感情教育
1/1
実家に行く。
相変わらず両親との距離感が掴めないまま、お互いに探り探りな関係。しかしそういうやり取りも含めて心が安らぎ、居心地よく過ごす。
弟夫婦や従兄弟も来て、私は思う存分すき焼きを焼き続けた。焼き奉行を発揮できるので嬉しい。
そして地震が起きた。
私は弟たちと実家を抜け出し近所を散歩していた。コンビニに入り会計を済ませ、駐車場に出たところだった。
みんなのスマホからアラートが鳴っていた。当たり前のような日常も、ある日突然壊れてしまう。怖くなった。
振袖や袴を着たタレントさんたちが出る、ゆるいテレビ番組が恋しかった。NHKのアナウンサーさんたちは緊迫した口調で避難を呼びかけている。
家族や親戚に囲まれた実家でなかったら、私はまたどうにかなっていただろう。
自宅に帰り、地震が来る前の写真と来た後の写真を見比べた。私は明らかに動揺と興奮をしている。
体ががちがちに緊張している。なかなか寝付けなかった。
1/2
去年のスナップ写真を見返している。
完全に私の主観であり、今日まで続く日常が脈絡無く写っている。何の変哲も無い私の生活だった。
大きな地震やら火事やら、もしくは私の体調の変化やら、そんな物事が起きれば一瞬で消え去ってしまうものばかり写っていた。
伊集院光さんのラジオが沁みた。
毎週の放送が私の心の支えになっている。欠かさず聴くようになったのは10年ほど前からだろうか。もはや私の一部である。
1/3
女の子たちと初詣へ。
御神籤の「縁談」の欄には『両親の商談を得よ』と記載してある。怖くなったので結んで帰ってきた。
1/4
訃報が届く。
一人で居るのが耐えられない時と、何がなんでも一人っきりで過ごしたい時の差が激しい。今日は一人で居たい。
いろんな感情が私の中を駆け巡っていく。いつもはぼんやりと感じているだけだが、紙に書き出してみる。
去年のスナップ写真を見た元夫が「とてつもない孤独を感じる」と言っていた。こんなに毎日楽しいのに、私は常に孤独を抱えて生活していると思うと悲しかった。一緒に居る人たちにも、その印象を与えているに違いない。そして誰も悪くない、私が勝手に閉じこもっているだけだ。
感傷的になり、大好きな写真家さんのwebサイトを隅々まで見直す。
なんだか涙が出てきた。明日は旧友たちに会える。私は彼女たちを大切にすると決めている。
1/5
旧友たちと過ごす。
よく笑えたので良かった。私についての理解度が高くて、なんだか安心した。
1/6
友人の告別式へ。
1/7
「女神の継承」を観る。
この頃は映画を観ること自体から離れており、更にホラー映画は意識的に避けていた。本当に怖くて仕方ないのだ。
以前は薄笑い的な態度で鑑賞していたのだが、同じ心持ちには戻れないかもしれない。
でも今日この作品を観て、映画を観る喜びを思い出した。私はもともとこういうものが大好きなのだ。
1/8
「ファイブ・デビルズ」を観る。
久しぶりに「この登場人物は私だ」と思う。ヴィッキーの眼差しが美しかった。
映画の感想サイトは滅多に閲覧しないのだが昨日今日と見に行く。人に見せる予定がない、自分だけの記録として書いている人が多いのだろうか。取り繕っていない言葉が並んでいて良かった。
ヴィッキーがパブでかけていた奇妙なきらきらのサングラスを探して購入した。
1/12
母とオルゴールを見にいく。
お土産売り場にぬいぐるみのオルゴールが売っていた。「あなた、こういうぬいぐるみをたくさん持っていたね」と言われる。
確かにたくさん持っていた。そしていつの間にか身の回りから消えていた。実家にまだあるのだろうか、それとも私が捨ててしまったのだろうか。両親が処分したのかもしれない。
「買ってあげようか」とも言われたが、捨てる時が怖いので要らない、と返事をした。
1/13
マットレスを買う。
地に足をつけて生活をしようと覚悟を決めた。手始めにちゃんとした家具を買ってみる。今までは地べたに布団を敷いて寝ていたが今日からは違う。
マットレスを買ったことで何か変わるのかと言われたら特に何も変わるはずも無いのだが。
1/14
マットレスが大活躍をしている。
フローリングに直置きだった布団とは雲泥の差で温かい。
えっちな写真を撮る用に、マットレスの横に鏡を置いた。そして、ぬいぐるみは要らない等と数日前に言ったばかりなのに購入してしまう。
めずらしく不安やさびしさを感じない日だった。よく眠れるといいと思った。
1/16
月一の医者へ行く。
定期報告の他に、この頃の鬱屈とした心情についても伝える。前よりは感情豊かになってきたので、今後は加減を出来るようになるといいですね、と言われる。とりあえずは前に進めているようでほっとした。マイナスの感情を感じることが出来ないと、プラスの感情も味わうことも出来ないとも言っていた。
毎日泣いたり笑ったりして疲れるが、それはとても幸せなことだとも思った。
人を癒したり寄り添っていたいという願望もあるが、そんなことは出来るはずがない。まずは自分の心身の健康を優先させようと決めた日だった。
1/19
「哭悲/THE SADNESS」
「ニューオーダー」
を観る。
計らずとも似たような作品を続けて観たことになる。どちらも好きだが、「すっごく良かった!」と人に薦める事はない。
1/20
昨晩は寝付けず、ばかでかいマットレスの端っこでもたもたしながら夜を過ごす。
昼は女の子が我が家に来てくれる。
人を撮る時はいつだってどきどきする。でも今日のどきどきは特別な気がした。
前から撮りたいと思っていた人を撮れて私は幸せだ。
人前で裸になって写真を撮られる、なんて、勇気があるどころの騒ぎじゃない。撮らせてくれることに感謝した。
今日は終日雨が降っており、光が均一的だった。優しくなめらかな光が合う、美しい表情と肌だった。
裸の女の子を目の当たりにすると、美しくて感動すると同時に、とても怖くもなる。少しだけ涙が出てくることもある。
全ての物事がものすごい勢いで過ぎていく。その速度に圧倒されるが、一瞬を写真で残すことが出来る。見返して反芻することも出来る。
足りないものばかり数えて過ごしていたが、私は充分足りていると思った。
それと、先日購入した猫のぬいぐるみについて。
大変に可愛がっている。自宅で作業する時は膝に乗せ、就寝時は枕に並べ、仕事に行く前は日当たりの良い場所に寝かせている。
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