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夢 ー時空を超えて 2の1ー

1994年から2年間、私はNYにいた。最初の1年は語学学校で、その後の1年はアートスクールで、人生の夏休みの様な時間を過ごした。

他の人よりは出遅れた留学だったが、私にとっては just on time、ピッタリのタイミングだったのだと思う。

働いてお金を貯めてからの留学だったので、授業は真面目に出るし、良く勉強した。それでも日本人が多いNY、ややもすると日本人社会に取り込まれてしまうので、出来るだけ日本人社会とは距離を置いて暮らしていた。

そんな中で親しくお付き合いする人が現れた。頭が良くて、アーティストで、美しい瞳を持つ黒人のジェフリー。アッパーイーストの彼のアパートメント、グリニッジヴィレッジのカフェ、セントマークスの細い道、彼と過ごした街並みがくっきりと瞼に焼き付いている。

初めての待ち合わせは、ミッドタウンの図書館の前のライオンの像の前だった。ライオンの像は狛犬の様に2匹セットになっており、そのライオンの"笑っている方"で待っていると言われ、そのお茶目さに吹き出してしまった。

付き合い始めた頃には分からなかったが、彼は鬱で苦しんでいた。いつもは優しい、本当に周りを気配り、私の下手な英語に辛抱強く耳を傾けてくれた。

ところが一旦調子が悪くなると、人に会えず、一緒にいても自分の世界に入り込み、私の姿は見えていない様だった。しばらくするうちに、電話での声、ドアを開けた瞬間に、彼の調子が分かる様になっていった。

クリスマスの近いある日、彼のアパートでバスタブに浸かっていたら、彼がバスルームに入ってきた。スポンジに石鹸の泡をつけ、それで私の腕を優しく擦りながら、”The most important thing is you. Here is just like a prison, so I have to release you. I love you”

その言い方があまりに穏やかで優しくて、私は心から幸せで、それでいて物凄く不安になったのをありありと覚えている。

その翌日に、彼は自ら命を絶った。

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