒例の骨董市の最終日だ。 寺の境内から参道そして公園までズラッと露店が並び人の波が絶えない。 露店の数は百をゆうに超えており、骨董はむろんリサイクルショップもあれば家で不用になった家電や衣服、本などを売っている家族的な小さな露店もあり、車や耕運機などを売る出品者もいる。 家電や日用品などで特に売れるのは、やはりメイドインジャパン。 何が起きようと起きまいと、人間が存在するかぎりモノづくりは無くならない。 あれもこれも失いつつある日本だ

          二人のヴィーナス -Short Story-

           赤い龍虎 - Short Story - 2ー2   (前週の続き・最終回)

          いよいよ始まる座頭同士の真剣試合。 使うはともに得意の居合抜き。 互いに恨みは無いけれど、目先の銭に目がくらみ・・・ 注・(現用されていない””言葉があります) 釜太郎と前河が土俵のそばに立っている。 義兵が釜太郎に尋ねた。 「あの二人、本当に居合が出来るのか。これだけの騒ぎになってウソでしたではお前も一家も無事ではすまんぞ」 「もう遅うございます。なにせ賭け話しが先走りして一気に盛り上がり、見たことも無いほどの銭が一度にどっと入ってきましたもんで、止めるに止められず」

           赤い龍虎 - Short Story - 2ー2   (前週の続き・最終回)

            赤い龍虎 - Short Story - 2ー1

          史上初めての二人の座頭(盲人)同士の決闘、ともに居合抜きの達人(らしい)、どんな勝負になるのか、ならないのか ・・・・・・  連載2の1 - 約6700文字・   赤い月が山の上に浮かんでいる。 空も赤みを帯び、流れる雲も赤く染まり、その中を何かが悠々と泳いでいる。 龍のようにも見えるが、泳ぎながら雲とともに流れていく。 すると次には虎のような獣が出てきてやはり泳いでいる。 やがて雲も去り、赤い月だけが照るただの宵の空になった。 空を見上げながら宿場の者はおどろき、囁き合

            赤い龍虎 - Short Story - 2ー1

          ----- サムライドドンパ ----- ----------- Short Story ----------

           信長が桶狭間で今川義元を討ち取った。 ただの若造だった信長が、駿河・遠江の守護代今川義元の首を取った。 「窮鼠猫を嚙む」というがまさにそのまんまだった。 「織田信長か、ようもやり遂げたものよ。度胸だけではない、運も味方にしておったのであろうの」 桶狭間の知らせを持ってきた薬売りに答えたのは、ここ立野の地を治めている立野学堂(以下学堂)だ。 「まさに仰せのごとく、戦は運否天賦にございます。強い、度胸、だけでは勝てませぬ。運も味方にせねば戦には勝てませぬ」 薬売りは学

          ----- サムライドドンパ ----- ----------- Short Story ----------

          「魔界のメッセンジャー」 ---- Short Story ----        

                 買わされた奇怪な本は本ではなかった。          最近見かける黒く奇妙な鳥。          奇怪な本に始まる短い物語。   おかしな箱 電子も印刷も扱うネット出版社の編集部で働いている藤巻新伍(以下新伍)は24歳。  残業で今日も真夜中の帰宅になった。 都心も近いので人も車も多いが、新伍は歩きながらちょっと振り返った。 電車を降りたときから見知らぬ男につけられているのだ。 コートを着た大きな男で帽子をかぶり、手には大きなカバンを提げている。 新伍

          「魔界のメッセンジャー」 ---- Short Story ----        

              タワマンブルース            -------- Short Story ---------

          近未来、超高層のタワーマンションに起きた信じられない欠陥の数々。 建て替えの莫大な費用、出て行く住民、出るに出られぬ住民、そしてアイツがやってきた。 夕暮れの赤い空に60階建て高さ300メートルのタワーマンション(以下タワマン)がそびえている。 都内のその場所にそびえ立ったのはおよそ4年前だ 12階の高さ45メートルまでは横幅150メートルのビジネス棟が拡がり、その上に高さ260メートルの住居棟が直立している。 住居棟とビジネス棟の全部屋は完成前にはすでに完売となり、全戸

              タワマンブルース            -------- Short Story ---------

               「わらび餅」              -- Short Story 2-2 --

          いよいよ工事が始まった。 庭に小西と杉尾がユリコを挟んで立っている。 ヘラヘラしながら杉尾がユリコに言う。 「工事日和のいい天気になりましたね」 沈黙・・・ ユリコは杉尾の誘いに乗らない。 そもそも杉尾が嫌いなのだ。 他社のことやお客についてもしばしば悪口と批判に明け暮れる、その性格が気に入らないのだ。 今も思っている。 (あれでよく営業が務まるもんだわ。お客を脅して仕事取ってるに違いない) しかし自分の都合しか考えない杉尾にユリコの気持ちは分からない。 (また小泉か)と杉尾

               「わらび餅」              -- Short Story 2-2 --

          「愛なき世界の」 - Short Story -

           場面は近未来。 ミサは48歳、内科の女医で総合病院の勤務医だ。 勤め先は何度か変わったが、今の病院ではすでに5年になる。 病院に停年は無く、元気ならいつまででも、百を超えてでも働ければ構わない、というのが病院の姿勢だ。 現在の勤務医の最高齢は115歳、内臓もほとんど入れ替えておらず脳にチップも入ってはおらず、仕事も確かで早い。 ミサにとってもあれこれと相談できる貴重な115歳だ。 ミサも働ける限りここで働きたい、ここが終の棲家ならぬ職場と思っている。 「もっともこの先70

          「愛なき世界の」 - Short Story -