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-------- クルミとミルク ----------------- Short Story --------

 11月半ばなのに今朝は暖かい。
クルミが目を覚ました。
クルミは小学生、この家の一人娘だ。
クルミがカーテンを開けると窓いっぱいに青空が広がった。

クルミは窓を少し開けた。
カーテンが揺れて外の風がかすかに入ってくる。
小さなアクビをするクルミにわたしは声をかけた。
「おはようクルミ」

「おはようミルク」
ミルクはわたしの名前だ。
わたしはセキセイインコ、クルミの家に来て2年、ケージの中やクルミの横で寝起きしている。

わたしの名前はクルミを逆さにしただけだが、連帯感があると自分で前向きに捉えている。
クルミが部屋にいるときは、ケージを開けて部屋で遊ばせてくれる。
そのときの自由さは、ケージの中にいるものにしかわからない。

だがしょせんは部屋の中だ。
クルミもわたしが外に出ないようにケージを開けるときは窓は閉めている。今朝は窓を開けているのでケージの中からクルミを見ているだけだ。
あれこれ話したいが、なにせ言葉が通じない。

「じゃ行ってくるからね」
クルミはカバンを持って部屋を出た。
しばらくすると玄関のほうで
「行ってきま~す」
というクルミの明るい声が聞こえてきた。

わたしはそのまま外を見ている。
わたしはペットショップで産まれた。
なので青空の下を飛んだことはない。
ずっと鳥小屋か、ケージの中で生きてきた。

そしてある日、売られるためにペットショップに連れてこられた。
数日後のこと、外で人の声がして親子連れが入ってきた。
小さな女の子と両親らしき三人だった。
大人しそうな女の子で鳥のコーナーを見て回り始めた。

鳥を買いにきたことは分かった。
わたしは鳴こうかと思ったが、やめた。
たかがインコの分際でも誇りはある。
鳴いて人間に哀れみを乞うなぞ、わたしの自尊心が許さない。

女の子は熱心に店の中を見て回っていた。
両親は店主とあれこれ話している。
女の子はわたしの前にきた。
おかっぱ頭の髪が、濡れたように黒い。

キレイな黒髪だな、と思いながら見ていた。
丸顔で目も大きくてくりくりしている。
(この子のところに行きたい)
と思ったが、インコの気持ちは女の子には分からない。

女の子はしばらくわたしを見ていたが、何も言わずに離れていった。
もう帰るのか、と思ったときだった。
女の子はこっちへ戻ってきた。
そして、そして、彼女はわたしの前で立ちどまり、わたしをじっと見た。

1分か2分か、よくはわからないが、彼女は両親に言った。
「このインコがいい」
そう言うと彼女はわたしを指差した。
その笑顔が、顔も知らないわたしの母親のように思えた。

その瞬間、わたしは彼女に心を奪われた。
店長の喜ぶ顔が大きくなり、とびらを開けるとそっとわたしをつかんだ。
「大事にしてもらえよ、元気でな」
とささやいてくれたことを今も覚えている。

そして彼女はわたしをじっと見て言った。
「わたしはクルミ、よろしくね」
クルミって名前なのか。
「ボクこそありがとうクルミ」
と言ったが、もちろんわたしの言葉は通じない。

そしてわたしはケージに入れられ、父親の手に揺られながらこの家にきた。
クルミの部屋は二階だった。
女の子らしい明るい部屋でぬいぐるみやどこかの旅の土産や記念写真が入った数枚の額も壁にかけられていた。

そしてわたしの住まいであるケージはクルミの部屋にかけられた。
窓の向こうには大きな道路が走って車のライトが行き来していた。
歩道には夜でも人通りが多く、歩道を歩く人間の声もよく聞こえた。
クルミの家の辺りは賑やかだった。

クルミは優しい女の子だ。
友だちもよく遊びにやってくる。
みんないい子ばかりだが、言葉数が一番少ないのはクルミだ。
だが性格がいいせいだろう、壁の額も友だちと写っている写真ばかりだ。

 そろそろ昼になる。
外は相変わらず青空で秋の終わりのような雰囲気もない。
たまに冷たい風が吹くが、あれは冬の知らせなのだろう。
「そろそろ寒くなるぞ、支度はいいか」

何となく少し部屋が冷たい。
そういえば風が入ってくる。
そうか、ボーとしていたが、窓が少し開いたままだ。
クルミが窓を閉めていくのを忘れていたことに気がついた。

クルミが出かけると、しばらくして母親が上がってくるのだが、今日はまだ上がってこない。
何てこと、こんなこと初めて。
(昨晩は部屋に出てたな)と思い出した。

まさかと思ってとびらを見ると、すき間が、開いているじゃないか。
窓が開いてるだけでなく、ケージのとびらまで開いている。
「まさか、こんなこと」
しかしミルクは同時に思った。

「これは・・外に出られる!」
出るか、しかし、いままで外の空を飛んだことがない。
でも自分はインコ、翼がある。
ミルクはトンとはねると、ケージのとびらのふちに足を乗せた。

とびらから窓まではひとっ飛びだ。
窓から羽ばたけばすぐに空だ。
外の風が身体に当たる。
ケージを抜けて当たる風ではなく、直接当たる。

どうする、まだ考えている。
何しろ生まれて初めて外の世界が目の前にある。
空を流れる雲がわたしが飛ぶのを待っているように見える。
だが、外に出れば二度と帰ってこれないかもしれない。

クルミにももう会えないかもしれない。
でも外とはどんな世界なのか、仲間がいるかもしれないが、敵もいるだろう。
もしも襲われたら、相手がトンビやカラスでは勝てない。

つつきまくられて、くちばしでついばまれ、そのまま食われるか、あるいは巣に持っていかれてヒナたちに寄ってたかって食われるかもしれない。
恐い、どうする、どうしよう、頭の中が混乱してきた。
「ちょっとだけ、出てみようか」

そのときだ、窓べりに何か飛んできて止まった。
外壁の陰から小さな顔が半分見える。
鳥のようだ、じっと部屋の中を見回している。
少し前に出てきた。

丸く黒い目がキョロキョロしながら部屋を見回している。
開いた窓から中へ入る気か。
イタズラしたら許さんぞ。
誰だお前は。

目が合った。
向こうもびっくりしたようだ。
「エエッ鳥がいるのか・・」
てな顔をしているが、よく見ればスズメだ。

まあカラスやトンビでなくて良かったが。
スズメはじっとこっちを見ている。
スズメは口を開いた。
「よう、お前、ケージの中か」

おおっ話しができるのか、
「ああ、そうよ」
「近くへ行っていいか」
断る理由もない。

「イタズラしなきゃいいぞ」
チュン、とひと声啼いてスズメはパタパタと飛んでケージの上に止まった。
わたしを見下ろしながら言った。
「とびらも開いてる、外に出れるじゃないか」

「とびらはいいのだが、窓はクルミが閉めるのを忘れて学校へ行ってしまったのよ。いつもはママが来るんだが、今朝はまだ来ない」
「なら外へ出れるじゃないか、なんでここにいる」
「実は外の世界を飛んだことがない」

「怖いのか」
「うん、怖い」
「なあに、周りにな、気をつけてりゃ大丈夫よ、思い切って出てみな」
「そう簡単にはいかんよ」

「でもケージの中も良さそうだな。餌の心配はないし、雨雪には当たらないし、オレも一度入ってみてえや」
「外から見るのとは違うよ、この狭い鳥かごにいるだけでも大変なんだ。何しろ飛ぶってことがほとんどできないしな。ここではクルミが部屋に出してくれたときだけ、飛べる。それだけだ」

「でもなあ、外の世界も楽じゃないぞ。日照りに暑さに雨に雪に雷もあるし、いつもトンビやカラス、特にタカには気をつけてなきゃならない。日が暮れれば木にとまって闇の中で眠らなきゃならないし、そういうときはヘビに狙われることもあるし」

「ヘビって何だ」
「ヘビも知らんのか、丸くて長くてな、獲物を見つけると身体に巻きついて大きく口を開けて丸々呑み込んでしまう。動いても音も立てず、すぐ横に来られても気づかないやつだ」

「そんなのがいるのか」
「カエルやネズミをよく食ってる。日暮れや夜はアブナイ」
「そいつどこにいるんだ」
「どこにでもいる。通りの向こうの二階家は古いからな、屋根裏に青大将のでかいのがいるよ」

「知らなかった、そんなやつが近くにいたとは」
「世間はな、危険がいっぱいなのよ」
「ヘビはどうやって見つけるんだよ」
「普通は見てもわからんよ。草の中にひそんでいることが多いが、木の枝に登っているやつもたまにいる。食われたら運が悪かったてことよ」

「運次第か」
「運が悪いかどうかはその場にならなきゃわからん。思い切って外へ出てみなよ。その気になればどこまでも飛んでいけるぞ。オレも半日飛び続けたことがあるが、どこまで飛んでもきりがない。山も雲も果てしなく続いてな、海に出ればこれも果てがない」

「海ってなんだ」
「海も、そうか、知らんよな、オマエ・・可哀そうだな」
そう言われてもミルクには”可哀そう”の意味が分からない。
(果てのない空、海か)
そもそも”果て”という言葉そのものも理解できない。

しかしそこはやはり鳥だ。
気づかぬうちに鳥の本能が戻ってきていた。
「外に出てみるか、しかしクルミが帰ってきたとき鳥かごが空だったら哀しむだろうし、黙って消えるのも・・」

「じゃオレがさ、とりあえずケージに入ってやろう。お前飛んでこいよ、帰り道は分かるだろ」
「しかしオレはインコだ。クルミが帰ってきてスズメがいると騒ぎになる」
「余計なことは考えずに飛んでみなよ、こんなチャンスは二度と無いぞ。先でな、あのとき飛んでみれば良かった、ときっと後悔するぞ。そんときは手遅れだからな、それにだな」

「それに、なんだよ」
「オレさあ、実を言うとな、鳥のケージに入ってみたかったんだよ。何の心配もせずに、いつまでもそこにいれる。襲われることも雨風も雪もない、餌はもらえるし、腹でも壊せば面倒をみてもらえるし。ケージにな一度、一度でいいから入ってみたかったの」

「ケージに入りたかったのか」
「そうさ、ケージに入っているものは出たくなり、外にいるものは入ってみたくなるものさ、と年とった仲間のスズメも言っていた」
「でもクルミが・・インコがスズメになってると」

「なら学校から帰ってくるまでに戻りゃいいじゃないか」
「そうだな、クルミが帰ってくるのは午後4時くらいだ。いまは午前11時か」
「5時間あるじゃないか、片道2時間ちょっとか、ずいぶん遠くまで飛んでいけるぞ」
「よし」

ミルクはケージの端を蹴ってパタパタと羽ばたいた。
すぐに窓のヘリに止まった。
下を見ると人間が歩いている。
こんな高さで飛び出すのは初めてだ。

振り返るとスズメはもうケージの中に入っていた。
「ケージにいたせいで外に飛び出すのも要領が分からん」
「飛ぶのじゃなくて、落ちるんだよ。そしたら羽根が勝手に動いてくれるさ、オマエは鳥なんだぞ」

ミルクは全身に鳥の本能が満ちていきつつあるのを感じている。
スズメが言う。
「お前は鳥だ、何のために翼があると思ってんだよ」
「よし、落ちてやる」

というやミルクは窓べりを蹴って外に飛び出た。
パタパタと羽ばたきながら落ちていく。
たが、すぐに羽根がミルクを押し上げていった。
ミルクが上に上がっていく。

パタパタとまだ不格好だが、青空へ向かって上がっていく。
「がんばれよ~」
と下のほうでスズメの声が聞こえてきた。
白い雲も応援してくれている。
「こっちだ、こっちだ、もっと必死で羽ばたけ、もっとだ」

ミルクは必死で羽ばたく。
産まれて初めての外の空だ。
その解放感は想像以上だ。
前にも後ろにも何も無い。

飛んでる、確かに飛んでいる、それも自分の羽根で。
ミルクは飛びながら泣いた。
「これが、これが、本当のオレの空だ、クルミにはまた会えるだろう。とにかくずっと先まで飛んでみよう」

だがまだ飛び慣れていないせいで力がなく、段々と下がっていく。
自分でも分かる。
「慣れていないからなあ」
家の屋根や軒先に止まりながら進んでいる。

向こうに何か大きな大きな何も無い池が見えてきた。
その向こうはかすんで空だけだ。
「これが海なんだろうな、とてつもないほどの池だ」
下にはどこまでも砂浜が続いている。

 そのころスズメは鳥かごの中で止まり木に止まって休んでいた。
「ああ、気持ちええ、タカもトンビもいねえし、ヘビもいねえ。ケージも思ってたほど気にもならねえし、何よりも守ってくれているという安心感のほうが強いわ。

待ってりゃ餌が勝手に届くし、夜だって平気だ。
あ~ケージがこれほど安心できるところだったとはな、以外だった。
これだから何でも経験してみなきゃ分からねえわ。
おや、アイツの餌が残ってる、もったいない、食っとこう」

 ミルクは海岸のそばにある森の上を飛び回っている。
「この楽しさ、自由だ、自由だ、自由がこれほど楽しく嬉しいことだったとは、想像はしていたけど想像以上だ。周りの景色も空も何もかもがサイコー!」
嬉しくなってヒョーッと空中で一回転した。

「ヒャ― 面白い、面白い」
そのとき目の端に何か黒く大きな影が見えた。
ゆっくり飛びながら見ると、影は羽ばたきしながらミルクをじっと見ている。
スッと近づいてきた。

でかい、ミルクとは比べ物にならないでかさだ。
ミルクが構えると向こうも少し様子が変わった。
声をかけようとしたが、何て言えばいいのかわからない。
向こうがミルクに話しかけてきた。

「こんにちわ、見かけない顔だな、色も派手だし、誰だお前は、どこから来た」
声が野太く大きくそして怖い。
足の大きな爪がすぐその目の前に浮かんで今にもミルクをつかみそうだ。
「わたしはインコです。あなたは大きいけど、誰ですか」

影はミルクが森に入るのを塞ぐように周りをグルグルとゆっくり回りながら答えた。
「オレか、オレはタカだよ。この辺りはオレの縄張りだ」
ミルクの身体に寒気が走った。

(タカ、スズメが言ってたやつだ)
これは襲われる、とミルクはすぐに分かった。
「タカさんですか」
「そうよ、オマエはどこから来た」

「人間の家にいるんだけど、今日は外に出られたもんで」
「人間に飼われてんのか、それで肉付きがいいんだな」
タカはミルクの全身をなめるように見ている。
ミルクを食いたいらしく、そのチャンスを狙っているようだ。

ミルクは必死で言った。
「ボクはたまたま外へ出られたので、ここまで来たんです。もうそろそろ帰らなきゃ」
「まあ急がなくてもいいだろう、ちょっと遊んでいけよ」

「また来ます、今日は急ぐので」
「だから遊ぼうて言ってんだよ。付き合えよ、面白いところへ連れてやるから、な」
「じゃあそこへ行って見たい」

「どこだ」
タカがミルクから一瞬目を離したすきに、ミルクは一気に森へ向かって降下していった。
「ああ、このヤロー、騙したな、逃がさんぞ」

というタカの声が後ろで聞こえた。
タカがザーという音を立てて追いかけてくる。
飛ぶ速さは勝負にはならない。
ミルクは背中に大きな衝撃を感じた。

タカの足の爪が背中をすべった。
ミルクが小さ過ぎて爪がすべったようだ。
ミルクは2,3枚の羽根を散らしながら森へ突っ込んでいく。
タカはくるっと回って態勢を立て直すと、一気に追いかけてくる。

一番近い木に一番近い木の陰に。
ミルクは木陰にすべり込んだ。
続いてタカが森に突っ込んだ。
辺りで他の鳥が鳴き、鹿まで声を上げた。

タカが森の中をゆっくりと飛んでいる。
ミルクは隠れている。
「あのヤロー、どこへ行きやがった」
しかし森は広く辺りは薄暗い。

タカはサーと大きな木の枝にとまって辺りを見始めた。
そのすぐ後ろにミルクはいた。
葉の陰からじっとタカを見ている。
タカは中々飛ばずに、じっとしている。

ミルクの姿を探している。
ミルクもじっとして気配を消している。
すると後ろに何かの気配を感じた。
(今度は何だよ)

ゆっくりと振り向くと何やら小さな頭がじっとこっちを見ている。
小さくて黒い目にじっと見られている。
頭の後ろに丸くて大きくて長い木の枝のようなものがぬるぬると動いている。
ミルクはこれがヘビかと知った。

「ええっ、こいつもオレを」
気配を感じたのか、タカがミルクのほうを見た。
(タカに気づかれたか)
タカは枝の上をすべるように音もたてずにこっちへ近づいてくる。

前にタカ、後ろにヘビ、ミルクは絶体絶命になった。
恐ろしくなって飛ぼうにも飛べない。
そのときだ、タカはスッと枝から離れ、さっとミルクの上を飛び越え、後ろにいるヘビの頭を足でガツッとつかんだ。

ヘビが暴れるが、タカに捕まえられたらもうおしまいだ。
タカはヘビをブラ下げてミルクの目の前を飛んだ。
そこでミルクと目が合った。
タカが叫んだ。
「ああ、このヤロー、そこに」

と口を開けたときにヘビがタカの足からツルっと落ちた。
タカはアアッと叫びながらヘビを追いかけていった。
肉はほとんどないミルクより、ヘビのほうが肉が多いのが幸いしたようだ。
背中が爪で傷つけられて痛いが、そんなことも言ってられない。

ミルクは必死で森を出てクルミの家のほうに向かった。
「早く帰らなきゃ、外もええけど怖いし恐ろしいところだ。これじゃ命が幾つあっても足らない、早く帰ってあのスズメを追い出さなきゃ」
通学路が見えてきた。

みんな家に帰るところだ。
「ああ、いた、クルミだ。4人、友だちと一緒か」
家はもう近い。

 そのころ家では、母親が二階に上がってきた。
日に一度はクルミの部屋に入って掃除をするのが日課だ。
ドアーを開けて入ってきた。
「まあ、窓を開けっぱなしにして」

母親はケージを見ながら言った。
「今日はおはようではなくてこんにちわだね、寂しかっ・・・」
母親は口を開けたまま、啞然としてケージを見ている。
「な、なによアンタ、どうしたのその身体の色は・・・エエッ エエ?」

スズメはつい鳴いた。
「チュン」
「あんた、スズメ・・じゃないか・・なんでスズメなのよ・・ミルクはどこへ行ったのよォ」

母親は「イヤー」と叫んでバタバタと大きな音を立てて一階に下りていった。
その声は窓に近づいていたミルクにも聞こえた。
「ありゃママの声じゃないか、えらいこっちゃ」
バタバタと窓のふちに足を乗せた。

「おう、早かったな、どうだい外の雰囲気は」
「いまの声はママだろう」
「だろうな、オレを見ておどろいてた、そりゃそうだろう、インコがスズメになってたんだからな、ハハアハハ」

「クルミももうじき帰ってくる。お前もう姿消してくれよ」
「ああ、いいさ、ママもあの様子じゃ餌もくれないだろうしな」
「またくるわ」
スズメは外へ飛んでったと思ったら、すぐに戻ってきた。

「なんだよ、オマエ」
「オレもここにおるわ。いいだろ?」
「まあ、ええけど、しかし、みんなおどろくぞ」
「外はどうだったい、楽しかったかい」

「いや、また話してやるよ」
「おい、下で人の声がしてるぞ」
「ああ、クルミが帰ってきたんだ」

バタバタと階段を上がってくる大きな音が響いた。
「二人で上がってくるぞ」
「うん・・」
クルミとママがドアーから同時に入ってきた。

ママは顔が引きつっている。
「クルミ、見てごらん」
クルミはまだ事情が分からない。
クルミが言った。

「ミルクいるじゃない・・・・横は 何よこれ、これ・・スズメ!?・・なんでここに・・スズメが」
ママが言った。
「さっきはスズメだけだったのに、なんでミルクがいるのよ、どうなってんのよ」

クルミが言った。
「ミルクの背中、何か引っかかれたみたい」
ママも同じだ。
「確かにね、ケガしてる」

クルミとママは、スズメがミルクに何かしたんだろう、と思った。
クルミがスズメに言った。
「あんたがミルクの背中を傷つけたんでしょ?」

するとミルクとスズメは一緒に首を横に振った。
「 エッ・・・ ?!  」
二人と二羽は黙ったまま互いを見ていた。

週明けから全国的に寒くなるそうだ。


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