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夢 ー時空を超えて 2の2ー

その日は何となく朝から落ち着かなかった。
語学学校で同じクラスになり、その後も何となく気が合い、なにかと一緒に行動していた友人が妊娠してしまい、掻爬にいく日だった。

私達は彼女の妊娠を聞いた時思わず喜んで歓声を上げ、彼氏も産んで貰うつもり満々だった。
だが、周囲のそんな声は彼女には届いておらず、いつの間にか手術する病院を決めてきていた。

当日、彼も彼女の妹も仕事でどうしてもスケジュールがあかず、私が付き添うことになった。彼女とクィーンズにある病院に向かいながら、何でこんなに胸騒ぎがするのだろう、今からサヨナラする小さな命がテレパシーを送っているのだろうかと思った。

病院は小さいけれど清潔なところだった。
受け付けを済ませ、名前を呼ばれ、彼女が手術室に入ると手術自体はあっという間で、その後麻酔が覚めるまで1〜2時間横になっていて貰いますと指示された。

簡素な待合室でぼんやり待っているうちに、不安な気持ちが押し寄せてくる。
ただ待っているのも辛くなり、ジェフリーに電話をしてみようと公衆電話を探した。

ジェフリーの勤め先はEMS(Emergency medical service)で、彼は救急医を勤めていた。馴染みの電話番号にかけると女性が出て、彼は今日休んでいると言う。シフトは今朝からのはずだけど?と聞いたら、彼女は誰かの代わりで入っているので、ジェフリーのシフトはよく分からないと言われ、礼を言って電話を切った。

自宅のアパートに電話をしてみる。
出ない。
訳の分からない不安が雨雲の様に押し寄せてくる。

今までも彼が職場におらず、家にいない事もあった。でも、こんなに心が騒ぐことは一度も無かった。

不安を抑えて待合室に戻り、暫くしたら友人に会って良いと言われ、ベッドのある部屋のドアを開け、ベッドの仕切りカーテンをそっと開ける。

彼女は横になったまま私を見ると、「終わったの?」と小さな声で聞いてきた。私が頷くと毛布を引き上げ、身体を震わせ声を出さずに泣いていた。彼女の身体がいつもより細くか弱く見えて、思わず窓外に目を移し、気がついたら私も一緒に泣いていた。

彼女が落ち着いた頃を見計らい、会計を済ませ、タクシーに乗り込んでマンハッタンに戻る。
彼女のアパートに戻り、ベッドで休ませて、帰って来た妹に後を頼んで外に出た。

外に出るなり、クォーターを握りしめて公衆電話を見つけ、即刻彼の自宅に電話をかけるが、相変わらず呼び出し音がなっているだけ。そのままレキシントンから1st. AVに出て、彼の住むアッパーイーストへ向かった。

1st.AVと76th.st の交差点を、Av.Aの方向へ曲がったところに彼のアパートがある。

私は部屋の鍵は預かっていたが、一階のエンタランスの鍵を持っていたか?記憶が定かでは無い。いつも入り口のブザーを鳴らし、解錠してもらっていた様な気がするが、その時は気が付いたら彼の部屋のドアの前に立っていた。

鍵を差し込み開けようとしたら、ドアに鍵がかかっていなかった。
そっとドアを開けて中を伺うと、薄暗い部屋の中に人の気配は無い。
なんとなくホッとして中に入り、キッチンの方を振り返った時に、キッチンの前でお気に入りのガウンを羽織ったまま、うつ伏せに横たわるジェフリーの姿が見えた。

近づいて顔を見る。
目は瞑っている。
そして…

横たわるジェフリーは

息をしていなかった。

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