見出し画像

雨と影

5/28


以前住んでいた部屋が貸しに出されている。
賃貸情報サイトに載っているのを見てしまった。お金を出して引っ越しをすればまたここに住むことも出来る。でもそれは絶対に無いだろう。
思い出にするには重すぎるし、懐かしむには早すぎる。

5/29


起きたら11時だった。
眠ったのが25時だったと記憶している。体力の限り寝てしまった。

自分の影が濃く見えて怖くなる。たまに過ぎる影の濃さに驚く。

5/30
運転免許の更新へ。
講習を受けたのだが、私以外の人はパイプ椅子にジッと座っていた。なんでみんな座っていられるのだろうと不思議に思いながら、常にガサゴソしていた。一番後ろの椅子に座ったので他の人に迷惑にもならないかと思い、たまに少しだけ立ち上がってみたりもした。そうでもしないと2時間の講習を受けていられないのだ。土地15分間の休憩もあったが、そのまま帰ってしまいたいくらいだった。
スマホを触ったり居眠りをしたら退室させられるらしいが、落ち着きがない分には構わないようだ。不幸中の幸いだった。

私は人の話し声を聞きながら文章を書いたり読んだりすることが難しい。こういう状況に立たされると途端にジッとしていられなくなる。シンとした場所で読み書きをするのは平均程度には出来た。学生時代からそうなので、授業についていくのに苦労した。

久しぶりに嫌な体験をして変な汗をかいた。
流刑地に自ら赴き半日拘束されるのと引き換えに、微妙な顔写真を貼られた免許証を渡された。

5/31

上半期が終わるとのことで振り返ってみる。
お嬢さんやお兄さんを撮りまくり、友人たちからの家族写真やお誕生日ヌードの依頼も増えてきた。好きな人たちを撮れるのが嬉しく、頼りにされると誇らしい。これからも真面目にコツコツと撮っていこう。

人に寄り添える写真を撮りたいな。派手じゃない、変わったことをしない、ふとした瞬間のきらめきを大切にしたい。

6/1


服を着て座っている仕事をする。
おねえさんたちが楽しそうにおしゃべりしながら絵を描いていた。なんでもないおしゃべりを聞くのが好きだ。今日で一区切りになるので、少し寂しい気持ちになる。

よく撮らせていただくお嬢さんに写真展の案内をする。見てもらえるといいな。

6/2

台風で大雨。
数寄屋造りの瀟酒な建築は雨の日にぴったりだ。
お嬢さんの肌に浴衣がしっとりと重なっていた。浴衣に体温が移っていくのを感じた。きれいだと思った。

日本家屋には直線しかない。欄間の飾りに少しだけ曲線が掴まれていて、そのバランスが居心地良かった。
美しいシンプルな建物に立つお嬢さんの姿を息を潜めて撮った。
派手な装飾は不要だと改めて確信する。


雨なのでタクシーで移動をする。
今日のタクシーの運転手さんはとても良かった。敬語で話し、領収書は必要か確認してくれた。全てのタクシーの運転手さんがこの人だったら良いのにと思った。

6/3


久しぶりに会う女の子とシーシャへ。
話は尽きないしもっと一緒に居たいけれど、名残惜しいくらいで解散。
家に帰りたくなくて散歩がてら歩いた。


6/4


伽十心くんのイベントへ。
久しぶりの朗読をする。自分の喋り方や声の出し方が、自分で思っているものと違う。違和感を正すのも難しいので受け止めることにする。声の表現は私には難しい。声が好きだと言ってもらえたので良かった。

伽十心くんとは居心地の良い距離感があり、長い付き合いが続いている。詩を送ってもらい初めて読んだ時、私の域にぐっと踏み込んできたと感じた。何回も読んでいるうちにそれは消えていったけれど、あれは何だったのだろう。


ちらっと見たときの友人たちの横顔や何気ない相槌、癖のある笑い方、全てが宝物のように思える。
布団の上に寝転がり、楽しかったことを思い出す。そういえば、一日の終わりに1人反省会をしなくなった。「余計なことを言わなければ良かった」「どうしてあんな態度をとってしまったんだろう」等である。
今の私の脳裏をよぎるのは今日あったささやかな美しいことだけだ。

たまに過ぎる影がこれ以上濃くなりませんように。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?