夢 ー時空を超えて 2の4ー
家で待っていると、警察官が訪ねてきた。普通にジャケットを着た、茶色い髪をした細身の白人の男性で、一緒に出かけるから支度をしなさいと言われた。
私はと言えば、泣き腫らした顔、ボサボサの髪、くたびれたスェットを着ていたので、少し待って貰って大慌てで身支度を整えた。
一緒に階下に降りて外に出ると、路上に車が停めてあり、それに乗る様に指示されたので、通りを回り込んで右側の助手席に座った。車はすぐに走り出した。
走り出して暫くすると、その警官は自分の名前を名乗り、これからニュージャージーに行くと言う。「君に伝えておく事が2〜3ある。これから向かう先はジェフリーのニュージャージーにある自宅だ。そこには彼の奥さんと子供が住んでいる」
そう言って、私の方をチラッと見た。
ジェフリーと付き合い始めたばかりの頃、家族はいるのか?と聞いたことがある。その時彼は、「僕は結婚していて、妻と2人の子供がいる。だけど数年前の国内の飛行機事故で、彼らは死んでしまった」と私に話したのだった。
アメリカの国内ではセスナ機が墜ちたとかは聞かないでもないが、ローカルであってもそんな大きな飛行機事故があれば、日本でも取り上げられるに違いない。聴きながら、ウソだろうなぁと心の中で思ったが、小さく頷いて受け流した。触れたくない事には触れなくて良い。そんな気持ちだった。。
そして、その年の夏休みに、ジェフリーは私には内緒でどこかへ旅行しようとしていた。その時の旅程表が机に置かれていて、何気なくのぞいてみたら、ジェフリーと奥さんの名前が書かれていた。結局彼は旅行には行かなかったし、私に説明もしなかった。私は何も見ていない、と、心の目を固く閉じた。
ジェフリーが亡くなった時、私のアパートの住所、学校、電話番号、パスポート番号、色々と聞かれたのだが、その時ジェフリーの事も聞かれ、事実はどうあれ聞いたままを話したのだった。
「別居してもう何年にもなるそうだが、ニュージャージーの自宅には奥さんと2人の子供がいる。飛行機事故などは無かったんだ。」警官がそこまで一気に話した後、車内は気まずい沈黙で満たされた。私はようやく顔を上げ、小さな声で「知っていました」と答えた。
その後彼は、ジェフリーの死は自殺と認定されたこと、死因は、多量の血圧降下剤と強いアルコールを一緒に飲んだ事により引き起こされた心臓マヒだと説明してくれた。
私は頷きながらも、心の中ではジェフリーをこの世に引き留めておけなかった自分を責め続けていた。一旦引いていた悲しみがまた押し寄せて来て、気がついたら声をあげて泣いていた。
警官は困った様に横目で私を見ていたが、車を一時停車して、私にティッシュやハンカチを渡し、落ち着くまで待っていてくれた。暫くして落ち着いて来た私を見てから、再度車を出した。
「悲しい時には泣いたらいい。その感情にフタをする必要は無い。でも、泣くだけ泣いたらまた前を見て、自分のために生きていかないといけないよ。」そう言って、ハンドルを握っていない方の手で私の頭を撫でてくれた。
ニュージャージーに着いた。
ジェフリーの家に着いた。
ドキドキしながら警官の後に続き、ドアの前に立った。ドアベルの音。。。
暫くしてドアがゆっくり開いた。
長い癖毛の髪を無造作に束ねた、ふくよかで美しい黒人の女性が目の前に立っていた。
ジェフリーの妻、ジョアンナだった。
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