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夢 ー時空を超えて 2の5ー

ジョアンナは、警官の後ろにいる私を見ると「あっ!」という顔をしたが、すぐに「今回は大変だったわね」と優しく声をかけてくれた。

中へ誘われ、目を伏せながらエンタランスのドアをくぐる。まだ中高校生位の男の子と女の子がリビングで何やら話し込んでいた。私が中に入ると2人はやおら立ち上がり、女の子はためらいがちに挨拶してきたが、男の子はそっぽを向いていた。
ジェフリーの娘と息子だとすぐに分かった。

その男の子はジェフリーにそっくりで、思わずまじまじと見つめてしまった。後から入ってきたジョアンナが、「彼にそっくりでしょ?性格もそっくりなの」と少し悲しそうな顔をした。

私がその日ニュージャージーのジェフリーの家に呼ばれた理由は、彼の死装束に彼が好きだった日本で買った着物を着せたいのだが、着せ方が分からない。トモコだったら日本人だし分かるだろう、それに今日はジェフリーの亡骸が自宅に帰る日だから、顔を見せてあげよう…この様な流れからだったらしい。

ジェフリーの亡骸に会う前に、もう1人の黒人女性を紹介された。ジェフリーの妹のジルだった。

私は会った事は無かったが、ジェフリーはよくジルの話しをしていた。彼らは年子で、お互いをよく知っていたし尊敬し合っていた。ジルがダンスパーティーに来て行くドレスをジェフリーがあつらえたり、ジェフリーのお誕生日に、大好きな絵を描く道具をジルがプレゼントしたり、本当に仲の良い兄妹だった。それだけに今回の自殺にジルは計り知れないショックを受けていた。

ジルは私を見て複雑そうな顔をしたが、彼女が連れて来ていた4歳になる娘のジャスミンは、日本人を初めてみたせいか、興奮気味に She is beautiful! と大きな声で言ったので、場がいきなり和んだ。クルクル巻毛で大きな瞳の本当に可愛い女の子だった。

そして、ジェフリーが安置されている部屋に入る。あの部屋で倒れていた姿を見て以来、随分と時間が過ぎた様に思えた。彼はうっすらと微笑んでいる様な表情をしていた。

着物は普通左前だが、亡くなった人は逆の打ち合わせになる事を伝え、どの様に着せるかをジョアンナに話した。

そのやり取りをしながら、ジョアンナとジェフリーはもう長いこと別居していたこと、原因は彼の鬱であったこと等をポツリポツリと話してくれた。

ジェフリーは鬱が酷くなると、誰も周囲に寄せ付けず、ある日誰からの目にも触れられたくないとクローゼットの中に身を隠した彼を見て、ジョアンナは別居を切り出したと話していた。それこそ何年もの間、彼女は苦労して彼に良くなって欲しいと寄り添って来たが、その時、もう無理だと諦めたのだと。。

その話しをしながらジョアンナは気が昂って来たのか、着物を持つ手が震えてきた。顔を上げて彼女を見ると、大粒の涙がとめどなく溢れていた。私は黙ってうつむくしかなかった。

私を送ってくれた警官は、別の場所に行かなければならないから、他の人が来て私をマンハッタンまで送ってくれると言い残して、ジョアンナの家から去っていった。

暫くして、ジェフリーの同僚で、私も仲の良かったジョンが迎えに来てくれた。身長190近い巨体のジョンは、いつも金髪をクルーカットにしていて、いかつい身体に綺麗な青い眼を持つ優しい人だ。

彼に会えて緊張の糸が切れ、気がつくと立っているのもやっとだった。ジョアンナとジルにお葬式の日取りと場所を確認して、私たちはその場を辞した。

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